絵本のぼうけん

世界を旅する、ニッポンの絵本

  • 文・長嶺今日子
  • 2018年3月27日

今海外で人気の日本の絵本翻訳版:後列左から『生きる』中国語(繁体字)版、『トマトさん』ベトナム語版、『もったいないばあさん』ヒンディー語版、中列左から、『りんごかもしれない』英語版、『ぐりとぐら』タイ語版、『くまのこまこちゃん』韓国語版、前列左から『せんたくかあちゃん』韓国語版、『あつさのせい?』中国語(繁体字)版、『ひよこさん』フランス語版

 連載「絵本のぼうけん」の最終回は、「絵本」自身が旅の主人公です。日本の絵本は、国境をこえて、さまざまな外国語に翻訳され、世界中の子どもたちに親しまれています。日本の子どもたちが大好きな『ぐりとぐら』(福音館書店)は、1963年の出版以来、英語、フランス語、韓国語、タイ語など、12言語で翻訳出版(*1)。昨今、日本の絵本界に旋風をまきおこしているヨシタケシンスケさんの『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)も、英語、韓国語、中国語(繁体字)、フランス語、オランダ語などに翻訳出版され、世界で注目されている絵本作品の一つです。また中国では日本の絵本の翻訳出版が一大ブームになっており、『100万回生きたねこ』(講談社)の販売部数が100万部を突破。広い中国本土の物流を支えるネット書店の隆盛も手伝って、多くの作品が次々と刊行されています。

ベトナムの子どもたちにも日本の絵本が人気!

後列左から『からだのみなさん』、『うずらちゃんのかくれんぼ』、『ぞうくんのさんぽ』、前列左から『うしろにいるのだあれ』、『そらいろたね』すべてベトナム語版

 アジアでは、特にベトナムで日本の絵本の翻訳出版が盛んになっています。これまでベトナムでは良質な絵本が少なく、日本の絵本の翻訳版には、表紙に「EHON」と記されたり、絵本と子どもの関わりについて解説されたりしている場合もあります。ベトナムを拠点とするMOREプロダクションの「MOGU絵本プロジェクト」(*2)は、日系企業などの協力を得ながら、誰でも手に入れやすい価格で、絵本を制作しています。翻訳も直訳でなく、ベトナム人に伝わるように工夫され、手書きのベトナム語の文字を使用するなど、編集・印刷の面でも高いクオリティーを実現。ページをめくると、ベトナムの人たちが熱心にこの活動を支えていることが伝わってきます。さらにベトナム人作家の育成にも力を入れ、この4月には、絵本作家五味太郎氏を招き、絵本の作り方のワークショップを開催。ベトナムの学生との合作アートブックの出版も予定しています。「日本・ベトナム国交樹立45周年」の節目である2018年に、日本の絵本に注目が集まっています。

読み聞かせの様子(写真提供:MOGU絵本プロジェクト)

インドの子どもたちと一緒に「もったいなーい!」

『もったいないばあさん』ヒンディー語版

 今年1月、インド、ニューデリーで『もったいないばあさん』(講談社)のヒンディー語(英語併記)版が出版されました。モディ政権が掲げる環境美化キャンペーンに呼応し、日本のもったいない精神を広めて環境改善をめざすべく、原著の出版社である講談社と国際協力機構(JICA)の連携事業として出版が実現。実際に『もったいないばあさん』を読んだ後、子ども自身のエコ活動への意識にどのような変化があったのかについても追跡調査が行われており、インドで深刻化している環境問題への持続的な解決につながることが期待されています。汚染されたガンジス川を目の当たりにした著者の真珠まりこさんは、インドの人々に「もったいない」をより身近に感じてもらえるよう、川を舞台にした「もったいないばあさん」の制作をスタートされているとのこと。引き続きインド各地での読み聞かせ活動や、タミル語やベンガル語など11のインドの地方言語への翻訳も予定されています。

スラム街で暮らす女の子と「もったいないばあさん」(写真提供:真珠まりこ氏)

日本に暮らす外国籍の子どもたちと多言語絵本

 海外で翻訳出版された日本の絵本は、実は日本国内の子どもたちにも必要とされています。両親の仕事にともない小さなころから日本に暮らす外国籍の子どもたちや、逆に海外で暮らしてきた帰国子女など、家庭、地域、学校、それぞれの場面で2つ以上の言語を使う子どもが増加しています。小さな子を持つ外国籍のお母さんの中には、日本人の親子が親しんでいる絵本を読んでみたいと願う声も。日本語版と外国語版の絵本が手元にあれば、みんなと一緒に楽しむことができるのです。

丸善丸の内本店児童書売場「世界にとどけ、ニッポンの絵本」の棚。文溪堂が出版している絵本を英・韓・中・日の4言語で紹介するパンフレットを配布(*3)

 公共図書館や学校でも、外国につながる子どもたちのために、多言語絵本の蔵書に力を入れるところが徐々に増えてきました。出版社や書店も多言語での読み聞かせ活動や日本の絵本を多言語で紹介する活動に関心を寄せています。東京駅すぐの丸善丸の内本店では、外国人の観光客が訪れることも多く、多言語で子どもたちに人気の絵本を紹介する試みを行っています。「ことばがちがっても、絵本を一緒に読んだら、すぐに友だちになれるはず」――。2020年のオリンピックでは世界各国からたくさんの子どもたちが日本を訪れるにちがいありません。絵本を通して、ことばの壁をこえた交流が生まれることを願っています。海外を旅する時には、現地の書店で日本の絵本の翻訳版を探してみるのもおすすめです!(*4)

    ◇

 2017年3月、「旅のはじまり『こびん』」からスタートした連載「絵本のぼうけん」を最後までお読みくださりありがとうございます。これからも絵本と一緒に、子どもも大人も、新しい冒険を続けていただけたらうれしいです。

    ◇

*1:『ぼくらのなまえはぐりとぐら』(福音館書店)の付録CDでは各言語の雰囲気を少しずつあじわうことができます。

*2:「MOGU絵本プロジェクト」が発行するベトナム語版の絵本については、MOREプロダクションまで。

*3:「世界へとどけ、ニッポンの絵本」の多言語絵本紹介パンフレットは、文溪堂のホームページからもダウンロード可能です。

*4:今回ご紹介した外国語版の絵本は、日本の原著出版社では取り扱っていません(一部洋書専門店にて取り扱いあり)。外国語版の書誌情報については、国立国会図書館国際こども図書館の「外国語に翻訳刊行された日本の児童書情報」や「日本発子どもの本、海を渡る」のサイトも参考になります。

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PROFILE

長嶺今日子(ながみね・きょうこ)

子ども一人ひとりの個性に合わせて絵本を選び届ける「ブッククラブえほんだな!」主宰。子育て支援のイベントやライブラリーの選書も手がける。また、多言語による読み聞かせ活動にも長年携わっている。「ブッククラブえほんだな!」

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