絵本のぼうけん

グリム童話の世界―ドイツ・メルヘン街道の旅

  • 文・長嶺今日子
  • 2018年2月13日

『ねむりひめ』、『おおかみと七ひきのこやぎ』作:グリム 絵:フェリクス・ホフマン 訳:瀬田貞二(ともに福音館書店)、『赤ずきん』著:グリム 絵:バーナディット・ワッツ 訳:生野幸吉(岩波書店)

 

 わが家の本棚では、私が40年前に親しんだ絵本が今も現役です。その中でもグリム童話の『ねむりひめ』、『おおかみと七ひきのこやぎ』(ともに福音館書店)、『赤ずきん』(岩波書店)などは、大人になってページを開いた時、まるで歌いなれたフレーズのように、お話がこぼれ出てきて不思議な気分になりました。物語の語り口、さし絵の細かな雰囲気、懐かしい紙の匂い。ページの端々から子どものころの記憶が戻ってきます。グリム童話はそんな特別な存在でしたから、初めてドイツを旅した時に訪ねた場所もメルヘン街道でした。

『ハーメルンの笛ふき』文:サラ&ステファン・コリン 絵:エロール・ル・カイン 訳:金関寿夫(ほるぷ出版)

 「ハーメルンの笛吹き男」は、町の人々に頼まれてネズミを退治したのに代金を支払ってもらえなかった流れ者の男が、再び笛を吹いて、町中の子どもたちとともに消えてしまったという伝説がもとになっています。なんとも不気味なお話ですが、実際にハーメルンを訪ねてみると、美しい町並みの中にお話の場面やねずみたちをモチーフにしたアートがあふれ、とてもにぎやかでした。町の中心にあるホッホツァイツハウスのしかけ時計にも笛吹き男が登場。毎夏マルクト広場ではこの物語の野外劇が上演され、多くの観客を集めています。『ハーメルンの笛ふき』(ほるぷ出版)は中世の町並みや雰囲気を伝えてくれる一冊です。

『ねむりひめ』作:グリム 絵:フェリクス・ホフマン 訳:瀬田貞二(福音館書店)

 ヘッセン州北部のザバブルグ城は、森に囲まれた小高い丘の上にそびえています。いばらの生け垣に囲まれたその姿は、『ねむりひめ』とも題される「いばら姫」の物語の舞台を彷彿(ほうふつ)とさせます。14世紀に建てられたこの城は1960年に改修され、古城ホテルとなりました。二つの塔にある客室に滞在すると、物語の世界にタイムスリップしたかのよう。もしかしたらこのまま百年眠ってしまうことになるかも……と心配になってしまうほどでした。メルヘン街道では、「ラプンツェル」の物語に出てくるような高い塔を持つトレンデルブルク城も、古城ホテルとして今も旅人を迎えています。

 グリム童話は、ドイツのグリム兄弟が編さんした昔話で、正式には『子どもと家庭の童話』として1812年に出版。当初156話を収めたこの本は兄弟の存命中から改訂を重ね、最終的には210話となりました。160以上の言語に翻訳され、聖書についで「世界で最も親しまれている物語」といわれています。日本でも長年、さまざまなさし絵と翻訳で、多くの絵本や読み物が出版されてきました。中でも、昨年その仲間入りをした『グリムのむかしばなし』(のら書店)は、これからじっくりグリム童話を読んでみたい人にとてもおすすめです。

『グリムのむかしばなしⅠ』・『グリムのむかしばなしⅡ』編・絵:ワンダ・ガアグ 訳:松岡享子(のら書店)

 著者は『100まんびきのねこ』(福音館書店)などユニークなストーリーと白黒の絵が子どもたちに人気の絵本作家ワンダ・ガアグ。彼女はアメリカの出身ですが、ボヘミアからの移民で、家ではドイツ語でグリム童話に親しんでいたそうです。「子どもの時にお話を聞いて味わったあたたかみや、ぞくぞくする感じを再現できるように、自分のことばで自由に語ること」(本文あとがきより)をめざした、生き生きとしたガアグの語りは、訳者の松岡享子さんによって見事に日本の子どもたちに届けられました。実際にページを開き、最初のお話「ヘンゼルとグレーテル」を声に出して読んでみると、なんともいえないリズムのよさ、物語の運びに、とても楽しい気分になります。この本のもう一つの魅力は、活字の大きさと行間です。子どもにとって読みやすい本づくりに熱心に取り組んだガアグの思いが、日本語版にも反映されています。

 冬の寒い時期こそ、暖かい部屋の中で語り継がれてきたグリム童話の世界をゆったりお楽しみください。春になればドイツ観光のベストシーズンがやってきます。旅の計画には『グリム童話で旅するドイツ・メルヘン街道』(ダイヤモンド社)もおすすめです。

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PROFILE

長嶺今日子(ながみね・きょうこ)

子ども一人ひとりの個性に合わせて絵本を選び届ける「ブッククラブえほんだな!」主宰。子育て支援のイベントやライブラリーの選書も手がける。また、多言語による読み聞かせ活動にも長年携わっている。「ブッククラブえほんだな!」

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