ワインとごはんの方程式

<17>九州人のソウルフード「博多の水炊き」といえば、泡+ピノ!

  • 杉山明日香 料理 井浦雅文 写真 興村憲彦 
  • 2017年6月8日

暑い季節に汗だくになって食べるからおいしい、という「水炊き」(レシピは記事の最後に)

  • 暑い季節に汗だくになって食べるからおいしい、という「水炊き」(レシピは記事の最後に)

  • まず合わせるのは、Cremant d'Alsace Brut / Sipp Mack (クレマン・ダルザス・ブリュット / シップ・マック)

  • シャンパーニュよりお手頃で、果実味も豊かなところが鍋にぴったり

  • そして2本目は赤ワイン、Bourgogne Rouge Renommee / Remoissenet Pere et Fils(ブルゴーニュ・ルージュ・ルノメ / ルモワスネ・ペール・エ・フィス)

  • エレガントな味と香りが、「和食にいちばん寄り添う赤ワイン」と明日香先生

  • スープはまず強火で煮込むことが最大のポイント。簡易バージョンで、片栗粉でとろみをつけると、野菜にスープがからんでさらにおいしく味わえる

  • 塩コショウをして味わうと、スープだけでもワインといけそう!

 ついに列島梅雨入りで、夏もすぐそこ……。でも、明日香先生と料理人の井浦さんは夏でも月に1、2回は食べるんだそうです。そう、故郷のソウルフード、アツアツの「水炊き」を! 今月のテーマ「鶏」といえば、何をおいても水炊きということで、ぴったりのワインの合わせ方を伝授していただきます。王道、「泡からの、ピノ・ノワール」のおはなしです。  

   ◇

明日香 だいぶ夏らしい日が増えてきたけど、リカちゃん、あたたかい季節ってお鍋食べる?

リカ え、鍋ですか? あんまり食べないですねえ……。

明日香 やっぱりそうなの?! 実は「西麻布 みかづき」の料理人、井浦さんも私も九州出身なんですけど、博多名物の水炊きは、私たち一年中食べるんですよ。真夏でも、汗かきながら食べるのが普通なんです。

リカ ええ!

明日香 私なんて、冬は週1回必ず鍋を食べますが、夏も月1、2回は食べています。水炊きは九州人にとって“ソウルフード”なんです。今日は、そんな水炊きをリカちゃんと一緒に食べたいなと思って……。

リカ わーい!

シャンパーニュより、ちょっとふくよかなクレマン・ダルザス

明日香 そして、水炊きに合わせるために、ワインは2本用意しました。お鍋はみんなでワイワイ食べるから、すぐ1本空いちゃうでしょ?(笑) 一本目は、やっぱり泡で乾杯したいので……こちら「Cremant d'Alsace Brut / Sipp Mack (クレマン・ダルザス・ブリュット / シップ・マック)」です。はい、じゃあ乾杯!

リカ かんぱーい! んん……いい香り。“ダルザス”だから、アルザスのワインですね!

明日香 そう! しかも瓶内二次発酵、つまりシャンパーニュ方式で造られたスパークリングワインです。

リカ ブドウ品種はなんでしょうか?

明日香 これは、ピノ・ブラン主体でシャルドネとピノ・ノワールを混ぜて造っています。

リカ ピノ・ブラン? 初めて出てきた品種ですね。

明日香 そうね。でも実はピノ・ブランって、フランスのブドウ栽培面積一位の品種なんですよ。というのも、コニャックやアルマニャックなどブランデーのベースになる白ワインを造るのにも使われているんです。

リカ えっと、シャンパーニュはたしかシャルドネで造られているんでしたっけ……?

明日香 そう、シャンパーニュはシャルドネだけでなくピノ・ノワールとピノ・ムニエをブレンドして使うのが一般的です。一方で、クレマン・ダルザスはピノ・ブランを使うことが多く、シャルドネやピノ・ノワールの他にもピノ・グリやリースリングなどもよく使われています。シャンパーニュより、ちょっとふくよかなニュアンスがあるのがわかる?

