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オープンしたてのイヴ・サンローラン美術館へ パリ アート旅(1)

  • &TRAVEL編集部
  • 2017年12月13日

現代アートの見本市「FIAC」の旗が両側に揺れる、シャンゼリゼ通り。メイン会場のグラン・パレは、ここからすぐ近く

 車でパリの中心部に入ると、コンコルド広場の真ん中に堂々とそびえるオベリスクが目の前に迫ってきた。横には、緑あふれるチュイルリー公園。そこからまっすぐのびるシャンゼリゼ通りの先は、凱旋門だ。もう少し進めば、エッフェル塔も見えてくるだろう。そして、ゆったりと流れるセーヌ川や、そこにかかる優雅な橋も――。

 パリを旅したことがある人ならば、必ずといっていいほど訪れたことのあるスポットだろう。筆者にとっても知らない場所ではない。なのに、まるで初めて目にするかのように、心がときめいてしまう。ああ、パリはやはりどこを向いてもロマンチックだなあ……と、ため息をつく。

 芸術の催しが充実する秋、パリを訪れた。その模様を3回にわたってリポートする。

サンローランのすべてを見せる場
「イヴ・サンローラン美術館」

 まず向かったのは、10月3日にオープンしたばかりの「イヴ・サンローラン美術館」。サンローランが1974年から引退する2002年までの30年近く、仕事場としてきた場所だ。16区、美術館「パレ・ド・トーキョー」にほど近い。ナポレオン時代から建つ歴史的な建物だ。

イヴ・サンローラン美術館のエントランス。オープンしたばかりの話題のスポットとあって、開館時間前から列ができていた

 サンローランの引退後、「ピエール・ベルジェ=イヴ・サンローラン財団」が設立され、公私にわたるパートナーだったピエール・ベルジェが、サンローランの約40年にわたる作品を保管するために奔走した。5000ものオートクチュールの服と、1500ものアクセサリー、そして何千ものスケッチなどが財団によって保管されている。美術館の完成をベルジェは心待ちにしていたそうだが、今年9月8日、オープンを目の前にしながら86歳でこの世を去った。

 ドアマンに通されて、建物の中へ。入ってすぐのサロンへと案内される。「この部屋でオートクチュールのショーが行われたこともありました。カトリーヌ・ドヌーヴなど、顧客のフィッティングルームとしても使われたようです」と、付き添ってくれた学芸員が説明する。

 上の階へと進むと、サンローランの60年代の代表的なルックが並ぶ。女性にタキシードを開放した「スモーキング」や、男性のワークウェアをエキゾチックな都会の装いへと仕立てた「サファリルック」など――。オランダの抽象画家、ピエト・モンドリアンの作品に着想を得たミニドレス、「モンドリアン・ルック」も展示されている。

サファリルック(左)や革のコート(右)など、男性服の要素を取り入れたシンプルなデイリーウェア。性差を超えた活動的なデザインは、女性たちを解放したなどと言われた

 ファッションがジェンダーレス化している昨今、男性の服を女性が着るのはけっして珍しいことではない。また、装いの中にアートを取り込むことも。でも、それらは当時、画期的だった。サンローランが進化させたものの上に現代のファッションがあることを、改めて教えられる。

 色彩豊かでエキゾチックな作品群は、施された細工の細かさや美しさに、思わずじっと見入ってしまう。

大胆でかつ繊細な刺繡など、オートクチュールの粋を集めたドレスやケープも一堂に展示されている

 サンローランは、17歳でパリにやってくるまで、フランス領だった故郷アルジェリアで過ごした。1966年には、恋人ベルジェとともに旅したモロッコに心を奪われ、家を購入。コレクションのためのスケッチの多くを、モロッコで描いたという。サンローランは、どんなイマジネーションの旅をしていたのだろう――そんなことを思いながら、しばしたたずんだ。

 さらに階段を上って、アトリエへ。机の上には、スケッチや、ジュエリーのサンプル、様々な素材が雑然と並んでいる。つい先ほどまで、サンローランがそこで仕事をしていたような、息づかいまで感じられそうな空間だ。「ペンの1本に至るまで、彼はこだわりのある人でした。ここは、サンローランのフェティシズムが詰まった部屋だといえるでしょう」と、学芸員は話す。

本棚には、サンローランが歳月をかけて集めたファッションやアートの本がびっしり。ジュエリーのサンプルやスケッチが、机を覆っている

 アトリエは、四方の壁の一面が天井から床まで大きな鏡。「モデルが服を着たところを彼が確認するのは、いつもこの鏡越しでした」。じっと鏡を見つめるサンローランの姿が、ありありと浮かんだ。

 イヴ・サンローラン美術館は、ほぼ同時期の10月19日、モロッコ・マラケシュにもオープンした。サンローランとベルジェが購入し、今では観光スポットとなっているマジョレル庭園に隣接。4000平方メートルの広さを誇り、講堂や図書館なども擁しているという。趣がまったく異なるこちらのミュージアムにも、いつか足を運んでみたいものだ。

