東京の台所

<141>再婚2年、結婚生活で得た教訓

  • 大平一枝
  • 2017年3月29日

〈住人プロフィール〉
 会社員(女性)・48歳
 分譲マンション・3LDK・京王線 笹塚駅(渋谷区)
 入居18年・築18年
 夫(44歳・不動産業自営)との2人暮らし

    ◇

 26歳で結婚。4年後マンションを買った。39歳で離婚。ローンごと引き受け、マンションは自分のものにした。46歳で、行きつけのバーの常連と再婚。相手は初婚で4歳下。まだ1年3カ月で、新婚と言える。

 あまり物を持たないようにしているという台所や食器棚から、ビアグラスやシャンパングラスだけは次々出てくる。近所にスーパーがあるので買い置きをしないと言うが、お気に入りの銘柄の缶ビールはストックを欠かさない。

 つまり酒が好き。ひけらかさないが、聞けば聞くほどこだわりが人一倍ある。独身時代はバーボン、次にスコッチ。それからシャンパンに目覚め、シャンパンバーに通った時期も。マスターにいちばんおいしくのめるグラスはどこで手に入るか、聞いて購入した。今はクラフトビールに夢中だ。

 「二人とも平日は働いているので、土日に絶対飲みに行きます。土曜日は朝から掃除や家事、買い出しを済ませ、だいたい15時頃から出かけますね。事前に調べておいて、今日はあそこのクラフトビールを飲みに行こうと決め、電車に乗って遠方でも行きます。私はIPAやスタウトが好き、彼はベルジャンが好きですが、たいてい私と同じ物を頼みます。と言ってもふだんは2パイントぐらいずつで、21時頃帰宅して家でまた飲み直します」

 ビールの味を楽しみたいので、食事はとらないことも。そんなときは帰宅後に蕎麦などを食べる。または、飲んだあとにハンバーガーショップへ。「すきっ腹で飲むのが好き」と豪快だ。

 酒好きなら、こんな女性と飲むのはさぞ楽しいだろう。好きなことを徹底して楽しむ。そういう趣味を持てることは幸せだ。

 出会いの場が酒場だけあって、彼は彼女以上に酒豪だそう。酒がうまいことふたりをつなげている。バランスのいい夫婦だ。

 「前の結婚はお互いに忙しくて、彼は土日はぐったりずっと寝ていました。ある芸能人が離婚理由を“彼と何一つ共有できなかった”と言っていて、はっとしました。私も全く同じ。一緒に暮らしている意味がわからなくなっていた……。きっと元夫の方もそう思っていたことでしょう」

 互いに一人暮らし歴が長い。仕事も持っている。他人に乱されたくない自分のペースというのもあろう。40代から始める結婚生活は、すりあわせる部分と、無理にすりあわせない部分の両方を持つとよさそうだ。彼女は平日、仕事が早めに終わった帰りは、ビアパブに立ち寄り、小説を読みながらビールを飲む。

 「お気に入りの店で読書しながら飲むと、頭が完璧にオフになる。本とビールは切っても切り離せない。そのひとりの時間も大好きなんです」

 ハーフを2杯ほど飲んでから帰宅する。一人で飲むのも二人で飲むのも大切。なるほど、なるほど。

 映画やアートの趣味もあまり合わない。だが、さして気にしていない。

 「そのうち私の好きな美術館に彼を連れて行きたい。行ったら行ったでけっこう楽しんでもらえそうな気がしているんです」

 逆に、彼から影響を受けて始めたのがランニングだ。

 「今朝も5キロ走ってきました。走るの大嫌いだったんですけどね。え、なぜ走るか? お酒をおいしく飲むためにきまってるじゃないですか~」

 最初の結婚生活を終えたとき、痛感した。

 「結婚生活って、言ってはいけないことと、言わなくちゃいけないことがあるのだなと、学びました」

 言わなくてはいけないことは「ありがとう」と「ごめんなさい」だ。皿を洗ってもらったら「ありがとう」。切らしたものを買ってきたら「ありがとう」。

 「ほんのささいなことなんです。ワインを注いでくれた、食卓に料理を運んでくれた、そんなことでもありがとうと感謝を伝えていると、けんかにならないんですよね」

 人生には無駄がないものだなあと思う。辛い経験も糧になり肥やしになる。賢明な彼女の前途に祝福を。

>>つづきはこちら

(次回は4月12日に掲載の予定です)

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PROFILE

大平一枝(おおだいら・かずえ)

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長野県生まれ。失われつつあるが失ってはいけないもの・こと・価値観をテーマに各誌紙に執筆。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『あの人の宝物』『紙さまの話~紙とヒトをつなぐひそやかな物語』(誠文堂新光社)、 『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)、『日曜日のアイデア帖~ちょっと昔の暮らしで楽しむ12か月』(ワニブックス)、『昭和ことば 辞典』『かみさま』(ポプラ社)ほか多数。HP「暮らしの柄」 ■レンズ協力:SIGMA ART|18-35mm F1.8 DC HSM、SIGMA 17-70mm F2.8-4 DC MACRO HSM

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