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小さな生産者と美食がつながる、パリ「ニル通り」

  • &TRAVEL編集部
  • 2018年1月11日

ニル通りのサンドイッチ屋「フレンチー・トゥ・ゴー」

 食材にとことんこだわったレストランやカフェと、小規模な生産者から食材を集めた店が軒を連ねるパリの小さな通りが、人気を呼んでいる。路地裏にひっそりとある短いその通りの名は、「ニル通り」。

 2区、メトロのサンチエ駅近く。古くから“パリの胃袋”と呼ばれるにぎやかなモントルグイユ通りから歩いて数分のところにある。多くの人を引きつける理由を知りたくて、訪れてみた。前回のパリ アート旅(3)から続き、お届けする。

ぜいたくな素材で作るグルメサンドイッチ
「フレンチー・トゥ・ゴー」

 到着したのは、朝。まずは、サンドイッチ屋さん「フレンチー・トゥ・ゴー(Frenchie To Go)」に入ってみた。同じ通りにある人気レストラン「フレンチー」がワインバーに続き、3店目として2013年にオープンした店だ。“トゥ・ゴー”だからテイクアウトできるのだが、店内でいただくことにする。

 「せっかくフランスに来ているというのに、なんでフランスっぽい朝ごはんじゃないんだろう……」と思いつつ、ベーコン、卵、チーズがサンドされたイングリッシュマフィンと、カフェラテを注文。

ベーコン、卵、チーズのマフィン

 でもかぶりついた瞬間、「おいしい!」。ベーコンの燻(いぶ)した香りと、甘みを感じるチェダーチーズ、目玉焼きが絶妙なハーモニーを織りなしている。全粒粉のパンも、香り豊かだ。素材一つひとつの味に感動しながらぺろっとたいらげた。

 マネージャーのニコルさんは、店がオープンしたきっかけについてこう話す。

 「『フレンチー』のシェフであるグレゴリー・マルシャンの妻マリーが、ある日、『サンドイッチが食べたい』と言いだしたんだ。素材へのこだわりや手のかけ方は高級レストランのようでありながら、カジュアルに食べられるものがほしい、と。彼女自身のそんな願いが、この店のオープンにつながったんだ。かいわいのシェフたちがやってきて、朝ごはんを食べられるようにもしたかったんだよね」

とても陽気できさくなニコルさん。お店のムードメーカーだ

 イギリスの著名なシェフ、ジェイミー・オリバーのもとで修業したグレゴリーのこだわりで、店で使う肉は、イングランド北部ヨークシャーの生産者から仕入れている。それを、フレンチー・トゥ・ゴーの厨房でじっくり焼き上げたり燻したりして、サンドイッチ用に加工しているという。チーズは、ロンドンのチーズ屋「ニールズ・ヤード デイリー」から購入。魚、野菜、パンは、同じ通りにある「テロワール・ダヴニール」のもの。コーヒーも、向かいのコーヒーショップからだ。

 「たとえばロブスターサンドイッチは、朝、ロブスターを生きたまま仕入れて調理する。だから、新鮮さは保証されているよ」と、ニコルさん。マヨネーズやバーベキューソースは、すべて自家製。なんともぜいたくなサンドイッチだ。

 ランチタイムは、パストラミと紫キャベツのコールスローがライ麦パンにはさまった、ボリュームたっぷりのニューヨークの定番サンドイッチ「ルーベン」や、豚の塊肉をゆっくりバーベキュースモーカーで調理してほぐした、こちらもアメリカの定番「プルドポーク」をはさんだサンドイッチが看板メニューだ。

パストラミと紫キャベツのコールスローがはさまった、NYの定番サンドイッチ「ルーベン」。ボリューム満点!

