上間常正 @モード

伝統技術とハイテク、先端のデザインが融合した新しいファッション

  • 上間常正
  • 2017年2月24日
  • 有機ELの照明でオーロラのように光る米澤織の薄布

  • ラグジュアリーな感覚のガウン

  • 紅花染めの薄紅色のバリエーション

  • 藍染めのバリエーション

  • 有機ELの照明器具も地元企業で実用化されている

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 日本には、世界的にも卓越した職人技が数多くあるという。その力が色々な分野での日本製品の質の高さを支えてきた。しかし最近の、たとえば東芝の危機などを見ると、その伝統が薄れてしまったのではという気がしてならない。端正な作り込み、創意工夫といった職人的な姿勢が、物作りの現場ではあまり評価されなくなっているのかもしれない。

 必ずしも大量生産を前提としないファッションの世界では、伝統的な職人技がまだかなり重んじられている。しかし糸や染め織などの素材分野では、日本各地に残る伝統技術が、後継者もなくこのままではその多くが失われてしまうという。そんなことになれば、世界のどこで作られたのか分からない安手の生地の服をみんなが着ることになってしまうだろう。

 そんな流れに何とか対抗しようとする動きもある。山形の米澤織物産地の若手経営者たちが山形大学工学部などと組んで2016年秋に立ち上げた「米澤テキスタイルプロジェクト」も、なかなか興味深い試みの一つだ。今月中旬に東京で開かれた試作品発表会では、最先端の光学技術やデザイナー、スタイリストらと伝統職人技の懐の深さとのコラボで生まれる「新しさ」の魅力を強く感じた。

 米澤織物が作られる米沢市は、江戸時代から藩主上杉氏のもとで、麻や絹織物の産地として発展し、明治以後も化学染料や織機などの技術も取り入れて日本を代表する織物産地となってきた。現在では絹から化学合成繊維まで多種類の素材を生み出す技術力が認められ、単発とはいえ海外の有名ブランドにも使われている。

 今回の試作品では、「紅と藍」と題したルームウェア、「オーロール」という照明オブジェが二本柱として展示された。

 紅花と藍は古くから米澤に伝わる染めの色素材で、優雅な薄紅色と力強い紺色が特徴。どちらも染め方によって繊細で多彩な表情の変化も見せる。この素材を使って作ったのは単にくつろぐだけではない〝ラグジュアリーなルームウェア〟。立体裁断によるエレガントなシルエットや、高度なテクニックを駆使したディテールで、場合によってはおしゃれな街着としても着られそうだ。

 デザインを担当したのは、「haori de TiTi(ハオリ・ドゥ・ティティ)」のデザイナー八巻多鶴子さん。「米澤には、玄人好みでひと目ですぐには分からないけれど、たとえば刺繡(ししゅう)のように見える織りなど、驚くほどの超絶技術がある」と語る。そうした伝統的職人技と素材の「和」の感覚と洋服のデザイン性をうまく融合できれば、世界に向けて発信できるファッションブランドになれるという。

 「オーロール」は、米沢市の山形大学で研究が進む最先端の有機EL照明の技術と織物技術を、斬新なデザインで融合させた照明オブジェ。有機ELの光は自然光に近く、あまり熱を発しないで広い範囲を同じ明るさでソフトに照らすことができる。柔らかい羽根のように薄く透けた織物が、この光によってオーロラのように、見る角度によって表情が微妙に変わる。(オーロールはフランス語で、曙(あけぼの)やオーロラの意)。デザインを担当した上島弘祥さんは「なんでもできてしまう、という米澤のスピード感に富んだ多様性を、一期一会というコンセプトで表現してみたかった」と解説した。

 このプロジェクトに生地制作で参加したメンバーの一人、新田源太郎さんは、米澤で機屋創業133年という「株式会社新田」の19代目の若手経営者だ。その新田さんは「米澤の特色は、様々な種類の生地を小ロット(少量)で作れること、そして他の産地と比べて若手がそろっていること」と語った。

 東北の小藩だった米澤は、風土の特徴を生かしながら多くの人々の知恵と長い時間をかけて、時代や技術の変化も取り入れながら独特の伝統職人技術を育んできた。いま、それを継ぐ若い世代の思いとデザインの力、先端テクノロジーの融合の中からファッションの「新しい」魅力が生まれようとしているのかもしれない。

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PROFILE

上間常正(うえま・つねまさ)

写真

1972年、東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。88年からは学芸部(現・文化部)でファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化学園大学・大学院特任教授としてメディア論、表象文化論などを講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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