出張の合間に、世界遺産ポルト歴史地区で過ごす1日半
- 文 小川フミオ
- 2017年12月6日
“ここ好きだ!”と一瞬にして思える街がある。ポルトガルのポルトはぼくにとってそんな場所だった。フランシスコ・サ・カルネイロ空港(ポルト空港)に入ったのが夕方だったせいもあり、街が夜の化粧をしはじめていた。黄色のライトアップもさることながら、大衆的なレストランは蛍光灯。その雰囲気が昭和生まれには胸に迫るものがあるのだ。
岩盤の上に造られた港湾都市であるポルトは異国情緒にあふれ、それでいて外国人に慣れているという観光都市のいい面を備えている。坂の多い地形に教会などが並ぶ歴史地区はユネスコの世界遺産に登録されているぐらいだ。
ポルトガル北部に位置し、拡大する郊外も含めたポルト大都市圏の人口は約128万人(2011年調べ)。ポルトガルではリスボンに次ぐ都市という。観光客には、古い街並み、大きなドウロ川が流れる景観、美食、それにアートといった魅力にあふれている。
ワインが好きならレンタカーを借りれば内陸部のワイナリーまで短時間で行くことができる。さすがに市内は混んでいるけれど、平日の高速道路はガラガラ。道も複雑ではないのでドライブもポルトでの楽しみに加えていいと思う。
ぼくは出張と出張の合間にこの街で1日半を過ごすことになった。夕食から始まって翌々日の朝食までである。過去に訪れたことがある街だけれど、ゆっくり歩き回ったのは初めて。
東洋人の若い女の子のひとり歩きをよく見かけた。ひとりで歩いても怖くない街だけれど、この美しい場所にひとりは寂しい気分になってしまう。
そう思うのはとくに食事時だ。ぼくは初めての土地ではさりげなくテーブル間を歩き回り、他人が食べているおいしそうなものを見つけることにしているのだが、「あれも食べたい」「これも食べたい」となっても、ひとりでは難しい(涙)。
もうひとつ、この街での夕食をより楽しむための方法がある。まずバルで落ち合ってアペロ(食前酒)と軽いつまみを食べ、たっぷり会話をしてから、しかるべきタイミングでレストランに行くのである。南欧に行ったひとならよくご存じのスタイルだ。
おやつも充実している。菓子パン屋が街のいたるところにある。とりわけ有名なのは日本でもはやったマラサダ(揚げパン)とパステル・デ・ナタ(エッグタルト)だ。店先のショーケースの照明で黄色いエッグクリームの色がじつにきれいで、“食いしんぼ”は引き込まれてしまう。
少し足を延ばせば現代美術館などもあるが、今回は時間が限られていたのでもっぱら旧市街を歩き回った。世界で最も美しい本屋(3番目とも)といわれる「リブラリア・レロ(Livraria Lello)」の木造のらせん階段や、1767年に監獄と裁判所として建てられた建物を使った「ポルトガル写真センター(CPF)」など観光客には見るものが多い。
気候も温暖で冬季でも気温が10度を下回ることはないようだ。物価もドイツなどに比べると感覚的には3分の1ぐらい。マラサダとパステル・デ・ナタとコーヒーで2ユーロだった。
「南ドイツ」のアナログ盤にひかれて、ぶらりと入ったレコード屋(中古レコードは10ユーロていどでパリより高い)で教えてもらったが、クラブも充実しているらしい。あれ? これはしめくくりになっていない。この街の魅力はここでしめくくれないほど多くあるということなのだ。

PROFILE
- 小川フミオ(おがわ・ふみお)
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クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。「&M」ではクルマの試乗記をおもに手がけていますが、グルメ、旅、ホテル、プロダクト、建築、インタビューなど仕事の分野は多岐にわたっています。クルマの仕事で海外も多いけれど高速と山道ばかり記憶に残るのが残念です……。