リノベーション・スタイル

<154>ちょっと斬新な空間を上手に仕切る工夫

  • 文 石井健
  • 2017年7月19日

 [TILT]
 Sさん一家
 東京都調布市 築28年/91.47m2/総工費1400万円

    ◇

 マンションをリノベーションする際には様々な制約がありますが、その中でも最も重要な制約は何だと思いますか? 連載を読んでくださっている皆さんはおわかりかもしれませんが、答えは“窓の位置”。そしてもちろん、そこから見える外の風景。つまり、内と外の関係は、インテリアをどれだけ変えることができても、変えることができません。

 そして窓の数によって、造ることができる部屋の数もおのずと決まってきます。そういう意味で、窓の位置や数は非常に大事なのですが、不動産図だと寸法がいい加減だったりするので、ちょっとした差異がポイントになるときは、必ず現地で測り直すことが鉄則です。

 さて、Sさん一家は、ご主人がシェフで、奥様がパティシエのご夫婦。お二人が購入した中古のマンションは、90平米ほどありますが、お子さんが二人いらっしゃるので、子ども部屋を二つとご夫婦の寝室、3部屋を造りたいというご希望がありました。

 窓が多い物件だったので、部屋を造ること自体は難なくできそうだったのですが、問題は部屋を区切る壁の角と、その向かい側の窓の端が、直線でつなげないことでした。そうすると、余分なスペースができてしまいます。

 そこで考えたのが、部屋の角と窓の端をそのまま結び、斜めに横切る壁を造ってしまうこと。つまり、一つの部屋に二つのグリッドを採用したのです。一つは建物の方向に沿ったグリッド。もう一つは、部屋の角と窓の端、さらに玄関を結んだ3点のグリッドです。そして、要所要所、都合のいい方を選んでいくことにしました。

 たとえば玄関。玄関は“3点グリッド”の一つの起点です。玄関とリビング奥の窓をつなげたので、ここに立つと視界が窓の外につながり、広く感じます。玄関横の壁は“3点グリッド”に沿い、斜めにしました。スリットを開けたので、玄関先からは部屋の中まで見えませんが、一歩入るとリビングの奥まで見渡せるように調整しました。

 キッチンカウンターも、玄関からの視界を妨げないよう“3点のグリッド”に合わせています。さらに、サニタリールームの出入り口からもダイニングの窓に視界を通すため、“3点グリッド”のラインに合わせました。

 建物のグリッドに平行な壁は、部屋の中心となるリビングダイニングと接していない部屋の壁だけ。廊下も造りませんでした。こうすることによって、無駄なスペースを排除し、部屋の広さを最大限生かすことができました。また、柱などもうまく収納スペースや壁の中に入れ込むことができたので、すっきりしています。

 ただし、壁の軸が二つあるため、水平面では安定感が欲しいと思い、玄関前の壁とリビングの壁の色を、水平線をイメージしたグラデーションにしました。塗装をしてくれたのはヨーガンレール丸の内店の壁も塗っている、なかむらしゅうへいさんです。美しいですよね。

 部屋を仕切る壁が建物と平行じゃないというのは、ちょっと斬新な印象がするかもしれませんが、合理的な理由があるのです。そうすることで物理的にも心理的にも、より広い空間が出来上がりました。

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PROFILE

石井健(いしい・たけし)

写真

1969年、福岡県生まれ。「ブルースタジオ」執行役員。日本のリノベーション・シーンの創世期から600件以上を手がけてきた。「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)でも「古い物件の家賃を倍にする不動産集団!」として紹介される。「郷さくら美術館」(東京・中目黒)で2012年度グッドデザイン賞受賞。また「賃貸アパート改修さくらアパートメント」(東京・経堂)で2014年度グッドデザイン賞受賞。 著書に『リノベーション物件に住もう』(共同編集/ブルースタジオ)、『MUJI 家について話そう』(部分監修)、『リノベーションでかなえる、自分らしい暮らしとインテリア LIFE in TOKYO』(監修)。
ブルースタジオへのリノベーションのご相談は、隔月開催のセミナーや、個別相談で承っています。

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