芸術がやってきた!

芸術があなたを見つめ返してくれるとき

  • 文・木原進
  • 2017年9月14日
  • Georges Braque《The Duet》1937年

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 「芸術作品を買う、手に入れる」と聞いて、みなさんは最初に何を思うでしょうか? 興味はあるけれどどうやって買うのかわからない、高価なのでは?とか、そもそも芸術とのつきあい方がわからない…等々、ハードルの高さを感じるかもしれません。この連載では、芸術の中でも絵画や彫刻などの「美術作品」をメインにして、実際に作品を手に入れた方々が、どのように作品と出会い、手に入れるまでにいたったかを紹介します。作品と一緒に生活する中で感じていることをご本人からお聞きして、彼らが芸術作品とどのようにつきあっているかも探っていきます。

 まず最初に、自宅の設計デザインを芸術家にお願いした親子のお話をご紹介します。息子はデザイナーをしながら民芸玩具のお店と飲食店を経営しています。お母さんは昔、学校職員をしていて、現在は息子のデザイン会社で経理事務をしています。二番目は、小学生の男の子がいる3人家族が画家に新作を注文して、絵画が自宅に設置されるまでのやりとりをリポートします。現在進行形のプロジェクトなので、はたしてどうなるでしょうか。最後は、東京で活動する私が絵画を背負って地方へ販売しにいくお話を書きたいと思います。買ってくださった方々が今どのように作品と過ごしているかも紹介できると思います。

芸術と出会ったら

 さて今回はプロローグとして、芸術作品と出会ったときにどういう態度で接するとよいかを書きたいと思います。作品と生活をともにする前に、相手をよく知らなくてはなりません。まずは出会う場所を想像してください。美術館やギャラリーはもちろん、公園や会社、ホテル、飲食店、お友だちの家など、さまざまなところで美術作品に対面すると思います。もしあなたが自分の感覚にあった作品をみつけたい、作品から何かを感じ取りたい、感じたことを自分の中で響かせたいと思うのであれば、美術作品を見るとき、「3分間」、その作品を見続けることを自分に課してください。簡単そうに聞こえますが、これは非常に大変なことなのです。

 昔、先生である芸術家と一緒に、20世紀前半に活躍した画家ジョルジュ・ブラックの展覧会へ行ったときのことです。美術館へ着くなり先生は「ひとつの作品を5分かけてみなさい」と言われ、自分はすたすたと会場へ入っていってしまいました。突然のエクササイズに戸惑いつつも、言われた通り絵を見はじめましたが、これがとても辛い。気に入った作品でも大変なのに、ピンときていない作品も5分間見続けるというのはかなり苦しいことでした。ごまかして3分ぐらいにしてもきつい。

 しかし、しばらくがんばって何作品か続けていると、自分の見方が変化してきたことに気がつきます。長い時間、ひとつの作品と対峙(たいじ)していると、まず周りのことが少しずつ気にならなくなり、絵画と自分だけしかいないような空間、世界ができてきます。電車の中で読書をしていて物語に没入しているような状態に近いかもしれません。そうすると、目が自分の意思とは関係なく勝手気ままに絵の上をうろうろとしはじめます。外光が透ける黄緑色のカーテンとその光で輝く桃色のドレスの色面をみていると、だいだい色、そして深緑色の壁紙に目が移り、模様を追っている。すると、こんどは描かれたピアノと弾き手の間を通り抜けてぐるりと回り込む自分の感覚に気がつきます。感覚の精度が上がり、絵の具のかすれや盛り上がりなど細部のテクスチャーをなでるように感じながら、絵の中に入り込んでいく。

 作品によって感覚が鋭敏になり、自分の見ているものが一様ではなく変化していく。この経験こそ芸術鑑賞の醍醐味(だいごみ)のひとつだといえます。

 芸術家たちは言葉にならない小さな感覚の糸を結び編み込んで、ひとつの作品へと織り上げます。見る人は、言葉で物事を考える回路を外して作品を見つめてください。意味など問わずに3分間見続ける(できれば5分間!)と、美術作品から発せられるさまざまな感覚が、日常の言葉を介さずに経験できるはずです。絵画があなたを見つめ返してくれるでしょう。

   ◇

 次回は、9月28日(木)の更新予定です。

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PROFILE

木原進(きはら・すすむ)芸術・プロジェクトマネジメント

木原進

1975年東京生まれ。芸術/設計・研究拠点 urizen / Post Studiumを運営。多摩美術大学芸術学科卒。先鋭的な芸術活動を行う造形作家のプロジェクトマネージャー。芸術の学校である四谷アート・ステュディウムの設立運営にも関わった。主な展覧会プロデュースに、「囚人口 Chop Chop Logic」(HAGISO、2013)、「GREEGREE展」(アトリエタイク、2010)、「Expanded Field/拡張されたフィールド——流出と制御」(四谷アート・ステュディウム、2004)、「作品ホームステイ」(灰塚アースワークプロジェクト、1998)など。評論エッセイに、「シジフォスの石 完成させない建築《サグラダ・ファミリア》」(「+journal #004 Sa+」2016)など。
urizen:http://urizen.tokyo/
Post Studium:http://poststudium.net/

中川周(なかがわ・しゅう) 写真家/映像作家

写真

1980年高知生まれ。大学卒業後、ドイツ・ミュンスターに留学、帰国後にフォトプロダクション勤務。芸術教育機関の四谷アート・ステュディウムを修了。現在、写真家/映像作家として活動するかたわら美術展や建築の写真を中心に、さまざまな分野の撮影を手がける。主な展覧会に「引込線」(旧所沢市立第2学校給食センター、2017)、「無条件修復展」(第一期に参加。milkyeast、2015)など。

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