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<64>壁一面にアート本 理系店主が腕を振るう「街の食堂」

  • 文 吉川明子 写真 山本倫子
  • 2017年5月18日

 「僕が卒業した物理学科では9割9分の学生が大学院に進みます。でも、同期で僕一人だけ行かなかった。そうした道に進む自分が想像できなかったんです。担当教授に『飲食店に興味がある』って言ったら『理解に苦しむ』と言われました(笑)」

 そう笑いながら話すのは、JR千葉駅から徒歩約10分のところにある「Treasure River Book Cafe」オーナーの宝川紘司さん(33)。国立大学の理学部物理学科卒業という経歴の持ち主だが、今はアート系の本が壁一面に並ぶ小さな店を切り盛りしている。

 小さい頃から両親に連れられ、さまざまな展覧会に足を運んだ。中でも衝撃だったのがシュールレアリスムの巨匠・ダリだった。図録や画集を買うようになり、そこから写真、ファッション、建築、デザインといったアートの世界に広く興味を持つようになった。店に並ぶ約2000冊の本は、宝川さんが集め続けたもので、購入もできる(一部非売品)。

 理系の大学に進学したものの、ずっと興味を持っていたのは広告業界。就職活動もその方面に絞ったが、経歴が異色すぎたためか、希望はかなわなかった。

「別の道を考えた時に、飲食店は僕がやりたい広告作りにすごく似ていると思ったんです」

 広告会社はクライアントの意向をさまざまな表現で形にし、広告を通して一般の人に楽しさやあこがれの気分などを届ける。飲食店もまた、空間を作って料理を提供し、お客さんによろこんでもらう。

「飲食店は、飲み会を仕切る幹事さんや、友達や恋人、家族を連れてこようとする人が“クライアント”のようなもの。その人の要望に応えるべく、自分なりのものを作り出すのは広告と同じ。しかも飲食店の方がお客さんとの距離が近いんです」

 筋金入りの理系でありながら広告業界志望で、今はアート系の本が並ぶブックカフェを経営していると聞くと、意外性に富んだ経歴に見えるが、宝川さんの中では一本筋が通っており、確かに本人の“プレゼン”を聞けばうなずける。

 イタリアンとフレンチレストランで接客と料理を経験した宝川さんは、契約農家から直送された野菜や、新鮮な肉や魚を使ってさまざまな料理を作り出す。店のfacebookページをのぞいてみると、おいしそうな料理の写真が毎日のようにアップされている。ワインや世界各国のクラフトビールも充実しており、酒も進みそうだ。

「みなさん、街の食堂みたいな感じで来てくれます。貸し切りでの営業も多いんです」

 2010年のオープン以来、常に店にいる宝川さんは、いわば店と同化したような状態という。

「お店を7年もやっているせいか、お客さんが結婚したとか、時には離婚したといったプライベートなことを報告してくれたり、赤ちゃんの頃から来ていた子が小学生になって、入学式の後に遊びに来てくれたりするんです。この店がお客さんたちの人生のピースになっているのかなと思うと、店をやってて本当によかったと感じます」

 そんな宝川さんの望みは、「死ぬまで店をやる」ということ。

「僕がやるというよりも、お客さんがやらせてくれている。店を愛してくれているから、僕がやめるわけにはいかないという気持ちなんです」

■おすすめの3冊

「A GRAMMAR OF JAPANESE ORNAMENT AND DESIGN」(著/トーマス W. カトラー)
日本の建築物や芸術品、テキスタイルなどに描かれた文様を集めた解説書。「日本の伝統的なモチーフについてそれぞれ解説が加えられており、とても興味深い一冊です」

「HOTEL LACHAPELLE」(写真/デヴィッド・ラシャペル)
アメリカのファッション写真家による写真集。「大学時代にこの写真集と出合い、かっこいい! と思いました。これがきっかけでどんどんマニアックな方向に走るように(笑)。ごちゃごちゃと作り込まれた世界観が魅力的。これは非売品です!」

「DALI」
かつて日本国内で開催されたダリ展の図録。「僕が初めて買った図録がこれ。小学生の頃に見たこの展覧会は本当に感動しました。アート好きになった原点です」

    ◇

Treasure River Book Cafe
千葉県千葉市中央区登戸1-11-18第二潮ビル102
https://www.facebook.com/Treasure-River-Book-Cafe-113085445448907/

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