インタビュー

人気脚本家が監督デビュー 女優にかけた「呪いの言葉」

  • 映画「恋妻家宮本」 遊川和彦監督×相武紗季対談
  • 2017年1月20日

「恋妻家宮本」の遊川和彦監督(右)と相武紗季さん

  • 「恋妻家宮本」の遊川和彦監督(右)と相武紗季さん

  • 脚本も手掛けた遊川和彦監督。「恋妻家」も監督の造語。「一瞬の恋の積み重ねが夫婦をつなぐんです」

  • 相武さんは遊川作品への出演は3作目。「人間は欠けているところがあるからいい。そんなことを感じさせてくれる映画でした」

  • 長い付き合いの2人だから、飾らない言葉が飛び交った

  • 相武さんは「婚約中で浮かれているOL」門倉すみれ役/映画「恋妻家宮本」から (c)2017「恋妻家宮本」製作委員会

  • 映画「恋妻家宮本」から (c)2017「恋妻家宮本」製作委員会

  • 阿部寛さん、天海祐希さんの「リセット期夫婦」っぷりもみどころ/映画「恋妻家宮本」から (c)2017「恋妻家宮本」製作委員会

 「女王の教室」「家政婦のミタ」「偽装の夫婦」など多数の人気ドラマを手掛けてきた脚本家・遊川和彦さんの初監督作品「恋妻家(こいさいか)宮本」が1月28日に公開されます。子どもが巣立ち、夫婦2人暮らしになった矢先、妻が隠していた離婚届を見つけてしまった夫の困惑を軽やかなタッチで描いた大人のコメディー。そこから見えてきた理想の結婚のカタチとは……。遊川作品とはゆかりの深い2人の出演者と監督にじっくりと語り合っていただきました。

    ◇

 最初に登場するのは、遊川さん脚本のドラマ「リバウンド」に主演した相武紗季さん。今回は主人公・宮本陽平から結婚生活の悩みを聞かされる料理教室のクラスメート役。結婚を前に幸せいっぱいだったのに……というビミョーな役どころだっただけに、撮影直後の昨年5月に相武さんが結婚を発表し、監督は心底驚いたのだとか。

相武紗季 遊川さんの作品ではなぜか幸薄い役が多いんです。今回も撮影中に「お前に結婚は無理」と呪いの言葉をたっぷりちょうだいしました。

遊川和彦 どうせ結婚しないだろうと思っていたから「しない方がいいよ」って言っちゃったんですよ。それがいきなりの結婚発表だから、本当にびっくりした。心配してたんだぞ。

相武 うそばっかり(笑)。「結婚には向いていない」「お前は不幸になる」って散々言われましたよ。そのたびに(共演の)菅野美穂さんが「そんなことないよ、幸せだよ」って言ってくれて。でも、宮本さん夫婦は理想だなぁ。ずっと一緒にいても心が離れていないですもんね。

遊川 え、もう離れてるの?

相武 いやいやいや、将来のことですよ!(笑) 20年、30年経た夫婦がお互いを思う姿がなんだかとってもいいな、って。遊川さんちはこんな感じなんですか?

遊川 ああ、おびえている感じはありますね(笑)。こわいのよ、奥さんがいったい何を考えているのか。奥さんの機嫌がいいことがいちばん大事。すぐ不機嫌になるからさ、新聞読んでても「聞いてる?」といわれたら即座に「聞いてるよ」って返さなきゃ。

相武 遊川さんの結婚生活も映画に反映されている?

