川島蓉子のひとむすび

<18>「飯島流おいしそう」の源にあるもの ~飯島奈美さん(前編)

  • 文・川島蓉子 写真・鈴木愛子
  • 2017年6月7日

フードスタイリスト 飯島奈美さん

  • 明るく温かい空気が流れる「7 days kitchen」

  • 「小さい頃から台所が大好き。愛情たっぷりの母の料理で育てられました」と飯島さん

  • 飯島さんの「おいしさ」が詰まった料理本もたくさん。最新刊は『ワインがおいしいフレンチごはん』(リトルモア)

  • 「イメージトレーニングが大事です」と語る飯島さん

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 映画『かもめ食堂』を見た時、ストーリーもさることながら、印象に残ったのは料理でした。トンカツ、鶏のから揚げ、おむすびなど、家庭料理でおなじみのものが続々登場。じゅじゅっと音が、ぷーんと香りが、サクっと食感が――「おいしそう」が画面を越え、おなかに届いてくる感じがしたのです。手がけたのがフードスタイリストの飯島奈美さんと知ってファンになりました。そして、映画『めがね』や『南極料理人』、NHK朝の連続ドラマ『ごちそうさん』を通じ、“飯島流おいしそう”を堪能するようになったのです。

 「いつかお会いしたいなぁ」と思っていたところ、知り合いに紹介してもらう機会が。ちょっとドキドキしましたが、話すほどにリラックスすることができました。目の光が強くて澄んでいる、話しぶりがやわらかくてきっぱりしている飯島さん。人となりは仕事に表れるものと感じ入ったのです。その場でインタビューを申し込み、引っ越したばかりという東京・富ヶ谷のアトリエを訪ねました。

毎日同じじゃないから、
フードスタイリストを目指した

 完璧に整理整頓された、ぴーんと緊張するアトリエだったらどうしようと思っていたのですが、ここにも“飯島流おいしそう”は表れていました。こぢんまりとしたビルの3階に、7 days kitchenと名づけられた飯島さんのアトリエはあります。自然光がふんだんに降り注ぐモダンな空間の中、人が立ち働いているキッチンから、「おいしそう」な雰囲気が発散されているのです。野菜を刻む音、鍋から立つ湯気、漂っている匂いなどをバックに、お話を伺いました。

 飯島さんは、子どもの頃から台所が大好きで、料理するお母さんのそばに「コバンザメのように」ついていました。お母さんの仕事は保育園の給食を作ることで、飯島さんはその保育園に通っていたので、一日三食とおやつ、すべてお母さんの手作りで育ったのです。

 料理好きだった飯島さんは、栄養専門学校に進みました。就職を決める段になって「毎日、同じ仕事じゃないことをやってみたい」と“フードスタイリスト”を目指すことに。80年代後半に登場した『オレンジページ』『レタスクラブ』といった雑誌には、たくさんの料理が載っていました。そこにスタッフとして記載されている“フードスタイリスト”とは、料理を作って撮影に立ち会い、ページにしていく仕事。飯島さんは、それをやってみたいと考えたのです。そして、知り合いに紹介されたのをきっかけに、厳しい面接試験を突破して、数多くのCMを手がけるフードスタイリストのアシスタントになりました。撮影のための準備全般から始まって、現場でのあらゆる雑務が仕事です。万全の段取りを組んでおかなければなりません。

大事なのは、「イメージトレーニング」

 現場経験を積むうち、飯島さんは「イメージトレーニングが大事」と考えるようになりました。仕事の最終形をイメージした上で、細かな準備と段取りを事前に組んで、実践していったのです。一方、現場で頻発する急な変更にも、即座に対応しなければなりませんが、ここでもイメージトレーニングは役立ちます。求められた変更に対し、即座に最終形をイメージして手を打つ……話をうかがいながら、新人アシスタントが“使える”助手になっていく姿が、目に浮かぶようでした。

 とともに、イメージトレーニングは、料理を作ることにも通じると思ったのです。できあがった料理の様子、食べている人の表情などを想像しながら、材料をそろえ、調理して作り、器に盛り付ける。一連の仕事は、イメージと深く結びついているのです。それが明快だから、飯島さんの仕事は、リアルなおいしさが伝わってくる、味わえるのではないでしょうか。

 さて、アシスタントとして7年が経った頃、「そろそろ自分の責任でやってみたい」と考えた飯島さんは、事務所を独立することにしました。何か当てがあったわけでも、豊かな資金があったわけでもありません。「どんなやり方もありと思って、クルマでコーヒー屋さんをやっている人に、どれくらいのお金で、どういう運営をしているのか、聞きに行ったりもしました」。イメージができたら即、行動に移す。従来のやり方だけにこだわらない、自由に発想を広げてみる、飯島さんの懐の深さといったらいいのか、肝の据わり方といったらいいのか……ダイナミックな気構えに魅了されます。

 次回は、そんな飯島さんの料理に、さらに迫ってみたいと思います。

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PROFILE

川島蓉子(かわしま・ようこ)

写真

伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。多摩美術大学非常勤講師。 日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、などがある。 1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。
ifs未来研究所 http://ifs-miraiken.jp

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