東京ではたらく

<9>川原美樹さん(42歳)/美容師

  • 文 小林百合子 写真 野川かさね
  • 2017年8月31日

  

職業:美容師
勤務地:世田谷区の美容室
勤続:20年
勤務時間:10時~20時
休日:週休2日
この仕事の面白いところ:お客様の人生の節目に立ち会えること。生活に寄り添っていけるところ。
この仕事の大変なところ:指名の予約に穴をあけることになるので、健康面は常に気をつけています(風邪をひくのは定休日のみ!)

    ◇

 今のお店に勤めて、かれこれ20年になります。

 美容師に憧れを持ったのは小学生の頃です。地元の新潟で親類が美容室を経営しているのですが、母が髪の毛を切ってもらっている間、隅から隅までヘアカタログを見ているような子供でした。

 ものすごくくせっ毛で、物心ついた頃からそれが最大のコンプレックス。中学に上がると美容室に行かせてもらえるようになったのですが、何をどうしても理想通りの髪型になった試しがなくて……。

 クラスメイトや周囲の人は気にもしていなかったと思うんですけど、とにかくみんなに天然パーマがバレないようにと、毎朝シャンプーを欠かさず、念入りにブロー。

 それでもどうしても気になる部分は自分でちょこちょこ切ってみたり。そんなことをしているうちに自然と美容師になりたいと思うようになりました。

愛用のカットばさみは金物や刃物の老舗が集う新潟県・燕三条市で作られたもの。定期的に職人に送り、研いでもらっている

 高校に上がる頃には、進路はもう美容学校しか考えていなくて。迷いなく東京の専門学校に進学。親は反対しませんでしたが、学費や生活費は払えないということで、併設の美容室で働きながら奨学金の返済ができるという学校を選びました。

 昼、授業が終わるとすぐ店に入ってアシスタント業。シャンプーをすればお客さんの背中はびしょびしょ。パーマの補助に入れば、これまたお客さんの顔面にパーマ液を垂らしちゃうわで失敗続き。先輩にギッとにらまれたりして、怖かったですねえ。

 しかもお給料から奨学金が天引きされていたので、働いているといっても手元に残るのはほんのわずかな金額だけ。

 それでもなんだかんだ楽しくやれていたのは、「シャンプー気持ちよかったよ」、「マッサージ上手だね」なんて声をかけてくれるお客さんがいたから。単純な性格なんです、私(笑)。

 卒業後も2年間は同じ美容室で働いて奨学金を完済。その後は、当時東京で一世を風靡(ふうび)していた有名店に運良く就職することができました。

お客さんの髪質や過去のカットの内容について書き込んであるカルテを書くのも美容師の大切な仕事。カットが終わりお客さんを見送ると、すぐにペンを走らせる

 そこは誰でも名前を知っていて、トップスタイリストがばんばん雑誌に登場するような大きな美容室。もちろん憧れを持って入店したのですが、1年ほど働いた頃には「自分には合っていないかも…」と思うようになっていました。

 お店には毎シーズン「おすすめの髪形」みたいなものがあって、スタッフはそれに沿ってスタイリングするのが暗黙のルール。

 美容師それぞれの感性を発揮するという雰囲気ではなくて、それが窮屈に思えてしまったのかもしれません。

 退職後はいったん美容の世界から離れ、飲食店でアルバイトしながらフリーター生活を送ることに。上京して4年間、ほとんど休みなく働いていたせいか、「私だって土日に遊びたい!」という欲求がピークに達していたみたいで(笑)。

 ここぞとばかりに友達と旅行にいったり、夜遊びしたり。世の中の23歳はこんなに楽しい生活をしてるのか!という感じで、気付いたら1年も経っちゃってました。

パーマ用のロットは使用後に洗って太さごとに収納。新人さんの仕事かと思いきや、ベテランの川原さんも手が空いていればせっせと片付け。「いい美容室はスタッフのチームワークがいいんです。それがそのままお店の雰囲気として伝わるんです」

 もう一度美容の世界に戻ろうと思ったのは、「自分はまだ美容師になっていない!」という思いがあったから。

 じつを言うとこのとき私、まだ自分でカットをした経験がなかったんです。美容師の見習い期間はとても長くて、学校を卒業してから5年ほどはハサミを持たせてもらえません。

 ただの一度もハサミを持たずに諦めてしまうのはやっぱり嫌だし、やってみないことには自分が美容師に向いているかどうかもわからない。そんな気持ちで、居心地のいいフリーター生活に終止符を打ったわけです。

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PROFILE

小林百合子(こばやし・ゆりこ)編集者

写真

1980年兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、アラスカ大学フェアバンクス校で野生動物学を学ぶ。出版社勤務を経てフリーランスに。山岳・自然をテーマに雑誌や書籍の編集を手がける。2010年に女性向け登山雑誌『Hutte』(山と溪谷社)を立ち上げ、独自の視点で登山や自然の楽しみ方を提案した。著書に『山と山小屋』(野川かさねと共著、平凡社)、『山登りのいろはーたのしい登山のヒント集』『一生ものの、山道具』(ともにホシガラス山岳会著、パイ・インターナショナル)など。

野川かさね(のがわ・かさね) 写真家

写真

1977年生まれ。神奈川県出身。雑誌、書籍で活動するかたわら、ライフワークとして山を撮り続ける写真家。著書に『山と写真』(実業之日本社)、『山と山小屋』(小林百合子と共著、平凡社)、『山登りのいろはーたのしい登山のヒント集』『一生ものの、山道具』(ともにホシガラス山岳会著、パイ・インターナショナル)など。

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