インタビュー

最高密度で描く「東京のいま」 石井裕也×池松壮亮対談

  • 「夜空はいつでも最高密度の青色だ」話題の詩集を映画化
  • 2017年5月15日

石井裕也監督(右)と池松壮亮さん

  • 石井裕也監督(右)と池松壮亮さん

  • 自主映画出身の石井監督。「警備員さん付きで撮る現場は僕にはいまだに非日常。雑踏にカメラを持ち込む今回の撮り方の方がのびのびやれた」

  • 「ラスト サムライ」でデビューした池松さん。「大人たちが映画を通して世界と握手しているさまを見てきたので、外国が遠いものだという感覚はない。チャンスがあれば飛び込んでみたいですね」

  • タッグを組むのは本作で4回目。「見たことのない池松くんを引き出したかった」と石井監督

  • 池松壮亮さん(右)と、石橋静河さん (C)2017「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」製作委員会

  • (C)2017「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」製作委員会

  • (C)2017「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」製作委員会

 日本アカデミー賞作品賞など多数の賞に輝いた「舟を編む」の石井裕也監督の新作「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」が5月13日に都内で先行公開、27日から全国公開されます。昼間は看護師として命と向き合い、夜はガールズバーでバイトする美香(石橋静河)。建築現場の日雇い作業員として働く慎二(池松壮亮)。2人の出会いを通して、先の見えない時代を生きる都会の若者たちの心模様を繊細に描き出しました。石井監督とは4度目のタッグとなる池松さんと石井監督に、作品の裏側をうかがいました。

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 原作は、女性詩人・最果(さいはて)タヒの同名詩集(リトルモア刊)。生きることの名状しがたい苦しさやむなしさ、その向こうにある希望をシンプルな言葉で表現し、現代詩集としては異例の2万7000部を売り上げた人気作品です。「これを映画にしたいんや」。「舟を編む」でも組んだ映画プロデューサーから石井監督がこの本を手渡されたのが昨年春。ストーリーのない詩集をもとに、石井監督自身が物語を紡ぎ出しました。

石井: 詩集を映画になんて、むちゃぶりですよね。言われたときは、どうかしていると思いました(笑)。プロデューサーは、チンピラ崩れみたいな20代の僕に、「映画というものの全体をもっとよく見ろ」「物語を引いた目で見ろ」と、「舟を編む」というベストセラーの原作とベテランスタッフをそろえてくれた人。その後、「舟を編む」に通じる作品を何本かやった僕に、「もう1回お前のリズムを取り戻せ」と、この詩集を渡してくれたのではないか。お前の感覚と最果さんの感覚とを合体させて何ができるかやってみろ。そんなお題だと解釈しました。

誠実さを感じさせない純粋さ

 都会を舞台にしたボーイ・ミーツ・ガールの恋物語という設定が決まり、主人公としてまず思い浮かんだのが、WOWOWのドラマ「エンドロール~伝説の父~」や映画「ぼくたちの家族」「バンクーバーの朝日」で組んだ池松さんでした。

池松: 詩集は石井さんから受け取って先に読んでいました。自分が触れてきた詩集とは何か違う……何と言えばいいのかな、言葉以外のもの、言葉の意味のその奥にあるものをぶつけられたような感じがしました。ただ、映画になるとは思わず読んでいたので、出演の話をいただいたときは、「何を考えているんだ?」と(笑)。原作には作者の生きる物語は描かれていたけれど、ふつうの意味でのストーリーはない。これをどんな脚本にしようとしているのかと思いました。

石井: 原作は最果さんという女性の目線なので、そこに自分が近づいていって、どんな男性が見えてくるかを考えました。詩集を読んだ時に感じた言葉にならない感覚、もやもやしたむなしさや寂しさのようなものが出発点にはなっているんですけれど、これまでの池松くんのイメージとは違う人物を描きたいという思いもあった。長年付き合ってきて、こういう池松くんも見たい、こういうところを出した方がいいんじゃないかというものがあった。僕らの関係性の中の様々な要素が絡み合って、慎二のキャラクターに結実した感じです。

 年配の同僚や出稼ぎのフィリピン人作業員とつるんで遊びながらも、漠然とした孤独感を抱えている慎二。他人との距離の取り方に戸惑う一方で、偶然出会った美香に心を寄せ、アパートの隣室の独居老人とも静かな交流を重ねていきます。

