#明日何着よう

石っこ、顔に雲母をはたく

  • 文・朝吹真理子
  • 2017年9月1日

雲母のかけら

 かつて「石っこまりさん」と家族から呼ばれていた。それは鉱物好きの宮沢賢治が「石っこ賢さん」と幼少期に呼ばれていたことに由来するもので、ミネラルフェアで両親に石をねだるような鉱物好きだった。鉱物図鑑の挿図をみているだけで時間が経った。石が好きなあまり、ひとりで部屋にいるときは、鉱物標本に入っていた石を取り出して、こっそり舐(な)めた。なかでも、繊細な層状結晶の雲母を、舌の上で割ってしまわないように注意しながら舐めるのが好きだった。石を舐めると、はてしない過去に直接接続できるような気持ちになった。家の学習机に置いてあった縞瑪瑙(しまめのう)が、石英やオパールといった鉱物が火成岩や堆積(たいせき)岩の空洞中に沈殿したことで生成した鉱物の一種だと知ると、地球の時間がレコードになったようにみえた。層状の石にレコード針を落としたら地球創世の音がきこえてきそうだと思っていた。可能ならば、石になりたい、とさえ思っていた。

[PR]

 大人になったいまも鉱物や化石が好きなのは変わらない。ネイルアートに大理石のようなマーブル模様を描いてもらったり、表参道のセリーヌの前を通るときは、ファサードパネルのオニキスの淡い緑が好きで、立ち止まってながめる。晴れている日だと並木の緑がガラスに反射してオニキスと重なり、とても美しい。

 ここ数年、メイクをするときは、ミネラルファンデーションを好んで使っている。それは、ミネラルファンデーションのきらきらしたやわらかい粒子は、細かく砕かれた雲母が用いられていることを知ったからだった。石(せっ)けんでファンデーションが落ちる手軽さもいいのだけれど、なによりも、お化粧をするたびに、子供のころに憧れつづけていた雲母がコンパクトのなかに微粒子となってきらめいていることに感激する。かつてくちのなかで一心に舐めていた雲母を、好きなだけ顔にはたいているのだと思うと、むしょうに嬉(うれ)しくなる。(作家)

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

PROFILE

朝吹真理子(あさぶき・まりこ)

1984年、東京生まれ。 2009年、「流跡」でデビュー。2010年、同作でドゥマゴ文学賞を最年少受賞。2011年、「きことわ」で芥川賞 を受賞した。

今、あなたにオススメ(PR)

Pickup!