こだわり派の逸品

日本茶本来のおいしさを発信/櫻井焙茶研究所

  • 写真 山田秀隆
  • 2017年2月23日

全国の産地を巡って集めてきた様々な茶葉を、製造方法の違いによって紹介。それぞれに合った淹れ方で味わうことができる

  • 全国の産地を巡って集めてきた様々な茶葉を、製造方法の違いによって紹介。それぞれに合った淹れ方で味わうことができる

  • 上/栗ようかん、果実と木ノ実の道明寺羹(どうみょうじかん)。下/ひと口果子、棗(なつめ)バター

  • お茶は常時20種類くらいが置かれている。ほかにもオリジナルの茶器も充実

  • 「お茶はもともと薬だった」という櫻井さん。使われている道具もラボっぽい雰囲気

  • ローストの具合を追求し、浅煎り、中煎り、深煎りの3種類を用意

  • 自宅で茶葉を炒るときに使う「焙烙」。誰でも簡単に使用できる

  • 茶室に入る前に手を清めるつくばいを見立てて、茶房のカウンターの上には水の流れをしつらえている

  • 店主の櫻井真也さんは以前、バーテンダーをされていたそう。無駄のない所作が美しい

  • 茶葉仕様に改良した、コーヒーロースターが鎮座する焙煎室

  • ミナ ペルホネンのセレクトショップ「Call」と同じフロアにある「櫻井焙茶研究所」

 東京・表参道のスパイラルビル5階に「櫻井焙茶研究所」はある。日本茶の香ばしい香りが漂う店内は、外の喧噪(けんそう)とはまるで違う静寂な空間。白衣をまとったスタッフはどこか研究員のようだ。茶房では、店主である櫻井真也さんが自ら茶葉を焙煎(ばいせん)し、美しい所作で客をもてなす。

 取材中、ちょうど外国人の観光客とおぼしき二人に居合わせた。彼らは櫻井さんのお点前の一挙手一投足を見逃すまいと凝視しながら、茶器にゆっくりと注がれる一杯を待ちわびていた。

 お茶は、緑茶、ほうじ茶など、いわゆる製法によって種類が異なる。櫻井焙茶研究所は、そうしたスタンダードなお茶のほかにも、草花や木の実、ドライフルーツなどを茶葉に混ぜたオリジナルブレンドを創作している。「果実や花を取り入れることで、お茶から日本の四季を感じてほしい」と櫻井さんは言う。

 「ブレンド」や「ロースト」といった、日本茶の世界では使われないワードも、ここでは違和感がない。和と洋、伝統と革新がミックスされた新しい日本茶スタイル。その魅力について櫻井さんにうかがった。(文・宮下 哲)

    ◇

古典に学びながら、半歩先を行く

――店内は、和と洋、クラシックとモダンなどが融合する不思議な空間ですね。

 空間やオリジナルの茶器のデザインは、和菓子店「HIGASHIYA」を手がける「SIMPLICITY」によるもの。SIMPLICITYは、自社ブランドとして和菓子店、和食料理店、プロダクトデザインを展開するほか、インテリアやプロダクト、グラフィックなど多岐にわたるプロジェクトにおいて、デザインやディレクションを行っています。SIMPLICITY代表の緒方慎一郎さんに、このお店の世界観を作ってもらいました。

 元来、茶室は陰と陽の調和によって、落ち着いた空間をつくり出すと言われています。その考え方を、現代のスタイルに変えて踏襲しました。

 例えば、つくばいをイメージした水場が茶房のカウンターにありますが、これは水の流れが空気を浄化させる効果をもたらします。茶房の入り口は、にじり口をイメージして低い位置にしました。天井には和紙を貼り、壁は左官仕上げに。また銅をふんだんに使ったのは、経年変化という時の流れを空間で表現するため。古典に戻るというよりは、古典に学びながらも半歩先を行く感覚です。

――なぜお茶のお店をオープンしようと考えたのですか。

 学生時代から「日本と海外をつなぐ仕事をしたい」と漠然と考えていたのですが、大学卒業後はバーテンダーとして働き、14年前にSIMPLICITYに入社。そして、僕がちょうどお茶への関心が高くなりはじめた頃に、HIGASHIYAがオープンしました。

