Woman’s Talk

私の中で、私のイメージはミキサーです 森下佳子さん(脚本家)

  • 2017年6月15日

  

花の力を存分に見せる映画にしようと思いました

 現在上映中の映画『花戦さ』の脚本家である。『花戦さ』は戦国末期、千利休と深い親交をもった、いけばなの名手池坊専好という花僧が主人公。天下人となり暴君と化した秀吉に対して、刃の力ではなく花の力で諫(いさ)める、一世一代の大勝負に挑んだ物語だ。

 「原作の、刀ではなく花をもって制する点がいいなと思いました。生け花が映画のテーマになるのは世界初ということで、存分に花の力を見せる映画にしようと思いました」

 史実や原作に基づきつつ、軽やかで痛快な娯楽映画となっている。劇中には素晴らしい生け花の数々が登場する。同時に、河原に挿したたった一輪の花にも花本来がもつ祈りにも通じるような力が感じられる映画である。森下さんの脚本「ごちそうさん」で、料理の力を改めて気づかせてくれたのと、それは似ているかもしれない。

 これまでも、「ごちそうさん」はじめ「JIN─仁」「天皇の料理番」など数々のヒットドラマを手がけてきた。壮大な骨格をもつ物語性と花や料理といった繊細で身近なものが鍵となっているのが特徴といえるだろうか。脚本家として真髄となっているものは何ですかと尋ねると、こんな答えが返ってきた。

 「ないですね。制作現場では、脚本家は作家と呼ばれますが、私、作家といわれることにすごく違和感があって、私の中で、私のイメージはミキサーです。色々な人物の思いや発想や主張を、がーっと掻(か)き混ぜて出すという感じ。私自身はすごく空虚」

 とはいえ、大切にしていることがあり、それは「両義性みたいなこと」。一人の悪者を描くとき、悪者からの視点も忘れないようにすることだ。好きな色もグレーで、「黒白はっきりしすぎると居心地が悪く、曖昧(あいまい)な色が落ち着く」そうだ。そんな視野の広さ、深さから生まれるドラマの多様さ、重層性、幅の広さが、森下さんの脚本が人気となる理由かもしれない。

精神的に家族にものすごく依存していると思います

 結婚後、シナリオ学校に通い、脚本家となった。よくある話のようだが、少し肉付けすると、ちょっと風変わりなドラマになる。

 大学卒業後、就職して2年目、後の夫は大学時代の学生劇団仲間の結婚式の二次会の幹事をしていた男性だった。

 「幹事の人に三次会のお金を貸してくださいって言ったんです。その1週間後に、次は『結婚して』と言ってみたんです。いやぁ、言ってみるもんですね(笑)」

 なぜ、そんな急展開?

 「普通のことがちゃんとできる人だったんです。私できないことが多いもので、この人、私に必要、と。今も私は精神的に家族にものすごく依存していると思います。私がくだらない屁理屈(へりくつ)やつまんないダジャレを心置きなく垂れ流せるのは家だけです!!」

 現在、3人家族。小学5年生の女の子をもつ母親でもある。

 「娘は私にそっくりで、幼い日から自分を育て直しているような感じです。もう何の罰ゲームかと(笑)。やりがいはありますけどね」

 映画関係者はじめ、多くの人が取り囲むなかで行われたインタビュー。笑い声が何回起きたことか。その話の面白さ、どこまでが事実でどこまでが盛った話なのか。大阪生まれ大阪育ちのこの人が生来持っているサービス精神と諧謔(かいぎゃく)、頭の回転の速さとボケ具合、森下さんの脚本の面白さの要因はまだまだたくさんある、ということだろうか。

(撮影:渞 忠之/メイク:板垣佳子/スタイリスト:斉藤伸子/文:追分日出子)

    ◇

もりした・よしこ

1971年大阪府生まれ。2000年に「平成夫婦茶碗〜ドケチの花道」で脚本家デビュー。主な作品に「世界の中心で、愛をさけぶ」「白夜行」「JIN−仁−」「天皇の料理番」など。NHK連続テレビ小説「ごちそうさん」で第32回向田邦子賞、第22回橋田賞受賞。脚本を担当した映画『花戦さ』(東映)は全国ロードショー中。出演は野村萬斎、市川猿之助、佐藤浩市、中井貴一、佐々木蔵之介など。

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■この記事は、2017年6月8日付朝日新聞朝刊「ボンマルシェ」特集のコーナーの転載です。

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