リカ (ゴクッ……)たしかに少し広がりがあるというか、ふくよかというか。

明日香 アルザスはかなり北で冷涼な地域なんだけど、年間降水量がフランスでももっとも少ない地域で、日照量も豊富。だからブドウがしっかり熟して、果実味が豊かなワインができるんです。このふくよかさが鶏肉などの白系のお肉によく合うんです。シャンパーニュよりお値段もお手頃だから、鍋をみんなでワイワイ囲むときには、こちらの方が合うかなと思って。

(料理が出てくる)

リカ うわあ、お鍋のいい香り……この白濁のスープがたまらないですね。

明日香 さあ、熱いうちにいただきましょう! 具をポン酢につけて食べてみて。

しつこいようですが、やっぱりポン酢には泡なんです

リカ (パクッ……)お、おいしい! だしが鶏の中にしっかり染み込んでいて、ジューシーですね。

明日香 そこで、すかさずクレマンを……!

リカ (ゴクッ……)

明日香 ポン酢の香りが鼻から抜けていくでしょう? しつこいようですが、やっぱりポン酢には泡なんです! しかも、おだしと鶏のジューシー感とワインの味が三位一体となって、口の中でじゅわっと広がりません?

リカ まさに“じゅわっ”ときますね。クレマンだけ飲んでいるときよりさらにおいしいかも! 

明日香 スティルワインじゃ広がらないニュアンスが、泡によってかき立てられるんです。これがマリアージュの力です。

リカ ああ、止まらない。この水炊きのスープには何が入っているんですか?

井浦(料理人) 普通は鶏を6~7時間煮るんですが、これは家庭でもできるよう、鶏肉のミンチを使いました。これなら沸騰してから30分ほどでできるんです(レシピは文末)。鶏肉のほか、長ネギ、ニンジン、ショウガ、ニンニク、昆布をいれて片栗粉でとろみをつけています。

リカ 簡易版でこんなにおいしくできるなんて、信じられない!

明日香 博多では、残ったスープに塩とブラックペッパーを少しふって、スープだけでも楽しみます。はい、どうぞ。(スープを取り分ける)

リカ うわあ、体中にうまみが染み渡る……。あ、あっという間にクレマン飲み干しちゃった!

和食に一番寄り添うのは、ブルゴーニュの「梅の香り」

明日香 ふふ、じゃあここからは赤ワインに移りましょう。次に開けるのはこちら、「Bourgogne Rouge Renommee / Remoissenet Pere et Fils(ブルゴーニュ・ルージュ・ルノメ / ルモワスネ・ペール・エ・フィス)」です。

リカ ブルゴーニュのピノ・ノワールですか?!

明日香 そう。ピノ・ノワールの特徴は、赤いベリー系の果実やブルーベリーの香りと言われているけれど、ブルゴーニュのピノに限って言えば、私はそこに梅の香りが入っているような気がするんです。

リカ う、梅?(クンクン……)あ、たしかに! 梅って聞いたとたん、梅の香りしかしなくなった(笑)!

明日香 でしょ(笑)? だから、和食に一番寄り添う赤ワインは、ブルゴーニュのピノ・ノワールだと思うんです。しかも、だしっぽいうまみのニュアンスもあります。梅の香りとうまみを感じながら飲んでみて。

リカ (ゴクッ……)う、うんめ~!

明日香 ばっちりでしょ(笑)。

リカ たしかに日本食に合いそうな味がします。

明日香 他にもいろいろなワインがあるけれど、迷ったときはこれがお勧めです。一番広域のA.C.ブルゴーニュなので2000円から3000円くらいで買えますが、こんなにおいしいんです。じゃあ、さっそく水炊きに合わせていきましょう。シイタケのうまみ、鶏のうまみにどう合うか……。

リカ (パクッ……)あ、合う……。赤ワインがこんなに鍋に合うなんて!

