川島蓉子のひとむすび

<15>料理人も栄養士も生徒も企業も巻き込んで~「和食給食応援団」(後編)

  • 文 川島蓉子
  • 2017年4月19日

すしの体験授業。生徒たちに調理の過程をみせることも大切です(写真はすべて「和食給食応援団」提供)

  • 色やバランスなどを意識すると「美しさ」が見えてくる、と丁寧に児童に説明する料理人の松山さん

  • 料理人と児童たちが一緒に盛り付けするワークショップも。これは、大根やきゅうりなど5種類の漬物を盛り付けた事例

  • 和食給食献立の開発もサポートしている

  • 和食文化の誇りである、だしの魅力を伝えます

  • 積極的に和食を取り入れる、学校の栄養士さんたちも増えています

  • 「給食は日本の食の最後のとりで。そのとりでを守るためならどんな協力も惜しみません」と語る西居豊さん

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>>和食給食応援団(前編)から続く

 前回、「和食給食応援団」をご紹介しました。学校給食に和食を取り入れることで、日本の食文化を未来につなげていくためのさまざまな活動を行っている団体です。リーダーを担うのは、合同会社五穀豊穣(ごこくほうじょう)の代表を務める西居豊さん(34)。

 たとえばその活動の一つが、料理人による学校を訪問しての食育授業や調理。写真は、児童たちも一緒に盛りつけをするワークショップです。ほかにも、和食給食献立サポート、栄養士・調理師向け講演・調理実習会、推進企業パートナーによる食育授業など、その活動は多岐にわたります。なぜ、このようなユニークな形がうまれたのでしょうか。

 もともと西居さんは、大阪・堺の工務店の息子として、近所の職人や商人と日常的に接しながら、そして「だんじり祭」を当たり前のように体験しながら育ちました。「祖父母が大分で農業を営んでいて、夏休みは農業を手伝いに行っていました」とも。

 幼い頃からの経験は、まさに生産と商いの原点に触れることであり、昔ながらの日本の良さを体感することでもあったのです。小学生時代から「商い」を志し、大学時代にベンチャービジネスを手がけてもいました。

 卒業後はマーケティング会社に勤め、当時、華やかだったIT長者の世界を夢見た時期もありました。しかし、一次産業に関わるプロジェクトを任され、農業や漁業の現場を回るほど、本来の価値が伝わっていないと感じるようになり――衰退していく日本の一次産業を何とかしたいという思いが強まっていったのです。ITバブル崩壊を機に、自分が関わった一次産業関連の事業を、もっと手伝いたいと考えるようになりました。 

 2009年、マーケティング会社を辞めて合同会社五穀豊穣を興し、農村漁村活性化のため、一次産業の販路拡大ビジネスをスタートさせました。当初は資金が足りなくて、週末は路上で移動式のバーをやっていたといいます。

 本業である一次産業に深く関わっていくうち、日本の食材を用いた和食文化が細っていることに気づき、大きな問題と感じるようになりました。「和食は、家族や地域の絆を強め、故郷や日本の良さを再認識し、日本人であることに誇りを持つことにつながっていく」。その考えを広めるにはどうしたらいいか――行き着いたのは「これからを担っていく子どもたちに伝えること」でした。

 それで2014年、「和食給食応援団」を結成して事務局長を担うことに。和食料理人に依頼して、和食献立を考えてもらい、栄養士の人たちに伝えて、学校給食に取り入れてもらうことを始めました。ミシュランで星をとっている料理人にもツテもなく訪ね、丁寧に説明した上で関わってもらう。一方で学校にアポイントを入れ、和食を給食に取り入れてくれないかと持ちかけ、一つひとつ実現していったのは、前回ご紹介したとおりです。

 料理人さんは、一食平均250円という範囲の中で、栄養バランスを考えてメニューを組むという制約の中、惜しみなく知恵と技を使って献立を提供してくれました。受け入れた学校の生徒たちは、和食の給食を楽しんでおいしそうに食べてくれました。学校の栄養士さんたちも、積極的に和食について学ぼうとしてくれるように――関係者それぞれが、この活動の意義と手応えを感じていったのです。

 ただ、資金のやりくりは厳しい状況が続いていました。そんな中で大きな転換点になったのが、和食材メーカーに推進企業パートナーとして協力してもらうこと。たとえば豆メーカーに声をかけ、昆布や大豆の持っている日本の伝統的な食材の重要性についての食育授業を行いながら、将来的に給食に取り入れることを考えてもらう。和食材メーカーは、和食について豊富な知識と経験を持っていて、和食の良さを知っていて存続を願っている。そこが西居さんの思うところと同じだったのです。

 一方、受け入れる学校側にとっても、企業の専門家が子どもたちに向けて、食育授業をしてくれるのは意義のあること。双方にとってのメリットが一致して、JAグループ、三井製糖、フジッコ、マルヤナギ、にんべんなど、「和食給食応援団」を応援する推進企業パートナーは現在、60社以上にのぼります。昨年度は、西居さんは全国102地域を訪れ、和食給食の大切さを伝える活動を行いました。2017年3月までに提供した給食は、のべ200万食を超えるそうです。

 「一次産業は、食べる人が価格を決めるところが大きい。子どもたちに、生産者に思いをはせられるように育ってほしい。それが一次産業を応援する力になっていくと思います」。自分の足を使って全国を歩き、多くの現場を見聞きしながら、身を持って体験してきた西居さんの、実践を伴った熱意が人の心を動かし、巻き込み、かたちを作っていったのです。わが身を振り返って、こういう活動は、年齢や経験に関係なく、ささやかなところからできるのではないかと感じ入りました。

 仕事とは、何らかのかたちで、社会とつながり、誰かのお役に立っていくこと。そう思うと、どんな仕事にもその要素はあって、そこを見つけて工夫してみること、自ら動いてみることが大事だと思ったのです。西居さんの熱意と勇気が、大きなヒントを与えてくれました。

■和食給食応援団(わしょくきゅうしょくおうえんだん)
http://washoku-kyushoku.or.jp/

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PROFILE

川島蓉子(かわしま・ようこ) 伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト

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伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。多摩美術大学非常勤講師。 日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。
ifs未来研究所 http://ifs-miraiken.jp

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