にっぽんの逸品を訪ねて

世界遺産で過ごす静かな夜 五箇山相倉の合掌造り

  • 文・写真 中元千恵子
  • 2018年2月13日

深い山あいに合掌造りの家屋が並ぶ五箇山相倉集落(画像提供:南砺市観光協会)

 「世界遺産に泊まってみせんか? 心に残る旅になりますよ」

 その言葉に引かれて向かったのは、富山県南砺(なんと)市の五箇山(ごかやま)地方。白山山系の深い山岳地帯であり、標高1500m級の山並みを縫って流れる庄川の谷間に、40の集落が点在する。

 豪雪地帯であるこの地域では、古くから、積雪に考慮し、さらに屋内を効率的に活用するために、急勾配の屋根を備えた「合掌(がっしょう)造り」と呼ばれる独特の家屋が造られてきた。

 特に、相倉(あいのくら)と菅沼(すがぬま)の二つの集落は、現在も生活しながらその貴重な建築を数多く保存し、1995年(平成7)、岐阜県白川郷荻町とともにユネスコ「世界遺産」に登録されている。

 かつては「日本に残された最後の秘境」ともいわれた地域。「遠いのでは?」と思っていたが、予想以上にアクセスがいい。

 JR・あいの風とやま鉄道高岡駅やJR城端線城端駅から五箇山と白川郷を結んで「世界遺産バス」が走り、高岡駅発の便は北陸新幹線の新高岡駅を経由する。

 今回宿泊した相倉集落の最寄りのバス停「相倉口」は、新高岡駅から世界遺産バスで通常約1時間で到着する。

重厚感と快適さを備えた合掌造りの宿

 相倉口バス停から相倉集落までは徒歩7、8分。

 カーブを曲がり、視界が開けると景色が一変した。ゆるやかな起伏に続く道と、小さな棚田、肩を寄せ合うよう並ぶ合掌造りの民家。昔話の絵本を見ているようだ。

 相倉には現在20軒の合掌造りの家屋があり、宿を営む家もある。

「合掌民宿 長ヨ門(ちょうよもん)」もその1軒。築300年以上だという。

かやぶき屋根をのせた「合掌民宿 長ヨ門」

 妻入りの玄関を入ると、奥さんの山崎真由三(まゆみ)さんが元気な笑顔で迎えてくれた。

 部屋に荷物を置き、「オエ」とよばれるいろりのある居間でお茶とお菓子をいただきながらチェックイン。

 見回すと1階は広い。合掌造り家屋は、ほかの地方の民家に比べて規模が大きいそうだ。

 黒光りする太い柱や梁(はり)が、長い歴史を感じさせる。

いろりのある「オエ」は昔から食事をとる家族だんらんの場だった

 「昭和30年ころまでは合掌造りがたくさん残っていたんだけど、大通りに面した集落から改装が進んで。相倉と菅沼は道路から少し奥まっていたので、最後まで合掌造りが残ったのでしょうね」と真由三さんが話してくれた。

 相倉の合掌造り家屋は、多くは江戸時代末期から明治時代に建てられたものだが、最も古いものは17世紀までさかのぼると考えられている。

 世界遺産の範囲は、合掌造りの民家や歴史的な建物だけでなく、道路や田畑、石垣、それに周囲の屋根ふきに必要なかやを育てる「茅場」や、雪崩を防止している「雪持林(ゆきもちりん)」なども含まれるという。

ふとんに入れる「豆炭(まめたん)あんか」の準備をする山崎真由三さん

 実は、訪れるまで「昔の建造物だから寒いのでは?」と思っていたが、とんでもない。重厚な造りや風情はそのままに、暖房器具があちこちに置かれ、室内はどこも暖かい。トイレは水洗、しかもWi-Fiも使える。

 旅人は快適だけれど、世界遺産の集落に暮らす大変さもあるのではないかと真由三さんにうかがうと、「私は結婚して他県からきましたが、大変だと思ったことはないですよ。ここの人たちはみんなやさしくて親切なの」とのこと。

 屋根ふきのためにかやを刈って運ぶ作業、雪かきや田植えなどは夫がしてくれるそうだ。「お父さんは大変なのかもね」と、真由三さんはほがらかに笑う。

山間の知恵が息づく料理と心温まる時間

 6時過ぎに、いろりを囲んでの夕食が始まった。

 この日の「長ヨ門」は国際色豊か。宿泊客は、ベトナム人女性、フランス人女性とフランス在住の日本人男性、そして私の4人だ。

 お膳にはコイの洗いや五箇山豆腐(とうふ)など、郷土色豊かな料理が並ぶ。

 いろりの炭火で約2時間かけてじっくり焼いたイワナの塩焼きのおいしいこと。皮はパリッと香ばしく、身はふっくら。風味が際立って、みんなで感嘆の声をあげた。

プリプリとした歯応えのコイの洗い、品よく盛られた煮物、季節の天ぷらなど、手作りの夕食

 「このあたりでは4月の終わりころから山菜採りが始まり、採ったものは塩漬けなどにして保存しておきます」と真由三さん。

 その言葉通り、ワラビやコゴミ、ネマガリダケなどの山菜も並ぶ。冬が長い山間の集落での暮らしの知恵が垣間見える。

 食事の間は、一つ一つの食材を楽しみながら、真由三さんも交えて5人でゆっくりと会話が進んだ。どうして五箇山に来たのか、明日の旅の予定は? など、さまざまな話題がカタコトの英語を交えて語られる。

和やかな夕食のひととき。真由三さんが「ささら」という楽器を使って民謡「こきりこ」も歌ってくれた

 居間にはテレビがあるが、誰もつけようとせず、一人一人の言葉に耳を傾ける。夜はこんなに静かで穏やかなのだ、と改めて気づかされた。

 初対面だったり、言葉が通じにくいこともあって、余計に気持ちをくみ取ろうとするためか、いろりを囲んで濃くてやさしい時間が流れた。それはお互いが感じたようで、翌日、バスに乗って別れるときは、4人とも見えなくなるまで手を振り合った。

