にっぽんの逸品を訪ねて

レアな水循環が育む“美食” 三大奇観の富山・魚津市

  • 文・写真 中元千恵子
  • 2018年5月8日

「ばい飯」は、魚津の名物料理の一つ

 「とにかく食べ物がおいしい」「飲食店のレベルが高い」。数年前からそんな評判を耳にしていたのが富山県魚津市だ。富山湾に面したこの街は、「蜃気楼(しんきろう)、ホタルイカ、埋没林」の三大奇観でも知られる。観光客だけでなく、出張族の宿泊地としても大人気で、魚津で夕食をとるために、わざわざ移動して泊まる人も多いそうだ。

 その魚津で、昨年春、市内の若手料理人8人が「新川(にいかわ)食文化研鑽(けんさん)会」を結成して話題になった。飲食店の店主や料理長が知識や技術を共有して勉強会を行い、一丸となって魚津の食の魅力を発信している。ライバルでも協力しあいたいと思うほど、魚津には良質な食材や奥深い食文化があるのだ。

店主の独創的な感性が光る「悠(ゆう)」

 魚津駅前に広がる「柿の木割り」とよばれるエリアは、市内随一の飲食店街で200店以上が軒を連ねる。魚津はかつて遠洋漁業が盛んで、漁から戻った漁師たちが盛大に飲み歩き、そのなごりで今も飲食店が多いという。

 「柿の木割り」には、すし店、創作和食、居酒屋など多彩な店が並ぶ。驚くのは、東京の麻布や青山を思わせるしゃれた造りの店が多いこと。といっても、入りにくい雰囲気はなく、店の自信が気品としてにじみ出ているようすなのだ。
 一角にある「四季料理 悠」も、そんな一軒。小さな看板とのれんだけのすっきりとした入り口が粋(いき)だ。
 店主の海野文章(うみのふみあき)さんは京都で修業後、地元で開業。新川食文化研鑽会の代表でもある。

白木のカウンターがすがすがしい店内。初めてでも、女性一人でも入りやすい

 「魚津は狭い地域ですが、海から山岳地帯まで変化に富んだ地形で、幅広い食材がそろいます」。仕入れた魚は毎日、ようすを見ながら保冷庫で貯蔵し、最適の時期に最適の食べ方で提供するそうだ。
 ほかの店ではあまり見られない食材や調理法の料理が味わえるのもこの店の特徴だ。

 この日のおすすめ料理は、海と山の幸をそれぞれ使った2品。
 「ホタルイカの昆布締めとワタの塩辛」は、富山湾で取れたホタルイカを1日寝かせて甘みを引き出し、片面に昆布をのせて半日締めたもの。両面にしないのは、昆布の風味を強くし過ぎないためだ。ワタは地酒と海洋深層水で練ってある。

「ホタルイカの昆布締めとワタの塩辛」。杯は地元の魚津漆器

 おいしい。ホタルイカは昆布締めにすることで独特の臭みが消え、甘さと奥深い味わいが際立つ。ワタの塩辛もまろやかで、お酒によく合う。酒匠の資格を持つスタッフが、料理に合う酒を勧めてくれる。この料理には「蜃気楼の見える街」。すっきりとしたあと口が、昆布締めの繊細な味を引き立てる。

 「イノシシと山菜のすき焼き鍋」は、魚津の森で育ったイノシシの肉と、コゴミや山セリ、行者ニンニクなど季節の山菜を使っている。イノシシ肉はあっさりとして食べやすく、脂にほどよいコクと甘みがある。すき焼き風の甘辛さの中で山菜のほのかな苦みがアクセントになり、箸がすすむ。
 甘みのあるこの料理に合わせた日本酒は、少し酸味のある山廃仕込みの「三笑楽」だ。

「イノシシと山菜のすき焼き鍋」。杯は県内のすず製品

魚津らしい料理を「海風亭」で味わう

 翌日のランチは、駅前で100年続く老舗「日本料理 海風亭」へ。同じく新川食文化研鑽会の美浪呂哉(みなみともや)さんが、金沢で修業後、5代目として料理長を務めている。
 素材にこだわり、米や卵は決まった生産者から仕入れ、店専属の釣り師とも契約しているほど。上質な料理が、手ごろなランチから夜の本格懐石まで味わえる。

「海風亭」は駅前の白いのれんが目印

 「店が駅前にあるので、初めて魚津を訪れた方が来店されることも多いです。魚津の入り口として、地域の魅力を伝え、魚津を好きになっていただける料理を作っていきたい」と美浪さん。そのために“食材の魅力を正直に伝える”を心がけているそうだ。

