川島蓉子のひとむすび

<21>ミッドタウンの外壁と、地球の歴史 ~関ヶ原石材(前編)

  • 川島蓉子
  • 2017年7月19日

岐阜県関ケ原にある「関ヶ原石材」工場

  • 石材はビルの外装や内装材として使われています

  • 石を裁断する円盤型の大丸鋸

  •   

  • 驚くほどたくさんの種類の石があって、色も表情もバリエーション豊かです(撮影/鈴木愛子)

  • 表面の加工によっても、石の表情は大きく違ってきます(撮影/鈴木愛子)

  • 自然物ならではの温かみのある質感が魅力的です(撮影/鈴木愛子)

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 ある時、関ヶ原石材という会社から連絡をいただきました。私の連載を読んでくださった社長が「少し相談したいことがある」という内容でした。“読者は神様”みたいな存在ですから、早速、お会いすることにしたのです。

 取締役社長を務める小林亮太さんの相談は「石をもっと暮らしに近い存在にするため、新しい挑戦をいくつか試みているので、一度、見てもらえませんか」ということでした。いろいろ説明を聞いていくうち、石は自然物であり、ふたつと同じものはないと知り、自然物としての尊さを感じました。それまで石材、あるいは石という領域と縁がなかったのですが、これを機会に、関ヶ原石材を訪れてみようと思ったのです。そして、石とは身近なもので、しかも奥深い存在と知りました。

誰もが知っているビルの
外壁から洗面所まで

 関ヶ原石材とは、その名の通り、岐阜県関ケ原にある石材屋さん。関ケ原には合戦があった地という以外は知識がなかったし、取材で初めて訪れたのですが、66年にも及ぶ歴史を持っていて、広大な敷地の中を何と東海道新幹線が通っているのです。以来、新幹線に乗る度に目を凝らし、「関ヶ原石材」と看板をのぞむ瞬間を楽しむようになりました。

 あまり知られていないのですが、関ヶ原石材はビルの外装・内装をはじめ、さまざまな石材を扱っている企業で取扱高は日本一。誰もが知っているビルをたくさん手がけています。たとえば東京・六本木の「東京ミッドタウン」や「六本木ヒルズ」のビル全体を覆っている石材を提供しているのです。また、床や壁、ロビーやエレベーターホールなど、ビルの内装にも石はたくさん使われていますが、これも関ヶ原石材の仕事のひとつ。「東京ミッドタウン」もそうなのですが、たとえば洗面所の床と壁は、タイル状の石をつなげ、美しい図柄を描くように組み合わせてあります。床から壁へ連なっていく模様が独特で印象に残るものです。こういった石材はどのような工程を経てでき上がるのか、強い興味がわきました。

大きな石を、高速回転の鋸で裁断

 工場には2~4mくらいの巨大な石がごろごろ転がっています。大きな石の塊は、どんとした存在感がかっこよくて迫力満点。世界50カ国くらいから500種類くらいの石がそろっている様子は、ちょっと壮観ですらあります。そして石は、何億年もかけてできているのです。人間の命をはるかに超えた地球の歴史が詰まっていると思うと、ちょっとした畏(おそ)れさえ感じます。

 天然素材だからこそ、石を切り出して組み合わせるところに、高い技術と創造的な仕事が要される――そこに、関ヶ原石材のノウハウが込められているのです。建物を造るにあたっては、大きな石を板状に加工する作業を行います。硬い石を裁断するのに使われるのは、直径3メートルを超える円盤にダイヤモンドチップを付けた大丸鋸と呼ばれる機械。これを高速で回転させながら、硬い硬い石をダイナミックに断裁していくのです。

 また、石の表面に施す加工技術にも、たくさんの種類があります。ぴかぴかに磨き上げるのか、ざらっとした触感にするのかで、同じ石でもまったく違って見えるから不思議、不思議――あえて凸凹感を強調した粗削りにすることで、石の質感を際立たせるなど、関ヶ原石材の持っている技術に驚かされます。

石の向きや組み合わせで
建物の見え方が変わる

 石の組み合わせパターンにも多くの種類があり、たとえば本を開いた時のように対称形の図柄で組み合わせるのと、右から左へと一方向に流れる図柄で組み合わせるのでは、建物の見え方が違ってきます。そして「このビルはこの組み合わせ方!」と決めても、本当に思い描いたような図柄になるのかどうか、石材の一部を組み合わせて床に並べ、検証するプロセスを踏むのです。「建築家やゼネコンの人にお越しいただいて、一緒に眺めながら話し合います」と小林さん。

 たまたま、ある建物の検証を行っている現場を見せてもらいましたが、10m四方くらいの空間に石が平置きされているさまは、見たことがないユニークな風景。色や柄を緻密(ちみつ)に考えた配置が組まれていて、人工物ではない石の良さが伝わってきます。

 普段は何げなく見ていたビルの外壁や内装の石が、こうやって丁寧に緻密に作られていると知って、価値ある存在と改めて思いました。人はそうと意識しなくとも、街中で石と触れていることが多いことも、大きな発見になりました。

 その関ヶ原石材が、石をふだんの暮らしにもっと取り入れるための、新たな挑戦を始めました。次回はその挑戦について、詳しくお伝えしたいと思います。

(次回は8月2日に更新予定です)

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PROFILE

川島蓉子(かわしま・ようこ) 伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト

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伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。多摩美術大学非常勤講師。 日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。
ifs未来研究所 http://ifs-miraiken.jp

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