遊川 そういうところはありますね。だから阿部さんにも、「おびえてくれ」「おびえてくれ」って念を押した(笑)。天海さんには「『おかえり』は顔も見ないでぶっきら棒に」って。だってそうでしょ、新婚じゃないんだから「おかえり~♪」なんて笑顔で出迎えたりしませんよ。

相武 よかった、うちはまだ「おかえり~♪」です。

ベテラン脚本家の新たな挑戦

 遊川さんはテレビディレクターを経て脚本家に。トレンディードラマ、コメディー、家族劇など多彩なジャンルで話題作を放ってきました。還暦を過ぎて長年あこがれてきた映画監督に挑戦した理由とは――

遊川 脚本家としてはベテランになってしまって、みんなに説教ばかりしてる偉そうなイメージがあるじゃない。いざ監督すれば「なんだ口ほどにもない」と言われるリスクもある。だからやめようかなとも思いました。でも、怖いものにチャレンジしないと自分の新しい可能性が目覚めない。いくつになっても勉強だと思うんです。俺のちっぽけな名誉なんてどうでもいい、崩れたら立て直せばいい、恐れずに挑戦しよう、と。

相武 現場の監督はかっこよかったです。脚本家バージョンの遊川さんは「(大声で)キミね、一体どういう気持ちやってるの!?」とぐいぐい熱弁を振るうタイプなんですが、現場ではどの監督と比べてもめちゃめちゃ穏やか。その場の空気を一番楽しんでいるように見えた。ああ、この組はあったかいんだなと思いながら演じていました。

遊川 地が出たんだよ(笑)

相武 出来上がった映画を見たら、そりゃあもうロマンチックで。監督のロマンチストの部分がドーンと出たんじゃないですか。それぞれの登場人物の描き方から、遊川さんの人を見る目の優しさや思いやりが伝わってきました。

いい役者はチャレンジを恐れない

 妻の真意を測りかね右往左往する主人公を演じた阿部寛さんは、遊川監督とは今回が初顔合わせ。しっかり者の妻を演じるのは「女王の教室」「偽装の夫婦」などでタッグを組んだ天海祐希さん。富司純子さん、奥貫薫さん、佐藤二朗さんら遊川作品でもおなじみの顔ぶれが脇を固め、様々な夫婦の絆が描かれます。

遊川 阿部さんとは初めてだから、他は信頼できる方たちに集まっていただいた。とはいえ信頼できる方だからこそ、いつもとは違う役どころをお願いしました。「僕もチャレンジするから、あなたもチャレンジしてくれませんか」と。そういうことに賛同してくれる人が僕は好きなんです。

相武 阿部さんとは料理をしながらの掛け合いが多かったのですが、遊川さんの演出にあそこまで応じるとは正直思わなかった。もっとクールなイメージだったのに、遊川さんがリハーサルで「ここはこういう風に」と細かく指示すると、それをコピーするように調理台の周りをぐるぐる動き「こんな感じですか」と芝居をひとつひとつ確認する。かっこいいなぁと思いました。 こうやって吸収し消化していくのかととても勉強になりました。

遊川 あの人はすごいですよ。「じゃあやってみます」と自然に体が動く。経験を重ね、地位のある人にはなかなかできることじゃない。武士道というか、自分の芸を磨いている感じ。それでいて、実際の演技ははたから見ていて本当におかしい。本人が真面目だからおかしいんです。笑わせようなんて邪念を抱かず、この人物ならどうするかということしか考えていない。悩むのは自分の芝居ができているかどうかだけ。その純粋さは素晴らしい。永遠に向上心を抱き続ける人だと思いました。

相武 天海さんとご一緒するのも楽しみでした。毎回、自分が演じるのはこういう女性なんだっていうのが、立ち姿やたたずまいから伝わってくる方なので、同じ現場にいるだけで勉強になります。今回は、すごく穏やかだけど芯も強くて、いつも演じてらっしゃる役より女性らしさもあったりして。なぜ天海さんをこの役に?

