パリの外国ごはん

インド街で食すインド・スリランカ料理「Muniyandi Vilas」

  • 文・写真 川村明子 イラスト・室田万央里
  • 2017年5月9日

 中華街ほどの規模ではないけれど、パリにはインド街がある。地下鉄ラ・シャペル駅と北駅の間、フォーブール・サン・ドニ通り沿いには、インド料理店や食材屋、化粧品店などが軒を連ね、混み合っているスーパーに入れば、スパイスの香りと野菜の品ぞろえ、買い物客の顔ぶれに、自分がどこにいるのかわからなくなるほどだ。

 もう10年くらい前になるけれど、親しい友人家族の家のお手伝いさんが、スリランカの人だった。とても料理好きな彼女がある日、祖国の料理を作るというのでお夕食にお邪魔したのだが…それが、ほんっとうにおいしかったのだ。そのときから、現地で食べたい!とスリランカ旅行を何年も考えながらもいまだ実現できておらず、思いは募るばかり。そんな私を1年ほど前、「たぶんスリランカの人がやってるお店だと思うんだけど」と、(イラスト担当の)万央里ちゃんがインド街へ連れ出してくれた。

 きれいめで観光客が多いレストランから、ベジタリアン、ローカル感漂う食堂とある中で、とりわけにぎわっているMuniyandi Vilas。店頭で、発酵させたパロッタ(南インドのパン)の生地を伸ばして成形していて、その光景に足を止める人も多い。

 店内に入ると、まず左側にショーケースがあって、そこに揚げ物やカレーがずらっと並べられている。テイクアウトもできるから、持ち帰る人でまずそこに列ができている。たまたまこのショーケースの前の席が空き、腰掛けると、人の出入りの激しい慌ただしさのある中、初めての地に旅行をしたときのように気持ちが高揚した。壁に表示されたメニューをずっと眺めながら、それらがどんな料理かを知りたくて仕方なかった。もう何度も来ている万央里ちゃんに教えてもらいながら、料理名を記憶に留めたかった。運ばれるお皿があれば目で追い、なんだなんだ? と話している私たちを、店長らしきムッシュがなにかと気にかけて何度もテーブルに様子を見に来ては声をかけてくれ、でもその態度に反して少しぶっきらぼうな言い方にとても好感を持った。

 数週間前に、久しぶりでMuniyandi Vilasへ万央里ちゃんとランチを食べに出かけた。混んでいる時間帯は外して、近くのスーパーで買い物をしてから2時半くらいに行ったにもかかわらず、店内にも外にも待っている人たちがいた。

 順番を待つ間、外で、パロッタ作りに見入る子どもたちの後ろから、私も、瞬く間に生地が伸びてくるくるっと丸められる様を見ていた。発酵した生地の横にギーの入ったケースがあって、それを塗るのだけど、そのギーだけではない油分がすでに生地の中に結構入ってるだろうと思われる伸び加減。ここで生地を作る人はいつも見応えがあって、ずっと見ていても全然飽きない。

 ほどなくして席に案内されると、ショーケースのすぐ先にある、二人横並びで、おまけに外に向かって座るようになっているテーブルだった。

 私たちの後ろ手にテーブルが並んでいるので、運ばれていくお皿が全部見られる特等席。早速メニューを広げ、今日は何を食べようかと考えるが、これもあれも気になって決めきれない……すぐに注文を取りに来たお兄さんは、むちっと弾力のありそうな体格で、ちょっと威圧感があった。「まだ決まってないです。」と答えた私に、「いつものおじさん、今日、いないっぽいね。」と万央里ちゃんが店内を見回して言った。

 迷いに迷った末、お豆の入ったヴァダイ(揚げ物)と、パロッタ2枚に野菜料理3種類とお肉のカレーが1つ(羊肉をチョイス)付いたセット、それにイカ入りのビリヤニを注文。まず万央里ちゃんのビールと、すぐにヴァダイ、少しして私が物は試しと頼んだインドの炭酸飲料がきた。早速どんな味だろうと飲んでみると、子供用のフルーツの香料が効いた歯磨き粉とうがい薬を足したような味がした。うーーーむ……。 

 ほどなくして、なぜか中華のお皿に盛られてくるパロッタとカレー類、ビリヤニが一気にやってきて、匂いをかいだら空腹も最高潮に。あったかいパロッタをいちばんに頬張った。ひと口食べると、ずーっとこれだけを食べ続けてしまうおいしさがある。お野菜のカレーは、ホウレン草と、ナスにダル。どれもマイルドな味で、このパロッタとぴったりだ。それに対して、羊肉のカレーはかなり刺激的だった。じんわり汗をかく辛さに、ダルとホウレン草、それにビリヤニについてきた卵を交互に食べる。そう、ゆで卵はこの場合、固ゆでがいい。でもこの日いちばんの発見は、初めて具をイカにしてみたビリヤニだ。思えば日本のイカ飯だって、パエリアだって、イカとごはんはいつだって好相性だものね、と再認識したお皿。ちょっと入っている紫タマネギと、添えてあったヨーグルトソースがまたよく合った。このソースはパロッタに少しつけて食べてもおいしい。

 羊肉のカレーの辛さに満腹中枢がいつもより反応したのか、おなかいっぱいになった。パロッタとヴァダイをお持ち帰りしたかったけれど、また買いに来ることにする。止まることなく作り続けられている、入り口脇のパロッタの作業台を見ながら、次回はチーズ入りのパロッタにして、お野菜のカレーをメインにいくつか食べたいなぁと思った。

■Muniyandi Vilas (ムニヤンディ・ヴィラ)
207, rue du Faubourg Saint-Denis 75010 Paris
01 40 36 13 48
12時~15時、18時~22時30分

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PROFILE

川村明子(かわむら・あきこ) 食ジャーナリスト

写真

東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)
日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

室田万央里(むろた・まおり) 料理人

写真

無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
Instagram @maorimurota

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