朝日新聞ファッションニュース

発想と技 モードの泉

  • 2017年8月9日

 7月のパリで、二つのファッションブランドの展覧会が盛況だった。クリスチャン・ディオールとバレンシアガ展。いずれも戦後のモード界繁栄の口火を切り、今もトップブランドとして人気を誇る。特に創始者の才気あふれる発想や丹精込めた手業が圧巻だった。

ディオール展
70周年、ブランドの軌跡

創始者と他のデザイナーの「ニュールック」が客を迎える=大原広和氏撮影

 「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展は、ブランド創業70周年を記念しての開催。その間にわたる300点以上の服、約千点の写真などの資料、加えて千点の小物を、年代やテーマ別に約20の部屋に分けて展示。全体のスペースは3千平方メートルというファッション史上最大級と言われる壮大な展覧会だ。

 パリ装飾芸術美術館の入り口には、1947年に創始者が発表した「ニュールック」が観客を迎える。戦後の解放感と華やかさを求めた顧客たちに支持され、世界中に広がった。この優雅なスタイルは、その後のデザイナーたちにも影響を与え続けた。ヨウジヤマモトやジャンポール・ゴルチエなどの“ニュールック風”の作品が、奥の壁にずらりと並ぶ。

 創始者亡き後にブランドを担ったイヴ・サンローランやジャンフランコ・フェレ、ジョン・ガリアーノやラフ・シモンズら6人の作品も、映像とともに十数体ずつ。このブランドが時代に先駆けた新しい才能によって、脈々と継承されてきた経緯がわかる。

「花」を思わせるピンクのドレス=大原広和氏撮影

 創始者が50年代に好んで作った“花のドレス”は、肩の柔らかさを強調し、つぼみのように膨らむヒップが主な特徴。サンローランのバラをモチーフにしたビスチェドレスなど数十体が並ぶ部屋は、お花畑のように幻想的だ。手掛けた映画衣装、英ダイアナ妃らが着たドレスなど夜のドレス群の数に圧倒される。

 創始者の足跡を示す展示も充実。画廊を構えていた時のダリらの絵画作品、友人のジャン・コクトーがショーに見いる写真(52年)、死の直前まで持ったエルメスの手帳や、悲しみにくれる参列者の中をスズランで覆われた棺で送られる葬儀の際の映像(57年)。

 キュレーターのフロランス・ミュラーは「服は脇役ではなくて、その時代の人々の頭の中を反映するもの。モードが文明史においてとても大切なテーマであることを伝えたかった」と展覧の意図を説明した。来年1月7日まで。

バレンシアガ展
伝統の「黒」で作る量感

ブールデル美術館で彫刻と共に置かれる黒いドレス=平野功二氏撮影

 「バレンシアガ 黒の仕事」展は、創始者クリストバル・バレンシアガの主に50~60年代の「黒」の表現に焦点を当てた。会場はパリ15区のブールデル美術館。普段の彫刻展示の間に、まるで彫刻のように服や小物120点が並ぶ。

 黒はバレンシアガが生まれ育ったスペインの伝統衣装で重要な色。好んでよく使った色だった。黒で作る量感、黒と光、黒と色の三つのテーマ別に展示された。

黒のドレス、コートがずらり=平野功二氏撮影

 黒だけで数種類の布を使ったドレスや、背中が優雅に膨らむドレス。「モード界の建築家」との異名通り、女性の体をなぞらずに、肩を基点に内側に柱を立てて立体的に量感を構成することで、女性の体の新たな美しさを示した。黒はそのフォルムを際立たせ、無駄を省いてよりシンプルに見せるための色だったことにも気づかされる。

 前からはビジュー飾りの肩ひもが見えない不思議なドレスや、前から背中に流れる布が量感を徐々に増やしていくドレスなど、今の職人が見ても作り方がわからない作品も多いという。

 キュレーターのベロニク・ベロワールは、「手がかかっていないように見えても、いかにたくさんの技が込められているか。服とは本来、繊細でかつ高度な技術で作ることを忘れてはならないものなのだと示したかった」。

 展覧会は7月中に終了した。

(編集委員・高橋牧子)

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