遊川 平凡な家庭の主婦なんて、普通は天海さんには頼みませんよね。ただ、長年一緒にやってきて、天海さんの鉱脈として掘ってない部分があるなと思っていた。「あなたが本当に本気なら、私は受けて立ちますよ」 と言う度量がある人だからね。オファーする側は失敗が怖くてどうしても今までと似た役を頼みがちだけど、さらに掘り下げたいと言われるのは、演じる側にはうれしいことだと思うんですよ。

相武 顔にパックしたままのお芝居とか、最高でしたね。

遊川 バスタオル1枚の場面とかね。「やってくれませんよ、それ」ってなりそうなことも応じてくれる。 いい役者は様々な可能性を秘めているもの。「チャレンジをしましょう」と言うのに応じてくれる人が本物だと思うんです。紗季ちゃんだって、元気で明るいイメージがあるけれど、いい子ばっかりやってても芸域は広がらない。一見朗らかだけど実は冷たいとか暗いとか、細かいニュアンスも出せる人だから、あえて不幸な役をやらせてみたくなる。失敗することを恐れてやらない人とは一緒に仕事はできない。ダメだって、一生懸命やっていると分かることが大事。みんなで一生懸命ああでもないこうでもないとやって、面白いものができていく。そういうキャッチボールがこの仕事の原点。今はお互い遠慮しあう不幸な状況で、それが新しい芝居が見られない原因にもなっているだけに、そこを変えたいというこだわりが自分の中にすごくありました。

相武 現場では「意外に良かったよ」という最大のほめ言葉をいただきました。監督を知らなかったら「『意外と』なんて失礼な!」って思うかもしれないけれど、遊川さんに「意外」と思わせるのはすごいこと。うれしかったですね。でも、遊川組の後で別の現場に行くと、自分が前のめりになりすぎていることがあって。恐ろしいところですよ、遊川組は(笑)。「もう1回」「もう1回」とこちらと同じ熱量をひとり一人に返して下さる。勉強しないと絶対ダメ出しが来る。だから毎回ドキドキ、いいプレッシャーがいつもかかっています。

遊川 「もう1回」と言いたくなるのは、同じことがきちんとできる人だから。自分は芝居がうまいと勘違いしている人は、毎回勝手に違うことをやってワケがわからなくなっちゃうんですよ。同じことをやって欲しい時はきちんと繰り返し、変えて欲しい時はちゃんと変えられる、その切り替えができる人が我々撮る側にとっての素晴らしい役者さん。その点で相武さんは立派なプロ。過小評価されてる女優のひとりです。

相武 えー、それって喜んでいいのかな?(笑) まあいいや、どうもありがとうございます。

(構成・深津純子 撮影・篠塚ようこ)

    ◇

■遊川和彦(ゆかわ・かずひこ) 1955年生まれ。テレビ制作会社ディレクターを経て、1987年に「うちの子に限って…スペシャルⅡ」(TBS)で脚本家デビュー。「女王の教室」(日本テレビ)で向田邦子賞受賞。「家政婦のミタ」(日本テレビ)は最終回が40%の高視聴率を記録。NHK連続テレビ小説「純と愛」など多数のテレビドラマの脚本を手掛けた。

■相武紗季(あいぶ・さき) 1985年生まれ。2002年朝日放送「夏の高校野球PR女子高生」に選ばれ、翌年の「WATER BOYS」(フジテレビ)で女優デビュー。「リバウンド」ではダイエットを繰り返すヒロインを演じ、「家政婦のミタ」にも出演した。

■「恋妻家宮本」 重松清の小説「ファミレス」を遊川監督が大胆に脚色。ひとり息子が独立し、結婚以来27年ぶりに夫婦水入らずの生活を始めた中学校教師の宮本陽平が、本の間に妻が隠した離婚届を発見する。仲良くやってきたはずなのに、なぜ? 真意を問いただせぬまま、陽平は夫婦の関係を見つめ直す。1月28日から全国公開。

監督・脚本 遊川和彦、原作:重松清「ファミレス」上下(角川文庫刊)、出演:阿部寛 天海祐希 菅野美穂 相武紗季 工藤阿須加 早見あかり 奥貫薫 佐藤二郎/富司純子

 

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