森の中から現れる“ガラスの大型船”
「ルイ・ヴィトン財団」

 次に向かった先は、オープンして3年あまりのルイ・ヴィトン美術館、「ルイ・ヴィトン財団」。広大なブローニュの森の敷地内、アクリマタシオン公園の一角にある。

 16区の高級住宅街を車で走り抜けて、あっという間に緑の中に。サイクリングやジョギングする人を見かけたが、乗馬コースもあるという。“森”というだけに、大きくて、緑が深い。面積は、東京・代々木公園の15倍以上だ。都会を完全に忘れる場所がこんなに近くにあるって、なんてうらやましいことだろう……。そう思っているうちに、突如、斬新な形をした透明な建物が現れた。

フランク・ゲーリーによる「ルイ・ヴィトン財団」

 手がけたのは、米国人建築家のフランク・ゲーリー。スペイン・ビルバオの古い街並みの中で、奇妙な形がひときわ目を引くグッゲンハイム美術館などが話題を呼んできた。

 外から見ると、まるで、風で帆を膨らませた大型船のよう。マストのような形のガラスの構造物12枚で構成されているという。変わった形だから、建物の中はさぞかし見づらいのでは……?などと一瞬不安になったが、その必要はなかった。一歩入ると、アートを鑑賞するために配慮しつくした、心地よい空間が広がっている。

 現在は、ニューヨーク近代美術館に所蔵されている作品の中から約200点を展示する「Being Modern: MoMA in Paris」展が開催中だ(2018年3月5日まで)。幅広いジャンルの作品が網羅された展示で、MoMA の90年近くにわたる歴史を感じさせる内容となっている。

手前は草間彌生(1962年)、奥はブルース・ナウマン(1983年)の作品

 階段で上がってテラスに出てみたら、ぐにゃぐにゃとしたフォルムのガラスの天井が、空を覆っている。水平、垂直がわからなくなってくるような、不思議な感覚を覚える。

“大型船の帆”は、内側から見ても不思議なフォルム

 視界が開けた場所に立つと、目の前には緑が広がり、その向こうにパリの街並み。すがすがしい風景に思わず深呼吸した。

緑の中にガラスの建物が調和する。むこうにはパリの街並みが

世界の美術関係者が集結!
現代アートの見本市「FIAC」

 1日の締めくくりとして、現代アートの見本市「FIAC(フィアック)」の会場へ。世界中からリッチなアートコレクターやプロが集まる、最も大きな祭典の一つだ。44回目を迎えた今年は、30カ国から193のギャラリーが参加。日本からは小山登美夫ギャラリーなどに加え、今年は新たに東京・谷中の「スカイ ザ バスハウス」がエントリーした。

 毎年メイン会場となるのは、シャンゼリゼ通りからほど近い「グラン・パレ」。1900年のパリ万博のときに建てられたドーム型の壮大な建物は、パリコレのシャネルのショー会場などとしても使われており、ファッション好きならば見覚えがあるかもしれない。

FIACのメイン会場、グラン・パレ

 チュイルリー公園や、ヴァンドーム広場などの屋外でも展示やパフォーマンスが繰り広げられ、昨年からはグラン・パレのとなりに建つプチ・パレでも、彫刻やインスタレーションの展示が始まった。さらにはFIACの開催に合わせ、パリ市内の美術館やギャラリーで、大小さまざまなイベントが開かれる。この期間、パリの街はアート気分で盛り上がるそうだ。

 グラン・パレの会場に入ると、世界中から集まった画廊のブースがびっしりと立ち並ぶ。ちょっぴり着飾った女性や、ばりっとスーツを着こなした男性が、シャンパンを片手に商談している姿も多い。建物の優雅さと相まって、華やかなムードだ。美術館で作品を見るのとは違い、自分が買うとしたらどれだろう、などと考えながら回ってみるのも、楽しいかもしれない。

 まさにパリはアートの宝庫で、アートが世界中から集まってくる――。そんなことをたっぷりと感じた1日だった。

【写真特集はこちらから

(文・写真 &編集部 辻川舞子)

    ◇

■Musée Yves Saint Laurent Paris(イヴ・サンローラン美術館)
5 Avenue Marceau, 75116 Paris
+33 1 44 31 64 00
https://museeyslparis.com/en/

■Fondation Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン財団)
8 Avenue du Mahatma Gandhi, 75116 Paris
+33 1 40 69 96 00
http://www.fondationlouisvuitton.fr/ja.html

■FIACホームページ:http://www.fiac.com/


取材協力:
フランス観光開発機構(Atout France):http://jp.france.fr
パリ観光・会議局(OTCP):http://ja.parisinfo.com

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