クギも大黒柱もなし 合掌造りの驚きの構造

 翌日はまず、歩いて5分ほどの相倉民俗館と相倉伝統産業館で、合掌造りや五箇山の文化と暮らしについて学んだ。

 合掌造りは五箇山地方と白川郷だけに見られる独特の構造だという。

 土台となる四角い1階部分は宮大工が、その上の叉首(さす)構造とよばれる三角形の部分は地域の共同作業で造ってきた。

合掌造りの三角形の部分の内側はこのような造り。相倉民俗館にて

 驚くのは、三角形の部分は丸太2本を「人」の字のように組んだものをたくさん造り、それぞれ1階部分の梁などの上にのせていることだ。接合部をクギで固定することはなく、1階から大黒柱が伸びて支えているわけでもない。丸太の先端をエンピツのように細く削り、1階部分にのせている。崩れないかと心配になるが、これは外力に強い合理的な構造なのだという。

 三角形の空間に柱が無いことは、2階、3階が広くとれて、養蚕などに効率的に活用できる利点もあるそうだ。

丸太の先を細くしてのせている

 また、五箇山では、藩政時代、火薬の原料の一つである塩硝(えんしょう)や五箇山和紙などが作られ、加賀藩に納められていたことも知った。

 その後、バスで移動して、相倉口から5分の下梨バス停近くでは五箇山和紙の紙すき体験を楽しみ、さらに4分乗った上梨バス停近くでは国指定の重要文化財「村上家」を見学した。

五箇山では和紙の紙すき体験ができる工房や施設がある

 見学する中で印象的だったのは、五箇山では「ユイ(結い)」や「コーリャク(合力)」という精神が受け継がれてきたこと。共同作業や村人同士の相互扶助、人々の結び付きなどを表す言葉だという。

 厳しい自然環境の中で、住民たちは昔から助け合い、思い合って暮らしてきたのだろう。

 今回、たった1泊2日、短い滞在だったけれど、厳しい自然環境の中では、より強く相手を思いやる心が育まれるのではないか、ということは実感できた。

 例えば、深い雪道を歩いていると、追い越していく車が都会では考えられないほど速度を落とし、距離をとって通り過ぎてくれる。中には車を止めて「乗っていきますか?」と声をかけてくれたご夫婦もいた。バスの中では、バス停に向かって走ってくる人を見つけ、「あの人を待ってあげて」と見知らぬ乗客たちが運転手に頼む場面も目にした。

 壮大な自然と、素朴で美しい風景。静かな夜や、相手を思いやる温かな気持ち。

 五箇山を訪れた人たちは、ふとした風景や言葉に、それぞれ「何か」を感じて帰っていくのだろう。大切なことが息づき、それを思い出させてくれる場所。だから多くの人がいつまでも残してほしいと願う世界遺産なのだと思った。

世界に誇る文化財「高岡御車山」を見学

 帰りに、世界遺産バスで高岡駅まで行き、徒歩約10分の「高岡御車山(みくるまやま)会館」に立ち寄った。

 「御車山」は、御所車(ごしょぐるま)形式にほこを立てた特殊な形式の山車(やま)で、金工、漆工、染織などのすぐれた装飾が施されている。毎年5月1日に開催される高岡御車山祭で、全7基が市内を巡行する。

見上げる高さの御車山を展示。華やかな装飾が目を引く(画像提供:高岡御車山会館)

 この御車山がすごい。山車の7基は国の重要有形民俗文化財に、「高岡御車山祭の御車山行事」は重要無形民俗文化財に指定。両方の文化財に指定されているのは日本で5件しかないのだが、そのうちの1件だ。

 さらに、文化庁が認定する「日本遺産」の構成文化財であり、2016年には全国「山・鉾・屋台行事」33件のうちの1件としてユネスコ無形文化遺産にも登録されている。

 つまり、日本が世界に誇る文化財の一つなのだ。

 この会館では、御車山1基を展示し、山車に使われる“ものづくりのまち高岡”らしい高い工芸技術や、祭りのようすなどを伝えている。

 館内の展示も印象的だ。高岡御車山の始まりは、豊臣秀吉が天皇を迎えるときに使用した御所車に由来するといわれるが、その豪華絢爛(けんらん)な行列の時代絵巻を見ながら進むと、パッと視界が開けて御車山が現れる。間近で見る金工や漆塗りの美しさには目を見張る。

 シアターでは祭りのようすを映像で紹介。地元の人たちが神聖な行事として大切に守り継いでいることが伝わってきた。

【参考資料】

「白川郷・五箇山の合掌造り集落」(合掌造り集落世界遺産記念事業実行委員会)

【問い合わせ】

五箇山総合案内所
http://gokayama-info.jp/
*合掌造り集落をはじめ五箇山の観光では、民家や私有地に立ち入らない、日没後や早朝の散策は遠慮するなど、ルールやマナーを守りましょう。詳しくは五箇山総合案内所のHPをご覧ください。

合掌民宿 長ヨ門
http://www.shokoren-toyama.or.jp/~gokayama/ki/choyomon.htm
*食事内容は取材当日のものです。季節などで内容が変わることがありますのでご了承ください。

加越能バス株式会社(世界遺産バス)
http://www.kaetsunou.co.jp/company/sekaiisan/

五箇山和紙
http://www1.tst.ne.jp/gokawasi/

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高岡御車山会館
https://mikurumayama-kaikan.jp/

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PROFILE

中元千恵子(なかもと・ちえこ)フリーライター

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

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