クレマンの泡でテンション高めに、ピノ・ノワールは、しっぽりと

明日香 さまざまな素材から出ただしのうまみが、ピノ・ノワールのうまみにナチュラルに合うでしょう? ブルゴーニュのピノは果実味がそんなに強くなくエレガントなので、日本食にぴったり寄り添うんです。

リカ うまみの相乗効果ですね。

明日香 クレマンの泡でポン酢を堪能し、その後のピノ・ノワールでしっぽりとスープのうまみを楽しむ。一つのお料理でも、合わせるワインによってこれだけ楽しみ方が変わるんです。

リカ デートする相手によって楽しみ方が変わるみたいな感じですね(笑)。

明日香 そうそう。クレマンは泡でアゲアゲ、“テンション高めに楽しむデート”で、ピノ・ノワールは“腰を落ち着けて、しっぽり語り合いながら楽しむデート”みたいなものかな(笑)。

リカ いやあ、今日もまた新たな世界の扉が開きました。

明日香 よかった! しかも水炊きは私のソウルフード。この夏、水炊きとワインのマリアージュ、ぜひ試してみてくださいね。

*“素材とポン酢”の方程式・2通り
 水炊き(素材のうまみ)+ポン酢=クレマン・ダルザス(ふくよかさ+泡でスパーク)
 水炊き(素材のうまみ)×スープ=ピノ・ノワール(梅の香り+うまみ)

    ◇

■博多水炊き
▼ スープ(6、7人分)※多めに作って冷凍しておくといい
[材料]
<A>
鶏ミンチ・・・1kg
長ネギ(青い部分)・・・6本分くらい
ニンジン・・・1本(切る)
ショウガ・・・30g(切る)
ニンニク・・・3片(つぶす)
昆布・・・2枚
片栗粉・・・適宜

<水炊きの具材>
鶏もも肉、シイタケ、豆腐、春菊、長ネギ

<B>
ポン酢、もみじおろし、万能ネギ

1)寸胴鍋にAの材料と水を4リットル入れ、強火にかける。沸騰したらアクを取り除き、強火で(重要!)30分ほど煮込む。最終的に水分量が3分の1くらいになるよう、途中で必要なら水を足す。

2)スープができ上がったらこして冷まし、上に浮いた脂分を取り除く。

3)水溶き片栗粉を入れ、少しだけとろみをつける。※冷凍して保存するときはこの段階で保存する。

4)3のスープを鍋に張り、鶏肉と豆腐は最初から入れて火にかける。

5)頃合いのいいところで、残りの具材を入れて、Bのたれをつけながら食べる。
※スープが残れば、塩こしょうをふって味付けするだけでおいしく飲める。

<お料理協力 西麻布 みかづき

■本日のワイン
Cremant d'Alsace Brut / Sipp Mack (クレマン・ダルザス・ブリュット / シップ・マック)
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Bourgogne Rouge Renommee / Remoissenet Pere et Fils(ブルゴーニュ・ルージュ・ルノメ / ルモワスネ・ペール・エ・フィス)
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(構成・宇佐美里圭)

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PROFILE

杉山明日香(すぎやま・あすか)理論物理学博士・ソムリエ

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東京生まれ 唐津育ち。理論物理学博士・ソムリエ
有名進学予備校の数学講師として、主に東大進学クラスや医学部進学クラスを担当するかたわら、ワインスクール「ASUKA L'ecole du Vin」ではソムリエ資格試験対策講座を主宰する。またインポーターとしてシャンパーニュ・ワインの輸入業や、西麻布のワインバー&レストラン「ゴブリン」、パリの和食店「ENYAA」のプロデュースなど、ワイン関連の仕事も精力的に行っている。
著書に『ワインの授業 フランス編』(イースト・プレス)、『受験のプロに教わる ソムリエ試験対策講座』(リトルモア)、『おいしいワインの選び方』(イースト・プレス)
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■撮影協力:ゴブリン

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