川島蓉子のひとむすび

<23>AVEDAのPR担当から、和菓子職人へ~「和のかし 巡」(前編)

  • 文・川島蓉子 写真・鈴木愛子
  • 2017年8月16日

看板商品でもある大福「福巡り」

  • 黒岩典子さん

  • 奥行きのある落ち着いた店内

  • 代々木上原の商店街の一画にある「和のかし 巡」

  • モダンなデザインの看板が目印

[PR]

 「和のかし 巡(以下、巡)」という店を営む黒岩典子さんとは、かれこれ10年ほど前、「AVEDA」のPR担当の時にご縁を得ました。知的に紡がれるたくさんの言葉に「どんな背景を持った人なのだろう」と好奇心が湧き、ジャーナリストだったと聞いて腑(ふ)に落ちました。同い年ということもあって、以来、身体や環境にまつわるおしゃべりをするようになったのです。

 ある時、50歳を越えた黒岩さんから「AVEDA」を辞めることにしたという話をされてびっくり。どこのブランドに移るのだろうと思ったら、何とマクロビオティックの和菓子屋をやってみたいというではないですか。まったく異なる世界への挑戦に「勇気あるなぁ」と驚かされました。

 そして黒岩さん、夢を本当に実現させたのです。あれから4年経った昨年4月、東京・代々木上原に「和のかし 巡」を開きました。さっそく、訪れたところ、駅から5分ほどの商店街の一画にあり、間口は狭いながら奥行きのある空間。カウンターに、卵、乳製品、小麦粉、添加物を使わないお菓子がずらりと並び、お客さんが買い物していて、反対側のカウンターではお菓子を食べている方もいる――どのような経緯を経てここにいたったのか、お店をオープンしてからの手応えなど、話を聞いてみました。

 まず、なぜマクロビオティックなのでしょうか。黒岩さんの健康状態は40代後半あたりから、更年期障害もあって決して良くない状況でした。35度台の低体温症に加え、強いストレスから円形脱毛症になったりもしている。そんな折に興味を持ったのがマクロビオティックだったのです。

 一方、黒岩さんのダンナさまは、黒岩さんが49歳の時、若くして白血病で亡くなられています。懸命に看病している姿を知ってはいましたが、「もう少し早くから健康に気を配っていれば」という思いが、黒岩さんの心の中に残っていたのです。

 「AVEDA」での仕事を通じ、黒岩さんは世界各国に出向いて、健康や美容についての学習を重ねてきました。もちろんPR担当として求められることなのですが、それを超えるレベルにまで入り込んでいく。その熱意と実行力が黒岩さんの魅力のひとつなのです。

 そのひとつがマクロビオティックでした。古代ギリシャ語の「マクロビオス」にルーツがあり、「長寿」「偉大な生命」といった意味を持っています。黒岩さんは「長く健康であることによる幸せ」を思い、ストレスをなくし体調を整えるには、食生活の見直しが第一で、自ら興す仕事もそれに通ずるものと考えるようになりました。

 黒岩さんが抱いている思いは以下のくだり。「和のかし 巡」の看板の言葉として、ホームページにも掲げられています。
「食べた後、心地よく、穏やかで幸せな気持ちになれる和のかしです。
 自分、家族や大切な人にも、巡り巡って美味しい幸せのおすそわけ。
 そんな小さなご褒美を愉しんでいただけたら嬉しいです。」
 読んでいちいち納得がいく、お店を訪れて食べたくなる。黒岩さんのまっすぐな気持ちが伝わってくる言葉です。

 和菓子に特化したのは、既にマクロビオティックのカフェや洋菓子はあるので、「どうせやるなら、誰もやっていないこと」と思い立ったことにあります。黒岩さんが大好きなもののひとつが「あんこ」であり、「世の中の『あんこ』は甘過ぎる。おそらく大量の白砂糖を使っているに違いない。そしてそれは身体には決して良くないこと。それなら自分が本当においしいと感ずる『あんこ』を作ってみよう」と考えたのです。

 そして、まずはマクロビオティックを体系的に勉強しようと、第一人者の一人である久司道夫先生のもとで学んだのです。その後、東京・青山にある「たまな食堂」が主催しているナチュラルフードインストラクター養成講座にも通い、農業の現場を訪れて農作業も体験しました。頭で考えるに留まらず、行動に移して実践してみる、検証した手応えをもとに、構想を練っていく。考えてみればマーケティングの基本をきちんとおさえているのですが、それを一人でやり遂げるのは容易なことではありません。もちろん、予想できなかった課題も出てきました。

 当初は、自分はオーナーになって和菓子職人を雇って作ってもらう、そんなビジネスの仕組みを考えていたのですが、探しても探しても、マクロビオティックをやってくれる和菓子職人が見つからなかったのです。そこで、黒岩さんは自ら和菓子作りを学び、自ら職人となって店を開く道に踏み出たのです。この続きは、次号で詳しく語らせていただきます。

■和のかし 巡(めぐり)
東京都渋谷区上原3-2-1

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

PROFILE

川島蓉子(かわしま・ようこ)

写真

伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。多摩美術大学非常勤講師。 日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。
ifs未来研究所 http://ifs-miraiken.jp

今、あなたにオススメ(PR)

Pickup!