インタビュー

“内向き志向”にノン、夏木マリ

  • 2017年5月11日

4月下旬、パリ公演の会場となったルーブル美術館を背景に
(撮影/濱 千恵子、協力/Hotel Le Meurice)

 歌手、俳優、演出家など、多彩な顔を持つ夏木マリさん。長年のキャリアを誇るベテランでありながら、持ち前の情熱と好奇心で、新しいクリエーションの地平を果敢に切り開きつづける。仕事のジャンル、年齢、文化の壁さえ軽々と飛び越える夏木さんのバイタリティーは、“ロクマル(60歳)”を越して増すばかり。

 そんな夏木さんにとって、独り舞台として24年前に始めた「印象派」は、今やあらゆる活動の核となるライフワークだという。その名は19世紀末、独立と反抗の精神で権威に立ち向かい、新たなアートの潮流を生んだ同名の芸術運動に由来する。

 当初は音楽劇に似た形式を取っていたが、身体言語の可能性を追求していくなかでコンテンポラリーダンスの要素が色濃くなり、現在は「マリナツキテロワール」と名付けたカンパニーを率いて、複合的な舞台を作り上げる。

 この度、夏木さんは最新作を掲げて、久しぶりの海外公演のためパリを訪れた。夏木さんが世界のどこよりも多く訪れ、愛着を持つという花の都にて、今の時代に冒険すること、不安に向きあう姿勢について語ってくれた。

  

    ◇

――東京、京都、パリの3都市で上演された最新作の『不思議の国の白雪姫』では、それぞれの会場に適応しうる演出として、初めて映像を舞台に取り入れたとのこと。iPadをいじりながら踊るなど、斬新な演出もありましたね。

 舞台芸術と映像は、本来相反するものです。舞台では生身の身体が素敵なのですが、どの会場にも適応できる演出と、今のテクノロジーと融合できる方法を探りました。それから、字幕は好まれないと聞いて、パリ公演のセリフはフランス語に挑戦しました。自分なりのチャレンジ精神を持ってきたかった。

 「印象派」は1993年に始めて、実はソロワークの8作品で終わらせるつもりでした。かつての印象派画家たちの展覧会も8回で終わったので、そのくらい続ければ、どこかに着地できるかなと……。ところが、数を重ねるほど色々やりたくなった。大変ですが、今は私に「印象派」があるからこそ、他でも冒険できると思っています。“プレイヤー”の仕事は待機が多いのですが、待ってばかりだと、納得する結果を出せないことが度々あります。

『印象派NÉO』パリ公演(4月25日、ルーヴル美術館 オーディトリアム)photo: (c) Jean Couturier

――人々が不安にさらされている今の時代は、どこも“内向き志向”が強いといわれています。そのような風潮のなかであえてリスクを取り、海外公演にも踏み切られたのはなぜでしょうか。

 “危ない”と言えば、どこも危ないです。怖いと思ったら、一歩も家から出られないでしょう。実は、9.11のとき、「印象派」のパリ公演が予定されていたのですが、その時の私の気持ちがめげていて、中止したのです。高野山の僧侶と一緒に作る舞台で、当時の私自身も含めたスキンヘッドの集団がぞろぞろと歩いていたら危ないと言われて、断念しました。

 深く反省しています。その反省があるからこそ、パリに来ました。今回は初めての試みで、公演にあわせてH.I.S.でパリへの特別記念ツアーも組んでみました。私の「印象派」を利用して、今、パリに行こうよ、と。

 この街では、衣食住の何もかもがチャーミング。石文化なので、橋の上で洋服の写真を撮っても、映え方がまったく違いますね。紙文化の人間としては、この違いに高揚します。写真撮りまくりです(笑)。でも、スタッフの皆には、「パリに来たからといってはしゃがないで、本番まで集中せよ!」と言いました。自分も公演が終わるまでは、あまり外に出ないように心がけて……。

オープニングのシーンで夏木さんが着用した赤いスーツ、クロージングでの刺しゅうのレースガウンは、パリのオートクチュールメゾン「ジバンシィ」のもの。前衛的な舞台と、妖気漂う夏木さんの圧倒的な存在感にマッチした
photo: (c) Jean Couturier

photo: (c) Jean Couturier

――夏木さんは途上国にも目を向けられ、9年前からご自身の「ワン・オブ・ラブ」プロジェクトを通じて、エチオピアを始めとする国々の子供たちや母親に対する支援を行っていらっしゃいますね。

 このプロジェクトの発足前から、個人的に支援を始めていました。私には子供がいないので、知らない国の子供を対象に。そしてパートナーが出来て、一緒に「音楽を届ける旅」として、エチオピアへ向かったのです。パリのラグジュアリーな旅とはまったく異なるベクトルですが……。その結果、“届ける”ではなく“届けさせていただく、歌わせていただく”という経験をして帰ってきました。

 エチオピアの赤いバラからインスピレーションを得た国産のバラ「マリルージュ」のプロデュースと、毎年6月21日(世界音楽の日)のチャリティ・ライブを決めて、このふたつの収益を通じて支援しようと緩やかにスタートしました。今も友人レベルで、そんなに急速に大きくはなっていないのですが、そのほうが誠実に支援できるかなと思っています。

 責任があるから、この活動は一生続けるつもりです。「ワン・オブ・ラブ」、「印象派」と3年前から始めたライブハウスツアーの3つは、自分が発信しているものですから、ちゃんと形にしていくのは当面の目標かなって思っています。

 保守的にならず、攻撃的に生きます。そのほうが性に合っているみたい。失敗しても攻めていく。失敗は多いのですが(笑)、やらないよりは経験したほうがいい。そのぶん不安定ですが、そのほうが、私は気持ちいいですね。何事も新人のつもりでやっています。だから、いつもドキドキです。

(文/ライター・田村有紀 在パリ)

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夏木マリ(なつき・まり)

歌手・俳優・演出家。1952年生まれ。73年歌手デビュー、80年代から演劇を始め数々の栄誉ある賞を受賞。93年から自らによる演出作品『印象派』シリーズを制作。この活動を通じて若い才能の育成に貢献し、2010年、モンブラン国際文化賞を受賞。『カッコいい女!』他、著書多数。心身の健康や美を追求する独自のメソッドやスタイルは、幅広いファンから支持を得ている。
http://www.natsukirock.com/

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