このパンがすごい!

小麦畑の風が吹く、自家培養発酵種のパン/アルティザン

  • 文・写真 池田浩明
  • 2017年3月28日

カンパーニュ

  • 自然農野菜とナッツ

  • クルミミッシュブロート

  • 自然農高菜グリッシーニ

  • 安原太路シェフ

  • 外観

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アルティザン
(福岡)

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自家培養の種で焼く多彩なパン

 福岡市の大濠公園にあるフレンチレストラン「クロマニヨン」で食事のそばに付き添っていた、アルティザンのパン。佐賀で不耕起栽培(耕さないで自然の力にまかせる方法)の小麦を、自ら培養した種で発酵させたそのパンは、魂を揺さぶるものだった。力強くありながらやさしく、小麦が風に揺れる畑の風景を想起させるのだ。そこで供されるナチュラルワインや、自然ありのままのやり方で作られる玉名牧場のチーズと同じ波長で共振していた。

 アルティザンのシェフ安原太路さんは、この「クロマニヨン」で食事をしたとき、それまで抱いていたパンに対する考えを捨て、最終的にはすべてを自家培養の種によるパンに変えてしまったのだという。

「すごすぎるワインに出会ったんです。飲んだとき、それまで作っていたパンとぜんぜん釣り合わないことがわかった」

 運命的な一杯は、山梨県北杜市で自然発酵によって作られる「BEAU PAYSAGE(ボー ペイサージュ)」。濃度もさることながら、あふれ出てくるさまざまなフレーバーに絶妙なバランスがあり、天与の配剤を思わせる。

「(ボー ペイサージュの生産者である)岡本英史さんのやり方でパンを作ろうと思いました。極力手を加えないナチュラルワインのやり方にどっぷり足を突っ込んだ」

 いろんな試行錯誤を経て、いまは自然派ワインの作り手KONDOヴィンヤードから譲り受けたぶどうの搾りかすから種を起こす。旺盛な発酵力と味わいのよさを安原さんはこう表現する。

 「デンプンを食べる菌の量が圧倒的に多い。食わせてもよけいな酸が出ないんです」

 「食わせる」とは、種に小麦粉と水を追加して種継ぎをすることを指している。安原さんは種をよく観察し、種とともに暮らし、本当に生き物として接しているのだろう。その言葉も顔つきも、都会に生きる農民だと思わせた。菌を培養するための密閉式のガラス瓶と、種を作るための金属製のボウルが、彼の畑なのだ。

 「(種作りは)作り手がどれだけ菌の状況が見えるか。菌はしゃべらないから勘しかない。(本ごねや種継ぎを行う)タイミングが大事なんです。菌が『いまいいよ』って言うんですけど、ほとんど同じに見える」

 安原さんの作るカンパーニュは、自然がパンを作ると感じさせてくれる。皮にあるほろ苦さは炎の破壊的な力を。内側のしっとり感は清水の流れを。湧き立つ草っぽいフレーバーに九州の小麦畑に吹く風を思う。酸味もほぼなく、種は小麦の味わいを熟させることに徹している。

 アルティザンのパンが自然栽培の野菜とどのような相性をみせるかは、「自然農野菜とナッツ」というサンドイッチを食べるとわかる。バゲットの皮は硬くて、やさしい。生地の引きの強さはしっかりと噛(か)み締めさせてくれるし、かといって食べにくいかといえばそうではなく、唾液(だえき)をすばやく吸って気持ちよく溶けてくれる。口の中で小麦のつむじ風が吹く。それが、自然農の野菜と響きあい、話をする。にんじん、レタス、ブロッコリー。どの野菜も味わいは強靱(きょうじん)ながら、えぐみがなく、甘く、すいすいと食べられる。

 クルミ・ミッシュブロート。心地よい乾きのある中身にみしっと歯が入る。北海道のライ麦のグレイッシュなフレーバーはやさしく穏やかに渦巻く。クルミにある栗のような甘さが小麦の甘さに出会うと、しみじみとしたマリアージュが生まれる。

 自然農高菜グリッシーニは、いかにも九州らしい一品だ。ばりりっと砕ける。表面にふった塩とともに、予想したよりもっと輝かしい甘さがして、やがてじわっと麦の風味がたなびく。佐賀県・藤井農園の高菜漬けを使用。自然栽培のせいなのか、味わいがいままで食べたどの高菜よりずっとやさしい。これを買っておけば、急にワインが飲みたくなったときでも安心である。

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■アルティザン
福岡市中央区大手門2-10-17 ダイアパレス大手門第二101
092・724・6079
11:30〜18:30(月曜休み)

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PROFILE

池田浩明(いけだ・ひろあき)ライター

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

BOOK

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