にっぽんの逸品を訪ねて

「奇跡の温泉」で体験するアクアセラピーや現代湯治 天城船原温泉

  • 文・写真 中元千恵子
  • 2018年3月27日

温泉の効果も取り入れた「ワッツ」。心身ともに解きほぐされていく

 極上のリラクセーションを体験できる宿があると聞いて、伊豆半島中央に広がる天城温泉郷の一つ、船原(ふなばら)温泉を訪れた。源頼朝が入浴したとも伝えられ、古くから湯治場として愛されている。天城山系の緑に包まれ、船原川が流れる自然豊かな地は、武将の隠れ湯にふさわしい秘湯の趣だ。

 船原温泉の一軒「ものわすれの湯 船原館」では、アメリカで生まれたリラクセーション法「ワッツ(WATSU)」と、日本の湯治文化が育んだ先進的な「天城流湯治法」の二つが人気をよび、全国から体験希望者が訪れているという。

天城の豊かな自然に抱かれて立つ「ものわすれの湯 船原館」

温泉の持つ力をより効果的に伝えたい

 船原館は木材をふんだんに使った重厚でぬくもりある造り。クラシカルな調度品にほっと心が和らぐ。

 宿の自家源泉は、伊豆でも屈指の良質な温泉と称される。その源泉の魅力をもっと効果的に楽しんでもらいたいと、主人の鈴木基文さんは「ワッツ」と「天城流湯治法」を取り入れた。

 「ワッツ」はWater Shiatsu(水中指圧)の略語で、70年代に日本の指圧を学んだ米国人ハロルド・ダール氏が、指圧をアレンジして考案した究極といわれるリラクセーション法だ。
 インストラクターに身をゆだね、水の浮力で筋肉の緊張を緩めながらストレッチなどを行うアクアセラピー。浮遊することで深い瞑想(めいそう)状態を創り出し、α波の効果で脳疲労の改善にも効果が見込める。心身ともに癒やされ、陸上では感じることのできないほどのリラクセーションを生み出すという。

 また、「天城流湯治法」は、腰や膝(ひざ)、肩などの痛みを、ヨガや自己整体、自己指圧など自分で改善していく方法で、温泉の中で行うことでより高い効果が得られるらしい。セルフケアなので、自宅でも継続できるのが魅力だ。湯治と聞くと何日も温泉に滞在しなくては……と思ってしまうが、1回体験して自宅で続けられるのは、まさに現代に適した湯治法。四十肩、五十肩、膝の痛み、腰の痛みなどが改善したという体験者も多いという。

 鈴木さんは、「ワッツ」と「天城流湯治師」の2つの資格を持ち、希望に合わせてインストラクターを務めている。体験は、それぞれ30分4000円(宿泊者料金)、事前にホームページか電話で予約。当日は水着を着用する。

温泉の中で行うストレッチはより効果的

静寂の中で温泉にたゆたう心地よさ

 「ワッツ」と「天城流湯治法」を最も効果的に行うために造られたのが、「たち湯」だ。
 広々とした湯船は水深が1.2メートルもあり、良質な源泉を35~37度のぬるめに保って満たしている。これは特に「ワッツ」のための理想的な環境で、全国のワッツ愛好者が、船原館の「たち湯」で施術を受けたいと、遠方からも足を運ぶそうだ。

中庭にある「たち湯」。ワッツに最適な工夫がされている

 「ワッツ」は、股関節の回旋運動で腰をゆるめる「ファーレッグ・ロテーション」や、ゆらゆらと海草のように揺れて背骨をゆるめる「シーウィズ」などを行う。
 耳まで水につかっているので、音もない静寂の世界。重力から解放されてゆったりと体がほぐれ、たゆたうような感覚に、母体の中にいるような胎内回帰を連想する人もいるという。
 浮き棒を使って浮遊するのも、リラックスできると好評だ。

浮き棒を使って、雲に乗っているように温泉の上を漂う

湯船までダイレクトに届く奇跡の源泉

 船原館の温泉は「奇跡の温泉」とよばれる。それは、源泉温度が45度だからだ。
 「45度の源泉は、加熱もせず、冷やしもせず、空気にふれることなく湯船に運ばれて適温になります。これは温泉の劣化がないということで、温泉通の間では45度の源泉は『奇跡の温泉』とよばれています」と鈴木さん。

 船原館の自家源泉は湯量も毎分150リットルと豊富。「たち湯」では温度調節を行っているが、ほかの湯船では源泉掛け流しになっている。しかもなるべく温泉が劣化しないようにと湯船の底部から流入させているので、フレッシュな温泉が楽しめる。

大浴場の湯船は源泉かけ流し

天城産本わさびをぜいたくに使う「わさび鍋」

 船原館は料理自慢の宿でもある。名物は天城産の山の幸をふんだんに使った本格的な囲炉裏料理「お狩場焼き」だ。料理名は、源頼朝が船原峠で源氏再興を志して狩りを催し、獲物を野火で焼いて仲間と酒を酌み交わしたことに由来している。

囲炉裏を囲んで味わう「わさび鍋」

 名物メニューの一つが地元天城産の本わさびを使った「わさび鍋」。カツオベースのだしに、シイタケ、ゴボウ、アイガモ、湯葉、ミツバ、大根おろしを入れてひと煮立ちさせる。その上にすりおろした本わさびをたっぷりと入れる。こんなに入れたら辛くて食べられないのでは……と思ってしまうが、心配ない。辛みは爽やかな風味に変わり、ほかの食材の味を引き立てる。あと味もすっきりとして、どんどん箸が進む。
 冬はしし鍋のことも多いが、希望でわさび鍋にも変更が可能。5月くらいからはわさび鍋が主になるという。

おろしたてのワサビは風味がよく食欲をそそる

天城温泉郷湯ヶ島温泉のハンモックカフェ

 温泉やワッツでリラックスしたあとは、温泉街の散策でさらに癒やされよう。
 船原館から車で12分ほどの湯ヶ島温泉も天城温泉郷の一つ。川端康成が『伊豆の踊子』を執筆するなど、多くの文人墨客に愛された詩情あふれる温泉地だ。井上靖の『しろばんば』、若山牧水の『山桜の歌』などの舞台となったことでも知られる。
 湯ヶ島の中心部には、『しろばんば』に登場する井上家旧居跡や、ナマコ壁が美しい「上(かみ)の家」などが今も残っている。

 温泉街に延びる「湯道」は、かつて里人や文人たちが川原の共同浴場へ通い、思いをめぐらせた小道。本谷(ほんたに)川には出会い橋の男橋、猫越(ねっこ)川には女橋が架かり、文人の碑なども立つ。せせらぎを聞きながらの散策は心が和む。

アウトドアカフェで季節を感じよう

 男橋と女橋が出会う地点には、席の多くがハンモックという「アウトドアカフェ MadoroMi(まどろみ)」がある。自然の中でまどろむ時間をコンセプトに、昨年12月にオープン。屋外型のカフェで、屋根も壁もない。風や自然の香りを感じながらのんびりとハンモックに揺られて過ごしたい。
 フレンチプレス方式で抽出した本格コーヒーや、パンケーキセット、焼いて柔らかくなったマシュマロとチョコレートをクラッカーで挟んだスモアなど、メニューも充実している。

本格コーヒーとパンケーキでひと休み

【問い合わせ】

ものわすれの湯 船原館
https://www.funabarakan.jp/
*食事内容は季節や仕入れ状況によって変更あり

アウトドアカフェMadoroMi
https://www.facebook.com/outdoorcafe.MadoroMi/

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PROFILE

中元千恵子(なかもと・ちえこ)フリーライター

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

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