パリの外国ごはん

自家製パンのサンドイッチもおいしいモロッコ料理店「Yemma」

  • 文・写真 川村明子 イラスト 室田万央里
  • 2017年7月18日

 学校給食にもクスクスが出るパリ。歴史的背景も深く影響し、北アフリカ料理はフランスで暮らしていると身近なものだ。留学当初にホームステイをしていた先も、モロッコで暮らしていたことのあるご家族だった。週末にはクスクスを作ることがあって、クスクシエと呼ばれる、上部が蒸し器になったお鍋でスムール(クスクスの粒)をじっくり蒸していたことを覚えている。

 そんなわけで結構年季の入ったクスクス歴を持つ私が、ここ数年、クスクスとタジンを食べに行くお店は決まっていた(いずれご紹介します!)。そこへ昨年、気になる1軒が出現したのだ。どうやら、クスクスとタジンの他に自家製の丸パンを使ったモロッコ風サンドイッチがあるらしい。

 初めて行ったときはもう寒くなり始めた頃で、やはりサンドイッチよりも煮込み料理にひかれた。それでクスクスとタジンを注文したのだけれど、ビストロでパンが出されるように、料理と一緒に、気になっていた丸パンを切ったものも小さなカゴに入って登場した。それは、思っていたよりもずっと厚みがあって、もちもちしていて、食べ応えのあるものだった。ピタパンみたいなものをイメージしていたから、こんなにしっかりとそれ自体で味わうパンだったのか、と驚いた。同時に、これがサンドイッチになるんじゃそりゃあボリューム満点だろうね、と興味がわいた。

 季節は巡ってすっかり暖かくなり、Yemmaには行ったことがない、という万央里ちゃんと連れ立って再訪することにした。サンドイッチを食べる気まんまんで出向いたはずなのに……。あの平たくて少し厚みのある丸いパンが山と積まれているのを目にしたら、そのまま食べたい、と思ってしまった。迷ったけれど結局サンドイッチはやめて、そしてパンを食べるなら炭水化物祭りになってしまうしクスクスもやめたほうがいいな、とタジンにすることにした。万央里ちゃんは早々と、ベジタリアンのサンドイッチにする、と決めたようだ。

 この日のメニューには、サーディンのお団子が具のタジンなんていう珍しいものがあって、試してみようとしたら、すでに売り切れ。残る選択肢は、鶏&オリーブかベジタリアンで、鶏の方にした。それに、前菜の盛り合わせ“kemia mix”をシェアすることに。飲み物のメニューを見たら、とてもお天気の良いこの日にぴったりな、スイカとミントのジュースに目が止まり、2人そろって注文。万央里ちゃんは、私がひかれてやまない丸パンではなく、もうひとつの薄いクレープ状のパンに興味があったらしい。サンドイッチもそのパンで作って欲しい、とお願いしていた。すると、ベジタリアンのサンドイッチは、もともと薄い方のパンでロール状に巻くのだ、と言う。願ったりかなったり。

 このお店は、厨房(ちゅうぼう)とフロアを仕切っているカウンターの上に、パンとお菓子がずらっと並び、端の余ったスペースで前菜を盛り付けている。そのカウンターがとっても魅力的で、本当は目の前にずっと立ち続けてそこで食べたいくらい。残念ながら邪魔になるしそれは出来ないから、写真だけ撮らせてもらって席に戻った。

 すいかジュースを飲みながら待っていると、パンと前菜のkemia mixがやってきた。盛られているのは、キャロット・ラペ、ビーツのマリネ、キュウリとミント、トマトのサラダに、赤タマネギのピクルス、焼きナスの少し潰したもの。ニンジンはラペした(おろした)あとに軽く蒸しているのかな? と思う面白い食感だった。いずれもオリーブオイルベースで、ミントやパセリなどハーブとあえてある。とても食べやすい。それで、あぁ全然ニンニクの味がしないなぁと気づいた。モロッコ料理店の前菜は、パンチのある味付けであることが多いと思う。ニンニクをばしっと効かせて、ピリッと辛みもあって。それが、Yemma のものは優しい。

 厨房を見ると、少し年配の小柄な女性が奥にいた。他に男性もいたから彼女が全部の味を決めているかはわからないけれど、お母さんの味のような優しさのあるお料理が作られている厨房に女性がいるのはいいなぁと思った。

 続けてタジンとサンドイッチも運ばれてきた。タジンは、もちろんおいしそうだったのだけれど、それよりサンドイッチに驚いた。ボリュームがすごい。パンはとっても薄くて、具でパンパン。中にはパプリカやナスの煮込み(mechouia)と、少しチーズも入っているようだった。

 タジンの方が当然ボリュームがあるだろうと思い込んでいた。でも、どうも逆のようだ。見た目のすっきりした印象そのままに、タジンは、こってりではなくて、さらっとしていた。これまた食べやすい。上に盛られた、赤タマネギとミントの効果もあったのかもしれない。

 対してサンドイッチ。クレープのようなパンは、パン、というか皮と言いたくなるくらい、そのロールサンドイッチの中でとても控えめな印象の薄さなのに、実際はもちっとして、食感にボリュームがあった。このパンだけを食べてみたかった。食べ始めたら止まらなくなりそうな気がする。メープルシロップもあいそうだ。

 あぁ、帰りに、あのパンだけ買えるか聞けばよかったなぁ。また次回。そのときこそはサンドイッチを食べて、買えたらパンを買って帰ろう。それにしても、ベジタリアンとは思えない力強さのある、迫力満点のサンドイッチだったなぁ。

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Yemma
119, rue du Chemin Vert 75011 Paris
01 48 05 67 07
12時~23時(16時~19時頃は休憩)
無休

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PROFILE

川村明子(かわむら・あきこ) 食ジャーナリスト

写真

東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)
日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

室田万央里(むろた・まおり) 料理人

写真

無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
Instagram @maorimurota

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