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名勝・錦帯橋の背後に立つ、不思議な形の岩国城

  • 文・写真 城郭ライター 萩原さちこ
  • 2017年12月12日

錦帯橋と岩国城。セットで岩国の代名詞となっている

 JR岩国駅から20分ほどバスに揺られ「錦帯橋」バス停で下車する。10分ほど歩くと、岩国城が見えてくる。青緑色に澄んだ錦川と、錦川に架かる錦帯橋。その向こうにそびえる、標高216メートルの横山山頂に築かれているのが岩国城天守だ。

 岩国城とセットで岩国の代名詞となっているのが、“日本の美しい橋”として紹介されることもある木造五連の反り橋、錦帯橋だ。ちょうど5つのアーチを描く橋の向こうに天守が建ち、なんとも絶妙な位置でコラボレートしていて感激してしまう。しかし、残念ながらこれは実は演出のひとつ。天守は戦後に復興される際、山麓から見上げたときに錦帯橋とセットで美観が完成するよう、本来の位置から50メートルほど南側に建てられた。

しなやかなアーチを描く、錦帯橋。国の名勝に指定されている

錦川。岩国城を守る天然の堀になっている

 岩国城は、関ヶ原合戦後に岩国3万石を拝領し出雲富田12万石から移った、吉川広家が築いた城だ。関ヶ原合戦直後の不安定な情勢下にあり、城下町の防御に重きが置かれている。山上の城と山麓の居館を錦川が囲んで守り、城下は錦川を境に、内側に諸役所や上級武士の居住区、対岸に中下級武士や町民の居住区を配置する。そのため、中下級武士は錦川を渡らなければ藩政の中心地へ行けない構造となっている。

錦川は城と山麓の居館、藩政の中心地を守り、対岸の中下級武士や町民の居住区との境界線にもなる

 1674(延宝2)年に錦帯橋を架橋したのは、3代藩主吉川広嘉だ。岩国城の天然の外堀にあたる錦川は、とんでもない暴れ川。幾度となく流失し、広嘉が前年にかけた橋もあっけなく流されてしまうという苦難の歴史があった。錦川は川幅が約200メートルとかなり広く、流れの向きが変化して急流になりやすい形状でもある。また、川床には砂利が堆積していて、当時の岩国藩には、それに耐えうる頑丈な橋脚を築く技術力がなかった。

 しかし、城下町が錦川で二分されてしまうのは藩にとって大問題だ。そこで広嘉は早くから橋の研究に取り組み、試行錯誤を重ねた。最終的に「西湖遊覧誌」に記された中国・杭州の西湖にかかる橋にヒントを得て開発されたのが錦帯橋だったといわれ、改良を加え完成されると、1950年(昭和25)まで276年間その威容を保ち続けた。

橋の長さは210メートル、幅は5メートル、橋台の高さは6.64メートル。反り橋は頑丈な組木の技法によって、橋上からの圧力でさらに強度が増すしくみだ

 さて、山頂へは、ロープウェイに乗って5分ほどで着く。ロープウェイからの絶景も見事で、見入っているうちにあっという間に到着する。そこからは天守に向かって10分ほど歩いて行くのだが、山上のこのエリアには意外にも石垣や堀が残っていて、こんなにも城の遺構があったのかと驚いてしまう。本丸と北の丸の間には大きな空堀があり、これにより本丸を独立させていたようだ。空堀の南側にある石垣が、天守が建っていた場所に復元された天守台だ。

本来の天守が建っていた場所に復元された天守台。その北側には巨大な堀切がある

 1962(昭和37)年に復元された山頂の天守は、下層より上層がせり出した“南蛮造り”と呼ばれる特殊なデザインだ。3階よりも4階、5階よりも6階が大きく張り出している。最上階からの眺望はすばらしく、絶景を眺めながらのんびりしていると時間を忘れてしまう。屋敷が並んでいた城下一帯に整備された吉香公園、城下町、錦帯橋から市内一面が見下ろせ、さらには岩国航空基地、瀬戸内海の島々や四国までが一望できる。

復元された岩国城の天守。南蛮造りと呼ばれる不思議な形の天守だ

天守からの眺望。城下や錦川の流れのほか、はるか遠くには瀬戸内海の島々や四国も見える

 山麓の地帯は吉香公園となっている。上級武士の屋敷が建ち並んでいた、どこか背筋が伸びるような雰囲気が漂うエリアだ。岩国藩家老香川家の長屋門や、目加田家の住宅など、いくつかの建造物も現存する。錦川と錦帯橋、山上の城と城下町。この順番に配置を考えながら歩くと、かつての構造がわかり、江戸時代の営みが理解できたような気になってくる。

 吉香公園からも、見上げれば岩国城が望める。城に守られているような、不思議な空間だ。美しい景色と居心地のよさを堪能できる、岩国城はそんな城であった。

吉川広家公の頃からの家臣、目加田家の住宅

吉香公園中央にある噴水施設。見上げれば、山上には天守がある

(岩国城の回・おわり)

交通・問い合わせ・参考サイト

■岩国城

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JR「新岩国」駅または「岩国」駅からバス「錦帯橋」で下車、徒歩すぐ
0827-41-1477(錦川鉄道株式会社 岩国管理所)
 http://kankou.iwakuni-city.net/iwakunijyo.html(岩国市公式観光Webサイト)

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PROFILE

萩原さちこ(はぎわら・さちこ)城郭ライター、編集者

萩原さちこ

小学2年生のとき城に魅了される。執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演、講座などをこなす。著書に『わくわく城めぐり』(山と渓谷社)、『戦国大名の城を読む』(SB新書)、『日本100名城めぐりの旅』(学研プラス)、『お城へ行こう!』(岩波ジュニア新書)、『図説・戦う城の科学』(サイエンス・アイ新書)など。webや雑誌の連載多数。
http://46meg.com/

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