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<59>蔵書は持ち寄り 鎌倉好きが集う秘密基地

  • 文 吉川明子 写真 山本倫子
  • 2017年2月16日

 JR鎌倉駅東口から徒歩1分。行き交う人が気づかないことも多いという小さな雑居ビルの入り口をくぐると、細くて急な階段が続いている。「あともう少しですよ! さあ、気をつけて頑張って!」という貼り紙に励まされながらたどり着いた先にあるのが、会員制の「かまくら駅前蔵書室」。ドアを開けると、部屋の中央には大きなテーブルと8脚の椅子。壁には鎌倉にちなんだ本がずらりと並んでいる。会員はこの空間をいつでも何時間でも利用できる。会員以外の「お試し利用」も大歓迎だ。

 2015年8月にオープンし、現在の会員数は180人。6割は鎌倉在住で、残りは湘南エリアや首都圏、地方在住。下は中学3年生から80代までで、40代が中心。室内には「私語解禁」の貼り紙があり、会員同士がここで顔を合わせると、自然に会話が始まる。

 「はじめは本を読んでいる人が多かったんですけどね。僕が会員さん同士を紹介するまでもなく、『鎌倉にお住まいですか?』などと声をかけ合い、自然と会話が始まるんです」

 そう話すのは、代表の鈴木章夫さん(58)。横浜で生まれ育ち、鎌倉が好きで以前からよく通っており、2010年には市の観光事業「みんなの鎌倉遠足」のスタッフになった。年間2000万人を超える観光客が訪れる鎌倉だが、人に知られていない魅力を掘り起こして体験型のツアーを考えるのが、鈴木さんの仕事だった。『大人だってのぞいてみたい! 鎌倉の人気会社訪問』『早朝、鎌倉の禅寺で修行体験』といったツアーを企画し、すぐに定員が埋まるほどの好評を博した。

 「参加者と話していたのですが、『鎌倉が少しでも載っている本はすぐに買っちゃうから、本が家に山ほどあるんです』という人が多かったのが印象的でした。そして、ツアー参加者同士で交流を続けたくても、そういった場がないのはもったいないな、とも思っていました」

 その後、横浜市のNPO法人で活動したり、別の団体で東北支援に携わったりしていた鈴木さんが、この場所と出合ったのは2015年4月のこと。所属する団体の代表から「駅前なのに10年間も借り手がつかない物件があって困っているんだけど、いいアイデアはない?」と相談された。下見のため、初めてこの場所を訪れた鈴木さんは、雑然と荷物が置かれた急な階段を上る時、ワクワクした気持ちがこみ上げてきたという。

 「なんだか秘密基地に行くみたいだったんですよ!」

 その時ふと、鎌倉好きの人が集まる図書館のアイデアが浮かんできた。鎌倉に関する本が揃(そろ)い、鎌倉好きが集える場所。隠れ家的なこの空間なら会員制の方がふさわしいと考えたのだ。鈴木さんは即座に行動に移し、クラウドファンディングで資金を調達するなどして、2015年8月にオープンにこぎつけた。入会金の代わりに必要なのは、「鎌倉に関する本を1冊以上持参すること」。ガイドブックでも鎌倉を舞台にした小説でも、歴史書でも何でも構わない。

 「当初は僕の自宅にあった本を200冊くらい並べていました。会員が180人なのに、今では約1100冊。何冊も持ってきてくださったり、この場所のことを聞いた会員以外の方が寄付してくださったりするんです」

 鈴木さんがビルの前で会員募集のチラシを配っていたら、ある年配の女性に「鎌倉の本を集めてるの? うちにいろいろあるわよ」と声をかけられたことがあった。後日、家を訪ねると、女性が最後の鎌倉文士と呼ばれる小説家・永井龍男氏の娘さんだったことがわかり、鈴木さんを大いに驚かせた。

 「鎌倉って歴史はありますが、実はそんなに古い街でもありません。江戸時代にいったん寂(さび)れてしまい、明治時代に海水浴場や避暑地として再び人が入ってくるようになりました。そのせいか、新しい人を拒まない空気があるんです」

 実際、新しい会員が入ると既存の会員は大歓迎するし、月1回の交流会を楽しみにしている人も多いという。会員主催のイベントなども積極的に開催している。

 「実はギリギリのところで運営しているので、『もっと広くして会費を高くすればもうかるんじゃない?』とアドバイスしてくれる人もいるんですけど、会員さんも僕も、年齢や立場を超えた適度な距離感や雰囲気が大好き。やっぱりこのままでいいんです」

■おすすめの3冊

『鎌倉遠足』(著/名取明香)
中学生から大人向けの遠足補助教材。鎌倉時代に関わった40人の生涯と8つの合戦・内乱、50の史跡を解説。「著者の名取さんは東京育ちで遠足や修学旅行で何度も鎌倉に来たのに、鎌倉のことが理解できないから、『中学生でも分かる本を作ろう!』と自分で作っちゃったんです。これがまたすごくいい内容で! 蔵書室にも来てくださったことがあるんですよ」

『鎌倉千年の歩み 段葛からのオマージュ』(著/浅田勁)
2016年春に修復を終えた鶴岡八幡宮参道の段葛(だんかずら)。元神奈川新聞記者で、同紙に10回の連載でつづった記事に大幅加筆して一冊にまとめた本。「会員でもある著者と『本にまとめたいね』と話していて、市内の出版社に相談したらだんだん話が大きくなって。うちも協力として名を連ねていますし、撮影を担当した写真家や表紙の水彩画を描いた画家もうちの会員なんです。これを読んだ後で段葛を歩くと、風景が変わって見えますよ。この本はここでも販売しています」

『武曲』(著/藤沢周)
ヒップホップに夢中な北鎌倉高校2年生が主人公。全く剣道に興味がなかったものの、命をかけた真剣勝負の流れを組む剣道へと目覚めていく物語。「著者が北鎌倉在住で、舞台も鎌倉だったので、書店で買いました。剣道って昔でいえば殺し合い。あれが真剣なら死んでいてもおかしくない。そんな中で、主人公はラップの詩とリンクしながら剣道に入り込む姿は迫力があります」

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かまくら駅前蔵書室
鎌倉市小町1-4-24 起業プラザビル3F
https://www.kamakuraekimae.com/
※入会金代わりに鎌倉に関する本を1冊以上持参する。年会費1万円(学生5000円)で自由に利用可。「お試し利用」は30分500円(ドリンク1杯付)。

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