 魚津の名物として近年知られるようになった「ばい飯」は、もとは漁師飯。あまり使い道がなかった小粒のバイ貝を、漁師の奥さんが米や野菜と炊いたのが始まりだ。
 通常はコリコリとした食感だが、海風亭では子どもも食べやすいようにと、食感のやわらかい真バイ貝という種類を使っている。肝(きも)まで炊き込み、貝のうまみがご飯全体にしみわたっている。ほんのり香る潮の風味が食欲をそそる。

「ばい飯」は子どもも食べやすい工夫がされている

 地魚がたっぷりのって1080円というサービスランチの海鮮丼や、先代が開発したげんげの竜田揚げも人気の品だ。げんげは富山湾にすむ深海魚で、全身ゼラチン質で覆われている。揚げると表面はパリッ、中はフワフワの食感。9月から6月まで味わえる自慢のひと品だ。マンガ『美味(おい)しんぼ』に掲載され、一躍有名になった。

サービスランチの海鮮丼と、げんげの竜田揚げ

世界でもめずらしい「魚津の水循環」

 美食のまち、魚津はどんなところなのだろう。
 「魚津市は、水の循環がひとつのまちで完結している世界的にもめずらしい地形です」と解説してくれたのは、魚津観光ボランティア「じゃんとこい」でガイドを務める上野恭子さんだ。

 魚津市では、海抜0メートルから標高2400メートル以上の山岳地帯までが、奥行き約25キロメートルに収まっている。この急な地形は海中まで続き、水深1000メートルにまで達する。
 海から蒸発した水は雨や雪となって山々に降り注ぎ、川や地下水となってまた海へと戻る。豊かな生態系を支えながら、高低差3400メートルで繰り返される「魚津の水循環」とよばれるシステムだ。

 水源の山は豊かな森を育み、川は大地を潤し、生活や農業の助けとなる。市内の水道水は、山に降った水が10~20年かけて地中で濾過(ろか)された伏流水でまかなっているそうだ。

東山円筒分水槽。水の落差が大きいのは急流河川ならではという(画像提供:魚津市観光協会)

 魚津の豊かな水を感じる見どころの一つが東山円筒分水槽だ。3つの用水に公平に水を分配するための水槽で、直径約9メートルの円筒から勢いよく水があふれ出る。田園風景に水流が美しく映え、近年は観光目的に訪れる人も増えている。円筒分水ファンが作るWebサイトで、日本一美しい円筒分水と評されたこともある。

最先端の競り市場と神秘的な埋没林

 早朝、上野さんに「魚津おさかなランド」も案内していただいた。魚津漁業協同組合の競り市場で、「魚津観光ボランティアじゃんとこい」にガイドを申し込んで希望すると、観光客も見学できる。

 あまりに整然として清潔なことに驚いた。魚はパレットの上に並び、床には絶えず水が流れて汚れを洗い落としている。魚の匂いも気にならない。高度な衛生管理を導入した施設で、全国からの視察も多いそうだ。魚津の人が魚を大切に思う気持ちが伝わってくる。

「魚津おさかなランド」場内を案内する上野恭子さん。地元の言葉も交えた朗らかな解説に心が和む

 魚の種類の多さにも目を見張る。
 「富山湾には日本海に生息する800種の魚介類のうち、約500種がいるといわれています」と上野さん。富山湾は急激に水深が深くなるので、海岸から近い距離に定置網が設置できる。漁をしてすぐ漁港に戻れるので、鮮度を保ったままセリにかけられる。

 魚津おさかなランドの近くには、蜃気楼と埋没林という2つの不思議な現象を紹介する魚津埋没林博物館がある。
 埋没林は、火砕流や土石流などの影響で森林が水中や地中に埋もれたものだ。魚津埋没林は、約2000年前、片貝川の氾濫によって流れ出た土砂がスギの原生林を埋め、その後、海面が上昇して森林全体が海底に埋没した。

 土の中でも腐らずに保存されたのは、絶えず流れる豊富な伏流水が影響したと考えられている。

古代のロマンを感じる魚津埋没林。国の特別天然記念物に指定されている(画像提供:魚津埋没林博物館)

 水循環が創り出す大自然の神秘を感じた魚津の旅だった。

【問い合わせ】

四季料理 悠
https://www.facebook.com/%E5%9B%9B%E5%AD%A3%E6%96%99%E7%90%86-%E6%82%A0-1776567079072931/

日本料理 海風亭
http://www.minamikan.com/kaifutei/

魚津観光ボランティアじゃんとこい
http://www.city.uozu.toyama.jp/guide/svGuideDtl.aspx?servno=1766

東山円筒分水槽
http://www.uozu-kanko.jp/?p=1592

魚津埋没林博物館
https://www.city.uozu.toyama.jp/nekkolnd/index.html

魚津市観光協会
http://www.uozu-kanko.jp/

[PR]

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

PROFILE

中元千恵子(なかもと・ちえこ)フリーライター

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

今、あなたにオススメ

Pickup!