池松: 脚本を読んで、有無を言わせずやりたいですと言わされた感じです。石井さんの思いをちゃんと受け取りたかったし、受け取らなきゃなと思いました。慎二は、まぁすてきな人物でしたね。自分というより、むしろ石井さんにすごく近い感じがしました。こんな優しい人間にはなれなかったなぁ、自分に演じられるのかなという不安もありました。
 隣人や周囲の人、それを取り巻く世界への向き合い方が慎二はとても優しい。自分のことよりもまず隣の人のことを考え、損得では動かない。そんな、誠実さすら感じさせない純粋さ。こういう人間になれたらなあと思いました。だからこそ、誠実の押し売りみたいなキャラクターには絶対にしたくなかった。見た人に「誠実な人だったね」なんて言わせないところまで行きたかった。現場で一番飛び交った言葉は、「純粋さと誠実さの度合い」。僕が演じて、石井さんが「もうちょっと上げて」「もうちょっと引いて」というのを繰り返した。ふたを開けてみると、不器用だとか優しいとか簡単にカテゴライズできるキャラクターにはなっていなくてすごくホッとしました。

人生で一度しかできない芝居

 一方の美香は、昼と夜との顔をそつなく使い分けているように見えながら、心の奥のむなしさや不安がぬぐえない女性。強さともろさを併せ持った複雑な人物像を、原田美枝子さんと石橋凌さんの娘でこれが映画初主演の石橋静河さんが好演しました。

石井: 美香は生きにくさそのものという感じのキャラクター。最果さんの詩の気分をわりと直接的に反映させて造形しました。石橋さんは新人だということが最大の弱点であり、最大の魅力。たぶん現場ではいっぱいいっぱいで、役柄がどうこうなんていうところまで想像が及んでいなかったんじゃないかな。初めて映画に出るということの緊張や不安を、ストレートに役に反映してくれました。本気で緊張し、本気で不安にさいなまれていた。人生で一回しかできない芝居をしてもらったなと思ってます。

池松: 本当に石橋さんが生きてきたものがちゃんと映画のパワーになっていた。あの役が石橋さんで良かったなと思っています。美香という人は世界をきちんと見つめて、そこにちゃんと立っている。僕なんか、もっともっと目をふさいで軽く生きているのに。だからすごくまぶしかったし、この人を放っておけないと慎二として思うことができた。なんと言えばいいのか……「毒」みたいなものがあるんですよね。 純粋な物って、今の時代は毒とされると言うか、 邪魔なものとして扱われやすいような気がするんです。純粋に生きるというのはとても辛い。けれども、だからこそ、それが出来ない自分にとってはとてもまぶしく見えました。

好きだけれど好きだと言えない街

 2人がさまよう東京の街がこの映画のもうひとつの主人公。夜の渋谷や新宿の空気が驚くほどのリアルさですくい取られています。

石井: 脚本を書いた直後から、夜な夜なスタッフと街を練り歩きました。東京の街、やっぱ好きなんですよ。好きなんだけれど、どう考えたって暮らすのには適した町じゃない。だから嫌いだなんて言ってみたくなる。そんな愛憎のようなものを描いてみたかった。

池松: 石井さんが言いたいことはすごくよく分かります。そりゃ自分が暮らす街ですから、好きって言いたいんです。自分の暮らす街が一番だって、言いたいですし思いたい。でも、言わせてもらえない何かがある。楽しくないわけではないけれど、楽しいわけでもない。好きなわけでもないけれど、嫌いなわけでもない。それが一番正直な答えのような気がします。僕の出身の福岡もだんだん東京に似てきているかなと思うことがあります。福岡だけじゃなく日本のあちこちの街が、少しずつ東京に似てきてるように感じる。人が生き生きした顔しているとか、豊かな気持ちで暮らせるとか、そういうものが少しずつ感じられなくなっているような気がします。

 夜空の下できらめくビル群が水面に溶けたかと思うと、日の丸が一瞬ひるがえる冒頭の短いシークエンスが印象的。原作の詩を登場人物のモノローグとして織り込む一方で、言葉に頼らない映像表現もふんだんにとりいれ、深く感情を揺さぶります。

