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<71>目印はバナナの木、進化する町屋カフェ 京都編(4)

  • 文 吉川明子 写真 太田未来子
  • 2017年8月24日

 かつて平安京の中心地であった御所南エリア。その名の通り京都御所の南側に位置し、町屋をリノベーションしたカフェやレストランが点在している。その中でもひときわ存在感を放っているのが、「Cafe Bibliotic Hello!」だ。建物を覆い尽くすほどの、巨大なバナナの木が目印。大きな扉を開けると吹き抜けの開放的な空間が広がり、左手には壁一面の本棚が天井まで続いている。アートや建築系の書籍や雑誌が多くそろう。

 町屋をリノベーションしたカフェと聞けば、最近のトレンドのようにも思えるが、この店がオープンしたのは2002年のこと。

  「当時はこのあたりにお店なんてなかったし、町屋カフェもブックカフェも京都には一軒もありませんでした」

 オーナーの小山満也さん(53)は当時を振り返る。かつてカフェで働いていた小山さんは、子どもの誕生を機に独立。自分の店は高さのある空間にしたいと思っていたが、一から建てるほどの資金はない。実家が町屋だったこともあり、町屋を改装すれば、自分が思い描く空間が作れるのではないかと考えた。

 「大きな本棚と、暖炉が目の前にある大きなテーブルは外せないと思っていました」

 美大卒の小山さん自ら図面を引いた。他人同士が隣り合う大きなテーブルも、今となっては珍しくはないが、当時はどこにもなかった。

 「その時の流行と同じことをやってもしょうがないし、違うことをやりたかったんです」

 店の前にバナナを植えたのも、インドネシアが好きでよく通っていた小山さんのアイデア。純和風の町屋に南国の植物という組み合わせは意外にもしっくりとなじんでいる。

 「インドネシアもシンプルな木造の建物の隣にバナナがあります。同じ木造なんだから、違和感はないと思っていました。松尾芭蕉の“芭蕉”だって、バナナのことですし」

 小山さん一家はこの店の2階で暮らしている。 “職住一体”も独立した時にしたかったこと。町屋を店にしたことで、その願いを実現できた。

 「自分の生活がベースにあって、仕事はそのためにするもの。周囲にそういう人が多くて、それを実践している人たちがかっこよく見えたんです。それに、店と家が一緒というのは昔からあるスタイル。自分を二の次にして、人のために仕事をしてもあまりいいことはないというのが持論です」

 店で出すメニューも自分たちが食べたい、もしくは大事な人に食べさせたいかどうかが基準となっている。メニューはランチや軽食、スイーツ、酒のつまみと多様で、ドリンクも充実している。一方で、在籍していたスタッフが「パンを焼きたい」と言ったのがきっかけとなり、2008年には店の隣に「ハローベーカリー」をオープン。オーガニックの小麦粉だけを使い、ハード系のパンを中心に、常時約20種がそろう。

 「店はスタッフによって変わっていきます。パン屋を始めたこともそうですが、15年が過ぎるなかで、自分がこの店で新たに何かをするのではなく、彼らのコンセプトを手助けする番なのかなと思うようになりました」

 リノベーションした町屋に大きなテーブル、どの時間帯に来ても好きなメニューが選べる自由さ、そして壁一面の本棚にぎっしりと詰まった雑誌や書籍の数々……。15年前に小山さんが一から思い描き、手探りで作ってきた空間は、居心地のいいカフェのお手本のような要素に満ちている。自分がいいと思った新しさを柔軟に採り入れたからこそ、古風な町屋が生き生きとした魅力を放ち、多くの人たちにとって通いたくなる場所となっているのだろう。

 

■おすすめの3冊

「ローマン アンド ウィリアムスの軌跡」(スティーヴン・アレッシュ、ロビン・スタンデファー/著)

デザイン・スタジオ「ローマン・アンド・ウィリアムス・ビルディングス・アンド・インテリアズ」の創立10周年記念で刊行された、人々を魅惑する空間作りのセンスが詰まった一冊。「彼らの改装の仕方が絶妙。空間作りもユニーク。非常に参考になります」

「Some Japanese Flowers: Photographs by Kazumasa Ogawa」(小川一眞/写真)

明治から大正期に活躍した写真家・小川一眞が撮影した花の写真の数々。彩色が施され、精緻(せいち)な日本画のような魅力を放つ写真集。「彩色のセンスがいいですよね。とても美しい写真集です」

「Richard Avedon: Photographs 1946-2004」(リチャード・アヴェドン/写真)

ファッションやアートの世界で成功を収めたリチャード・アヴェドン。彼が撮影し続けてきたポートレートの数々を収録。「どの写真も華があって、見ばえがします」

    ◇

Cafe Bibliotic Hello!
京都市中京区二条柳馬場東入ル晴明町650
http://cafe-hello.jp/

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