 しかし、フランスには世界に誇るクロワッサンやバゲットなどがあるのに、なぜ英米スタイルのサンドイッチなんだろう……? 「グレゴリーとマリー夫妻は、パリジャンスタイルの朝食を、一度、あえて壊してみたかったんだ。そんな試みに興味を持ったのか、パリだけでなく、海外からもたくさんのお客さんに来てもらっているよ」。

 レストラン「フレンチー」は2016年、ロンドンのコベントガーデンにもオープンした。いつかこちらにも足を運んでみたい。

光る小規模生産者を掘り出す
「テロワール・ダヴニール」

 隣の「テロワール・ダヴニール(Terroirs d'Avenir)」ものぞいてみた。店先では、美しい野菜や果物が量り売りされていて、お客さんがじっくり品物を吟味しながら買い物している。

「テロワール・ダヴニール」の八百屋

季節や気候条件によって、仕入れる野菜は日々異なる。環境や食の多様性に配慮した生産者とだけ取り引きしているという

豊富な種類のキノコ。「秋のほんの短い時期しか出回りません。シンプルにバターでソテーして食べるとおいしいですよ」とパスカルさん

 私が訪れたのは秋だったが、見たこともないような種類のキノコがたくさん並んでいた。「本来、農作物には様々な品種があるんだ、食の多様性は大切なんだということを、私たちはこの店を通じて伝えたいと思っているんです」と、広報担当のパスカルさんは言う。

木箱に入ったリンゴや栗も、なんともフォトジェニック!

 農業が工業化された今の時代、シェフと生産者が互いを知らないことが多い。そこで「持続可能な農業」と「美食」を結びつけたいと考えた2人の若者、アレクサンドル・ドルーアとサミュエル・ナオンが経済と商業を学んだあと、2008年に会社を設立した。テロワール・ダヴニールとは「未来の土地」という意味。フランス国内や、スペイン、イタリアなどをめぐり、環境に配慮しながら手間ひまかけて作る小規模生産者を見つけ出し、パリのレストランに食材を供給している。その活動は評判を呼び、星付きのレストランからビストロまで信頼を勝ち得て、いまでは100軒を超える店に食材を卸しているという。そして2012年、一般の買い物客に向けて、ニル通りに「テロワール・ダヴニール」の八百屋、肉屋、魚屋をオープン。2015年には、ベーカリーも誕生した。

「テロワール・ダヴニール」の肉屋。店員と話す、広報担当のパスカルさん(右)

「テロワール・ダヴニール」の魚屋

大西洋や地中海の港から直送されてくる、獲れたての魚が並ぶ

「テロワール・ダヴニール」のべーカリー。小規模な小麦生産者を大切にしながら、オーガニックのパンを作っている

紫キャベツ、チーズ、果物をトッピングした「ベジタリアン・タルト」。パンは、小麦本来の風味を味わえる

 すぐ近くに、食材があふれるモントルグイユ通りもあるが、ライバルとして意識することはないのだろうか?という問いに、パスカルさんはこう話す。「私たちが心がけているのは、商業的にならないこと。私たちはあくまでも、都会と田舎の“つなぎ役”としての役目を果たしたい。値段も、双方に対して適正でいたいと思います」。

 「今のおすすめは?」となにげなく聞いたときに返ってきた「すべてです!」という言葉に、はっとした。「この店では、旬ではないものは何一つ扱っていない。冬にイチゴやトマト、夏にリンゴを置くようなことはないんです」

 現代の農業のあり方に疑問を投げかける食材店と、食材のよさを満喫できるレストラン。その両方が行き来して、いいものが生まれる……。東京に戻り、仕事帰りに駆け込むスーパーで、ほぼ一年中同じ顔ぶれの大量生産の食材を買っていると、パリのあの小さな通りが恋しく感じられるのだった。

(文・写真 &編集部 辻川舞子)

    ◇

Frenchie To Go(フレンチー・トゥ・ゴー)
http://www.frenchietogo.com/

Terroirs d'Avenir (テロワール・ダヴニール)
http://www.terroirs-avenir.fr/

取材協力:
フランス観光開発機構(Atout France):http://jp.france.fr
パリ観光・会議局(OTCP):http://ja.parisinfo.com

路地裏の静かな「ニル通り」

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