石井: 観客の想像力や感性と作品が合体した時に発生する感動みたいなものが一番強いと僕は信じているんです。全てをこういうものだと説明された上で投げられると、受容はできても心にはあまり残らない。とはいえ、そういう表現をしたくても無理な場合もある。今回はのびのびやらせてもらえたので、好きなことができました。
 気づかない人は気づかないかもしれないけれど、冒頭の場面では、これがいまの日本社会についての映画なんだということを示したつもりです。東京オリンピックを前にした東京の姿を描くということも当初から意識していました。すでに十分生きづらい人たちの話なんだけど、後から見直すと「あの頃はまだましだったなぁ」と思うかもしれませんね(笑)。軽率なことは言えませんが、どう考えても良くなる要素が見つからない。あらぬ方向に世の中が向かってるのは間違いない。そういう、混迷を極めていくような時代の空気を、そこに暮らす人々の気分とともに映画にしたかった。ベルリンや香港の映画祭で上映して、こういう都会で生きることの息苦しさとか、むなしさ、つらさということはたぶん全世界的にみんなが感じているのではないかと思いました。 それが何なのか、その原因は何なのか。さらに興味が湧いてきています。

池松: 僕たちが暮らす東京、いまの日本を描いた映画を通して、他の国の人たちと握手ができる感覚を受けとることができて、なんだかすごく救われた気持ちがしました。それが何なのか具体的には言いにくいんだけれど、同時代に生きていることを共有できたという実感があった。そういう映画に出られてうれしかったし、可能性を感じることができました。
 これはいつも感じていることですが、石井さんは毎作毎作、自分の気分や感覚をそのまま映画にしてくれる。なぜそんなことができるんだろうと思いますね。特に今回はそれが色濃く出ていた。生きづらいように見えるかもしれないけれど、この映画は希望を描いている。例えば美香を不器用な人間と片付ける人がいるかもしれない。近寄りがたい毒だととらえるかもしれない。でも、彼女が抱く率直な危機感とか、当たり前に見えることを疑うことは大切なのではないか。そんなことが伝わればいいなと思っています。

(構成・深津純子 撮影・鈴木愛子)

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■石井裕也(いしい・ゆうや) 1983年、埼玉県生まれ。大阪芸術大学の卒業制作「剥き出しにっぽん」(2005)でPFFアワードグランプリを受賞。24歳でアジア・フィルム・アワード第1回「エドワード・ ヤン記念」アジア新人監督大賞を受賞。商業映画デビュー作「川の底からこんにちは」(2010)でブルーリボン監督賞を史上最年少受賞。「舟を編む」(2013)で第37回日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀監督賞を受賞。戦前のカナダの日系人移民を描いた「バンクーバーの朝日」(2014)でバンクーバー国際映画祭観客賞を受賞。

■池松壮亮(いけまつ・そうすけ) 1990年、福岡県生まれ。トム・クルーズ主演の「ラスト サムライ」(2003)でデビュー。石井監督の「ぼくたちの家族」や「紙の月」「愛の渦」「海を感じる時」に相次いで出演し2014年の日本アカデミー賞新人賞、ブルーリボン賞助演男優賞を受賞し、若手演技派として高い評価を得る。近作に「海よりもまだ深く」「ディストラクション・ベイビーズ」「永い言い訳」など。

■「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」 2008年に女性最年少の21歳で中原中也賞を受賞した注目の詩人・最果タヒの第4詩集を原作にした恋愛映画。
監督・脚本:石井裕也 原作:最果タヒ(リトルモア刊「夜空はいつでも最高密度の青色だ」)出演:石橋静河 池松壮亮/佐藤玲 三浦貴大 ポール・マグサリン/市川実日子/松田龍平/田中哲司 エンディング曲:The Mirraz「NEW WORLD」
製作:テレビ東京、東京テアトル、ポニーキャニオン、朝日新聞社、リトルモア 配給:東京テアトル、リトルモア
(C)2017「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」製作委員会

5月13日(土)より東京・新宿ピカデリーとユーロスペースで先行公開、5月27日(土)より全国ロードショー。公式サイトはhttp://www.yozora-movie.com/

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