ほんやのほん

もっとも新しい、最古のワイン。『ジョージアのクヴェヴリワインと食文化』

  • 文・後藤奈岐
  • 2017年7月4日

撮影/馬場磨貴

  • 『ジョージアのクヴェヴリワインと食文化: 母なる大地が育てる世界最古のワイン伝統製法』 合田泰子、島村菜津、北嶋裕・著、塚原正章・監修 誠文堂新光社 2700円(税込み)

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 ぶどうの栽培に化学肥料や農薬を使わない、醸造過程においても培養された酵母ではなくぶどうの果皮に付着した野生の酵母を使用して発酵させる。そして酸化防止剤の添加も最小限に抑える。そのような自然なワイン(ヴァン・ナチュール、自然派ワインなどと呼ばれる)を愛好する人が日本でも増えており、料理とともに、そうしたワインを提供するレストランやバーでカリスマ的な人気を誇る店も少なくない。

 そうした自然なワインの愛好者の間で、ここ何年もの間話題となってきたのがジョージア(グルジア)である。地中に埋めた甕(かめ)の中での発酵や、野生酵母を用いた醸造、欧米にないぶどうの土着品種、果皮を果汁とともに発酵させるスキンコンタクトと、スキンコンタクトにより生まれるオレンジ色をしたワインなど、断片的な情報は入ってきていたが、その全体像はいまひとつわからなかった。

 この春出版された『ジョージアのクヴェヴリワインと食文化』は、伝統的なワイン製法とその作り手、そしてジョージアの食文化を紹介する初めての書籍だ。クヴェヴリと呼ばれる陶器の甕の作り方や、醸造の方法、そして、伝統的なワインの作り手たちの集団「クヴェヴリ・ワイン協会」のマニフェストを読むと、緻密(ちみつ)に作りこまれたワインとはまったく体系を異にするワインの魅力が伝わってくる。ジョージアの自然なワインを口にしたとき独特の懐かしさを感じるのは私だけではないだろうが、それは、材料を複雑に組み合わせた料理の味わいというよりは、素材の持ち味を生かした発酵食を口にしたときの楽しみに似ている。

 この本の中で紹介される作り手たちの多くは、親から教えられた醸造法をただ守ってきたというわけではない。ソ連崩壊後、外国資本や外国の高級ぶどう品種が流入する中で、彼らはあえて自然なワイン作りを継承しているのだが、その背景には、何を食べるか(作るか)が環境や文化の多様性を守ることにもっとも密接に結びつくという明確な考えがある。伝統的なワイン作りと環境保護は車の両輪なのである。

 それぞれの家庭において、甕をつかって作られるジョージアのワインは日本の漬物のようだ。伝統的な食の多様性が損なわれることへの、彼らの危機感は他人事ではないだろう。

 ジョージアのワイン文化と日本の食文化が、ユネスコの世界無形文化遺産に登録されたのは同じ2013年のことであった。

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PROFILE

後藤奈岐(ごとう・なぎ)

写真

かつては、映像の世界で翻訳のディレクターを務めながら、フランス料理を学んでいたが、料理と本への愛が募って、代官山 蔦屋書店の料理コンシェルジュとなった。専門料理書や洋書のMDを主に担当している。

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