Woman’s Talk

かつてない幸せと緊張が混ざった撮影でした 安藤サクラさん(女優)

  • 2017年4月20日

  

身に起こるすべてが影響する仕事

 10年前のスクリーン・デビュー以来、世の中をうまく生きられない、傷みを抱え込んだ人を独特の雰囲気で演じ、圧倒的な存在感を放ってきた。

 「女優をめざしているのではなく、役柄をめざすといいますか」。そう語る言葉に、人生を描くという生業(なりわい)を持った、ひとりの表現者としてのあり方がみえる。

 「自分の、そのときどきの肉体や魂が映る仕事だと思っているところがあります。アクが強い役が多くて理解できないこともあるのですけれど、その人の言葉を発することで、あ、こういう思い、考え方もあると体で知るというのかな。思考回路が倍以上にふくらんでいく。いろんな経験、自分の身に起こるすべてが影響する、すごい仕事だと感じます」

 5月6日に公開の『追憶』(東宝)に出演。ひとつの殺人事件をきっかけに、刑事(岡田准一)、被害者(柄本佑)、容疑者(小栗旬)という形で25年ぶりに再会した3人の男。捜査が進むにつれ、封印されていた彼らが背負う運命の悲哀がひも解かれていく。安藤さんは、親に捨てられた3人を育てた、能登の海辺にある喫茶店の店主・涼子を演じた。監督が降旗康男、カメラが木村大作と日本映画の歴史を作りだしてきた名匠2人が手がけた、ずしりと響く人間ドラマである。

支えてくれた手作りのストール

 「おふたりが撮られるという作品に呼んでいただいたとき、え、私でいいんですか、まちがいじゃないですかと思ったくらいびっくりしました。脚本をいただいてからも、ああ、すごくやりたい!と。でも、役柄としてはこれまでになくとても難しい役で、昂(たか)ぶりから今度は一気に不安に襲われたんです」

 そこで安藤さんは撮影に入る前、子役の男児3人と「プライベートを過ごさせて欲しい」と制作側に申し出たという。

 「スタッフは誰もいず、私と3人だけで我が家の近所の喫茶店に行ったり、散歩をしたり、鬼ごっこをしたりして丸1日を密に過ごしました。子供たちの目って純粋で、たぶんすべてを物語るし、涼子との関係性もごまかしがきかないだろうと思ったからです。大作さんのカメラはちょっとでも嘘があると見抜きますし、それを確実に映してしまうだろうから」

 だが撮影に入ってからも、不安は消えなかった。

 「おふたりの現場に自分がいるというだけで幸せでありながら、常に緊張と闘っていた感じです。夜、皆でごはんを食べに行っても、すっかり食欲がなくて」

 そんな撮影期間を支えてくれたのが、涼子のはおる1枚のストールの温かさだった。

 「衣装として採用されたストールは、私の幼なじみのテキスタイル・デザイナーが一から色を染めて作ったものなんです。富山の風景に馴染(なじ)み、3人が大人となる年月が経ってもそこにある色というのか。手作りでなければ出ない味が涼子のすべてを出していた。いま振り返るとあの1枚が、私の中で物語全体の流れをつなげてくれていたように思います」

 取材中、表情の中に生まれたままの無垢(むく)な子どものような、あるいは年を重ねた人の諦観(ていかん)にも見えるような、不思議な“貌(かお)”がのぞいた。それが安藤サクラという役者の持つ、えも言われぬ深みなのだろうか。

 「映画が完成して、降旗監督と大作さんの画(え)の中で、同世代を生きる俳優の人たちと自分の名前が並んでいるのを見て、感極まってしまいました。でも、緊張の糸は張り続けたままでほどけることがなかった。この糸は、これから先もずっと張っていなければいけないもの。そう思っています」

撮影:渞忠之/文:水田静子

    ◇

あんどう・さくら

1986年、東京都出身。映画『風の外側』でデビュー。以降、映画、ドラマ、舞台と活躍を続ける。数多くの映画賞を受賞。2016年には『百円の恋』で、第39回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞した。映画の代表作に『愛のむきだし』『かぞくのくに』『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』『0.5ミリ』など。姉は映画監督の安藤桃子。5月6日(土曜)から出演映画『追憶』(東宝)が全国ロードショー。

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■この記事は、2017年4月11日付朝日新聞朝刊「ボンマルシェ」特集のコーナーの転載です。

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