東京ではたらく

<3>高橋健治郎さん(48歳)/花屋

  • 文 小林百合子 写真 野川かさね
  • 2017年6月8日

  

職業:花屋店主
勤務地:目黒区の花屋〈花すけ〉
勤続:1年4カ月(生花販売業は30年)
勤務時間:10時~19時(仕入れ日は朝から市場へ)
休日:毎週火曜日
この仕事の面白いところ:人生の節目に必要とされるのはとてもうれしい
この仕事の大変なところ:季節や天候に左右される

    ◇

 独立して今の店をオープンしたのは、昨年のバレンタインデーです。実家が目黒で花屋を営んでいて、小さな頃から忙しく働く両親を見て育ちました。

 実家の店は商店街にある、いわゆる昔ながらの「お花屋さん」。当時は今に比べて季節のならわしや行事に合わせて花を買うという習慣が色濃くあって、お彼岸やお月見、桃の節句、端午の節句と、とにかく忙しかったですね。

 「花が生活に寄り添っている」というのでしょうか、各家庭で花を買うということが日常だったんだと思います。たとえば神棚に飾るお榊(さかき)は、毎月1日と15日の朝に飾るものでしたから、僕も手伝って近所の家に配達に行ったりしていました。

 高校を卒業してすぐ、池袋にある花屋へ修行に入りました。子どもながらに「なんでうちの両親はこんなに忙しそうにしてるんだろう」とは思っていましたけど、結局やっぱり花が好きだったんでしょうね。物心ついた頃からずっと花に囲まれて育ったので。

 修行先は池袋西口にあるデパート内のフラワーショップでした。実家は地元密着型の店で、いわゆるフラワーアレンジメントみたいなことはほとんどやっていなかったので、ギフト中心の店で経験を積もうと。

 でも当時の花屋はまだまだ古い縦社会気質が残っていて、新人で入っても手取り足取り教えてくれるなんてことはありません。最初の半年は掃除と段ボール潰しと、あとはひたすら配達。たまに花に触らせてもらっても、「とにかく見て覚えろ」と。叱られるなんてのは日常で、ハサミが飛んできたことも一度や二度じゃありません(笑)。

 それでもフラワーギフトという世界に触れられたのはとても新鮮でした。先輩たちが作っているのを見て、「こういうのが花束なんだ、アレンジメントなんだ!」って興奮したり。怒られるのはすごくいやでしたけど、それ以上に、日々わくわくしていたように思います。

 そうそう、面白い経験もいっぱいしました。当時はバブル真っただ中で、水商売とか夜のお仕事関係の人たちがお得意様だったんです。どうもお店で人気のある女の子に花を贈るという習慣があるとかで。

 それで夜になると軽トラいっぱいに花束を積んでいって、そういう店の前で花を売るんです。それはもうじゃんじゃん売れて、ひと晩で20万円とか売れちゃう。お店の階段を花で埋めてアーチを作ったりなんかもしました。花を売りながら「世の中ってこういうしくみになってるんだな」とか思ったりして。池袋の人間模様を見るのはひそかに楽しかったなあ(笑)。

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PROFILE

小林百合子(こばやし・ゆりこ)編集者

写真

1980年兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、アラスカ大学フェアバンクス校で野生動物学を学ぶ。出版社勤務を経てフリーランスに。山岳・自然をテーマに雑誌や書籍の編集を手がける。2010年に女性向け登山雑誌『Hutte』(山と溪谷社)を立ち上げ、独自の視点で登山や自然の楽しみ方を提案した。著書に『山と山小屋』(野川かさねと共著、平凡社)、『山登りのいろはーたのしい登山のヒント集』『一生ものの、山道具』(ともにホシガラス山岳会著、パイ・インターナショナル)など。

野川かさね(のがわ・かさね) 写真家

写真

1977年生まれ。神奈川県出身。雑誌、書籍で活動するかたわら、ライフワークとして山を撮り続ける写真家。著書に『山と写真』(実業之日本社)、『山と山小屋』(小林百合子と共著、平凡社)、『山登りのいろはーたのしい登山のヒント集』『一生ものの、山道具』(ともにホシガラス山岳会著、パイ・インターナショナル)など。

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