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<67>子どもの本を愛する人たちをつなぐ木の家

  • 文 吉川明子 写真 山本倫子
  • 2017年6月29日

 東京・赤羽といえば、近年、「住みたい街ランキング」で急浮上している街だ。JR赤羽駅前には商店施設が集まっており、何と言っても昔ながらのおでん屋や焼き鳥屋といった居酒屋が多いのが魅力。新宿まで約15分というアクセスの良さと、下町の居心地のよさを兼ね備えており、多くの人々を惹(ひ)きつけている。

「住むには便利で面白い街ですが、文化的なところはあまりないんですよね。だから、自分でそういう場所を作りたいという気持ちがあったのかもしれません」

 そう話すのは、JR赤羽駅前のにぎやかな商店街を抜けた先の住宅街にある、「青猫書房」の店主・岩瀬惠子さん(62)だ。真っ白な建物は木造では珍しい4階建て。木造建築技術の進歩と住宅の規制緩和によって実現したもの。店内には大きな窓から自然光が差し込み、木のぬくもりを感じつつ、ゆったりとした気持ちで約4000冊の絵本と向き合うことができる。

 岩瀬さんは公務員として約10年間、港区内の図書館に勤務していた。児童書の担当になったことから、児童図書館員育成のための研修に参加したり、読み聞かせを行ったりして、専門知識と経験を積み重ねていった。

 「子どもが対象の場合、単に面白い本を提供するのではなく、年齢や内容を考えながら子どもたちによりよい選択肢を提示することが大切なんです」

 岩瀬さんは3人の子育てのためにいったんは仕事から離れたが、末子が小学生になったのを機に再び働き始める。事務系の仕事だったが、児童書への興味は続いており、時間を見つけては関連する講演会に参加していた。

 そんな岩瀬さんに転機が訪れたのは、ある飲み会の席でのこと。児童書専門出版社・童話屋の田中和雄社長と同席し、高校の先輩であることを知った。岩瀬さんはふと思ったことを田中さんに聞いてみた。

 「素人が本屋をやるなんて、無理ですよね?」
 「やってみたら? 応援するよ」

 田中さんはそう答えただけでなく、取次などの流通ルートを紹介するといった行動で支援の気持ちを示してくれた。そんな時、岩瀬さんの母が昔から住んでいた赤羽の家を建て直す話が持ち上がった。

 「子どものための本屋は以前から漠然と夢見ていたんですけど、この時、一気にそういう流れになったんです。それを前にして、『ここで断っちゃ女じゃない!』って思ったんです! でも、あの時は逆に何も知らないからできたのかも(笑)」

 こうして2014年12月に店がオープン。子連れでゆっくりお茶をできるように、とカフェスペースも併設した。

 「私自身、子育て中に『15分でいいからゆっくりコーヒーを飲みたい』という切実な気持ちを持っていましたから」

 子育て後から働いている職場もこの店の運営に理解を示してくれ、引き続きその職場で働き、平日の週2日の午後と週末に店頭に立っている。

 「書店だけで生活できたらと望んではみても、小さな書店の経営は現実的にはすごく厳しくて……」

 と岩瀬さんは二足のわらじを続けている。岩瀬さんが店に来られない時間帯は、図書館時代の先輩やママ友だった友達、本好きの友人、岩瀬さんの娘に協力してもらっている。

 実はオープンからわずか半年後に、取引を始めたばかりの取次会社が倒産するという憂き目に遭った。「3年間は石にかじりついても頑張る」と決めていた岩瀬さんは、商品である絵本が入ってこないかもしれないという不安を抱えながらも、さまざまな出版社と交渉するなどして奔走した。

 一方で、新たに誕生した絵本専門店に興味を持ち、店を訪れてくる出版社もあった。こうして少しずつ人のつながりが増え、原画展やイベントなども開催できるようになった。

 「やっと3年目になりましたが、今は小さな出版社のいい絵本を紹介することに面白さを感じています」

 どんな絵本も作家や画家、編集者など、「いい本を作りたい」という志を持った多くの人が携わり、世に送り出されている。しかし、小さな出版社の本は、膨大な量の新刊の波に揉(も)まれて読み手の元に届かないことも多い。

 「みんなの思いがこもった本に日の目を見せてあげたい。本一冊一冊には持つ力があります。それをここで見てもらって、手にとってもらえたらすごくうれしいんです」

 岩瀬さんは、紙の出版物としての絵本は決してなくならないし、大切にしたいと考えている。

 「小さい頃から本を読むと、頭の中でいろいろ考えるようになるし、想像力も育ちます。これは人として一番大切なこと。そして一生のうち1冊でも2冊でも面白い本にであえるようになってほしいと思っています」

■おすすめの3冊

「100まんびきのねこ」(著、絵/ワンダ・ガアグ、翻訳/いしいももこ)
寂しさから猫を飼うことにしたおじいさんとおばあさん。猫を探しに出かけたおじいさんが、たくさんの猫がいる丘にたどり着く。みんなかわいくて一匹だけ選べず、みんなをうちに連れて帰るものの――。「これは今から90年以上前の1928年に発表された絵本なんです。モノクロの絵で派手さはないけど、何度読んでも面白い絵本です」

「ニニ、まいごになる」(著/アニタ・ローベル、翻訳/まつかわまゆみ)
子ねこのニニが、お庭を探検。外の世界が楽しすぎて、気付いたら遠くに行き過ぎておうちがわからない。あたりは真っ暗――。「冒険好きの猫が外に出かけて、お家に帰るまでという絵本の定番ストーリーですが、作者は猫好きなだけあって、とにかく猫の表情がかわいい!」

「はなのすきなうし」(著/マンロー・リーフ、絵/バート・ローソン、翻訳/光吉夏弥)
心が優しくて花が大好きな子牛のふぇるじなんど。予想外のできごとから闘牛にされてしまい――。「これは1954年に日本で発売されたスペインの絵本で、古い絵本だから縦書きなんです。牛の世界で闘牛はエリートかもしれないけど、他者の望む幸せと、自分のそれとは違うということに気づくことができます。私が小さい頃に読んでいた、大切な絵本です」

    ◇

青猫書房
東京都北区赤羽2-28-8 TimberHouse 1F
http://aoneko-shobou.jp/

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