上間常正 @モード

評判の映画「メットガラ ドレスをまとった美術館」、ファッション展のドキュメンタリー

  • 上間常正
  • 2017年5月12日
  • メットガラに主役で登場した歌手のリアーナ (c)2016 MB Productions, LLC

  • 打ち合わせをするアナ・ウィンター(左)とアンドリュー・ボルトン (c)2016 MB Productions, LLC

  • 展示作の一部 (c)2016 MB Productions, LLC

  • メットガラの会場入り口 (c)2016 MB Productions, LLC

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 ニューヨークのメトロポリタン美術館(MET:メット)で毎年5月はじめに催される「メットガラ」は、世界最大のファッションの祭典(ガラ)とされている。その年の、この美術館の服飾部門の目玉となるファッション展に先立って開催される一日限りのオープニングイベントで、世界中から招かれた有力デザイナーや映画スターなどのセレブたちが着るゴージャスな衣装が注目を浴びる。

 このイベントと展覧会の制作過程を記録したドキュメンタリー映画「メットガラ ドレスをまとった美術館」が、東京・渋谷のBunkamura ル・シネマなどで公開されていて、なかなか評判のようだ。東京はファッションの発信力では世界有数なのに、これほど華やかな催しが日本にはないこと、また、華やかさの裏には地道で粘り強い努力が込められていることなどに、改めて気づかされるからだろう。

 映画は2015年に開催された展覧会「鏡の中の中国」の時の記録。〝シノワズリー〟と呼ばれた中国の布地や陶磁器、装飾品などがヨーロッパに与えた影響とファッションに及ぼした足跡を、〝東西の終わりなき対話〟をテーマにたどる企画となっている。展覧会は美術館・服飾部門の主任キュレーター、アンドリュー・ボルトン、メットガラは米ヴォーグ誌の編集長で美術館の理事でもあるアナ・ウィンターが担当している。

 ガラと展覧会の企画・制作はこの2人が二人三脚で率いる形で、開催の8カ月前から本格的に始まる。2人は出展交渉などのためにパリや中国などを駆け回る。展覧会には、中国をテーマに見事な服を発表したことのあるジャンポール・ゴルチエやカール・ラガーフェルド、トム・フォード、ジョン・ガリアーノらの有名デザイナーも協力。イヴ・サンローラン財団もファッション史に名を残す貴重なドレスを出品する。

 そんな様子を、ドキュメンタリーの名手、アンドリュー・ロッシ監督が生々しくカメラで追っていく。芸術監督を務めた中国のウォン・カーウァイ(王家衛)監督の、センスの冴(さ)えを見せた2人とのやり取りも興味深い。映画「プラダを着た悪魔」で登場する一流ファッション誌の冷徹な辣腕(らつわん)編集長のモデルとされたアナ・ウィンターは、的確な判断を瞬時にくだすという意味ではその〝悪名〟をも上回る活躍ぶりを見せる。メットガラの席料は、一人25000ドル(約285万円)。600席がすぐ満席に。その収益金は、この美術館服飾部門の1年間の活動資金の多くを賄っているという。

 展示された服・服飾品は約150点。会場作りはメットのアジア美術部門が共同参画していて、中国の豪華な宮廷衣装や、中国やエジプトなどアジアの歴史的な石像・美術品なども並ぶ。多くを占めるゴルチエら現代のデザイナーの服、そして清王朝の宮廷服もゴージャスで美しいのは確かなのだが、しかし日本人の感覚からするとやや一面的に思えることも否定できない。そしてついでに言えば、展示された服はかつて輝きを放っていたヨーロッパのファッションの強烈な残照のようにも思えてしまった。

 この展覧会と並んで素晴らしい成功を収めた「アレキサンダー・マックイーン/野生の美」展(2011年)などでも、主催したアンドリュー・ボルトンは「ファッションは芸術のひとつだ」とのメッセージを込めたという。しかし登場したデザイナーたちは、「私は芸術家ではない」と語っている。服は着るためのもので、服のクリエーションは人が服を買って着ることで初めて成立する。だから、美術館的な意味での〝芸術〟とはジャンルが違うし、クリエーションとしての服の価値がどれだけ高いかどうかについては意味がないのだ。

 とはいえ、今を時めく多くの世界的スターやセレブが、ファッションの祭典にこれだけ集まるのは、見ているだけで楽しいし、またうらやましいことも確かなのだ。今年は、4日から「川久保玲/コムデギャルソン:間の美」展が開かれている。どんな反響が出てくるのだろうか?

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PROFILE

上間常正(うえま・つねまさ)

写真

1972年、東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。88年からは学芸部(現・文化部)でファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化学園大学・大学院特任教授としてメディア論、表象文化論などを講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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