 そしてHIGASHIYAなどSIMPLICITYが経営する飲食店で、僕がティーマスターの仕事を務めることに。茶道の世界を勉強していくと、お酒と共通する部分が多いことも分かってきたのです。例えば、カクテルはレモンを数滴垂らすだけで味が変わりますが、お茶もお湯の温度や抽出時間で味が変わってきます。僕の発想の仕方は、いわゆる茶道の世界とは違って、素材と素材の組み合わせとか、料理とのペアリングなどがベース。お点前も、バーテンダーをしていた自分には自然に身に付くものが多くありました。

 ただ、その後、約10年近くお茶の世界に関わる中で、ふと業界自体が何も変わってないことに気付いたのです。和食、日本酒、コーヒーは、時代とともに変わっているのに。きっと日本茶には何かが足りないんだろうと思いはじめて、これは誰かがやらないとだめだなと。

 そこで、お酒だったり、レストランだったり、コーヒーだったり、これまで培ったすべての知識と経験を生かしてお茶を新たな価値観で提案したら、可能性があるんじゃないかと考えました。

 店には、お茶をお酒で抽出したジン、焙じ茶とラムなどお茶にからめたお酒のメニューも豊富にそろえています。夜はバーのように、ディナーのあとに利用される方もいらっしゃいます。

 僕は、これまで、世界のいろんなお茶を飲んできましたが、やっぱり日本茶は唯一無二だと思っています。

――ストレート、ロースト、ブレンドという言葉も、お茶の世界では新鮮ですね。

 ストレートは、単一品種の緑茶のこと。緑茶を煎ったものがほうじ茶になります。

 ローストは、そのほうじ茶を、浅煎り、中煎り、深煎りに分けて商品化したもの。シングルオリジンのコーヒー豆のように、産地の特徴やローストの具合を追求することで、これまでの日本茶にはなかった香りや味わいを楽しんでいただけます。

 ブレンドは、いわゆる紅茶のブレンドのように香料で香り付けするのではなく、24節気の暦にあわせて冬はイチゴや柚子、春なら桜の花びらなどをフリーズドライさせて、茶葉に混ぜています。茶房のスペースでは、炒(い)りたてほうじ茶も用意しており、お客さんの好みの旬の茶葉を選んでいただき、その都度、焙烙(ほうろく)という道具を使って焙煎しています。

――お茶のおいしい飲み方を教えてください。

 熱いお湯でさっと淹(い)れると香りや風味が出ておいしいです。ぬるめのお湯は旨みが出やすいので、使い分けをしても楽しい。急須に入れた緑茶は、3回に分けて召し上がっていただくのがオススメです。

 1煎目はいわゆる旨みの風合いを抽出し、2煎目は少し熱めのお湯を注ぎ、お茶の渋みを抽出。3煎目はアレンジをして、ほかの茶葉とブレンドしても楽しいです。上級なお茶は3煎まで淹れていただいたあとは茶葉がほぐれるので、それをおひたしにして、おいしく召し上がれます。

 お茶は基本的に、鮮度が命の生鮮食品。注いだらすぐに飲むのがオススメです。どうしてもペットボトルのお茶のイメージがあるので誤解されているかもしれませんが、時間が経てば経つほどお茶は濁るんです。ご家庭でお茶を淹れる際は、少量ずつ飲める分だけにするのがベストです。

――今後の構想は。

 昔のお茶屋には、旅の疲れを癒やす休憩場という役割がありました。ここも、都会の休憩場として同じように使ってもらえればと思います。

 日本茶が世界的に認知されていく中で、海外の方々は本物を知りたがっていています。このお店は日本茶のすべてを体験できる場にしたくて、茶房のスペースを設けました。茶道とは違う、日本人の生活に身近にある煎茶、番茶、焙じ茶の価値をもっと知ってほしい。そして日本茶本来のおいしさを世界に発信できればと思っています。

 僕のお点前は、緒方さんのもとで実践してきたもので、いわゆる茶道でもないですし、台湾茶でもない、いろいろなものを融合したオリジナルスタイル。緒方さんと今後はそれをひとつの流儀として継承していこうと話しています。

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櫻井焙茶研究所
東京都港区南青山5−6−23スパイラル5階
営業時間:11時半~20時(茶房は平日23時まで営業)
http://sakurai-tea.jp/

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