上間常正 @モード

生命感のときめき コムデギャルソンの新作

  • 上間常正
  • 2017年4月14日
  • いずれもコムデギャルソンの2017年秋冬コレクションより(撮影・大原広和)

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 今年秋からのファッションの新作発表が、先月でほぼ出そろった。新聞報道やネット中継などで見た中で、最もインパクトを受けたのがコムデギャルソンの服だった。一見したところでは奇妙な形なのに、強烈な磁力というかオーラがあって、パリのショー後に東京で開かれた展示会でショーのビデオを何度も繰り返して見てどきどきしてしまうほどだった。

 ショーの最初に登場したのは、つぶれた繭(まゆ)とか単純に図案化した雲のような白い詰め物から頭と脚だけ出た服。その大胆な凹凸は、コムデギャルソンが1997年春夏に発表したテーマ「ボディミーツドレス・ドレスミーツボディ」の通称〝こぶドレス〟を連想させる。しかしそれは、体形に沿ったドレスの形に異議を放つための膨らみで、激しい動きの舞踊にも使えるほどの服としての高い機能性もあった。

 今回の服は、体の形や動き方についての近・現代的な常識から全く自由に、体と服の関係をゼロから考えてみるたくらみのように思える。この服と体の間で手は何をしているのか、肩や腰をどんな風に動かしているのか? そんな楽しい連想も湧いてくる。少し離れてペアでゆったりと歩くモデルたちは、お互いに服の中で起きている思いを伝え合っているようにも見える。

 その次は、無数の糸や小さな端切れを圧縮したフェルトのような素材の、やはり異様な凹凸のある服だった。リサイクル素材を使うにしても手間がかかり過ぎる。そんなことよりも新たな形を作るためには、素材そのものから徹底して手をかけた作り込みが必要だったということだろう。続いて登場した赤い服では、1人だけは腕や肩の位置が分かるデザインだった。しかし、前までの服を見ていた目には、その方がむしろ妙な欠落感があって不自然に映った。

 この赤い服の欠落感を力技で補ったかのような、伝統的な形に無数のビーズを縫い付けたり小さなベルを飾ったりした手仕事満載の黒と白の繊細で美しい服も。かと思えばまた一転して、茶色い紙をひねり上げた素材やアルミ箔(はく)、化学製品でできたフェイクの革素材などで自在に造形した服が次々と登場した。見ているうちにどんどん引き込まれて、自分がこの服を着たらどうなるかとの想像が広がる。

 レディースの服を見ていてそんな思いに駆られたのは、初めてのことだった。それは多分、服との関係では経験したことのなかった〝解放感〟なのだと思う。家に帰って部屋着に着がえたり、ゆるいカジュアル着やレジャーウェアを着たりする時とは違う、服と自分の関係そのものからの解放感といっていいのかもしれない。服との関係ということにしても、そもそもは常識や、子供の頃にたいていは誰かから知らずに押し付けられたもので、自分でちゃんと考えてみたことがあったのだろうか?

 今回のコムデギャルソンの服が誘ったのは、そうした問いだったのではないか。1980年代の終わり頃からパリや東京でコムデギャルソンのショーを見てきたのだが、デザイナーの川久保玲が毎回やってきたこと、表現してきたことは常識や規制、同調への押しつけからの「解放」だったのだと思う。今回の新作では織った素材を一切使っていない。経糸(たていと)と横糸で織るやり方が根本的に免ることのできない一種の規則性からいったん離れてみる試みだったのだろう。

 今回のショーのビデオを見て特に感じたのは、パリでの会場の観客と服を来たモデルとの間、そしてモデルたちの間にも深く共有された出会いの場があったこと。そのビデオと自分の出会いでも、多分同じような共有感があったことだった。またそれは川久保と素材、服の制作やショーに関わった人たち、この服を売るスタッフたちとの間でも共通した場なのだと思う。

 そうした人や物との出会いの中で、深い共感の場を創り出すのは並大抵のことではないだろう。しかもこの場というのは現実の空間ではなくて、自分・人・物の間にいまできた確実に存在しているのに目には見えない虚の空間というしかない場なのだ。やっとできても、すぐ消えてしまうかもしれないし、どう変わっていくかも分からない。デザイナー川久保は、艱難(かんなん)辛苦を続けながら作りだしたそんな出会いの場で、自分が生きていることを感じてときめいているに違いない。だから見る方も同じようにときめくのだ。

>>17年秋冬パリ・コレクション 写真はこちら

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PROFILE

上間常正(うえま・つねまさ)

写真

1972年、東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。88年からは学芸部(現・文化部)でファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化学園大学・大学院特任教授としてメディア論、表象文化論などを講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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