パリの外国ごはん

何度食べてもほれぼれ。行列のピタパンサンド「Miznon」

  • 文・写真 川村明子 イラスト 室田万央里
  • 2017年9月12日

  

  

  

 パリに来て、マレ地区でピタパンを使ったファラフェルサンドを食べたい、という人は少なくないと思う。ひよこ豆のコロッケ(ファラフェル)に揚げナス、紫キャベツの千切りがぎゅっと詰められたボリューム満点のベジタリアンサンドイッチだ。ユダヤ人街として知られるこのエリアに2013年、Miznonが登場した。どうもファラフェルがスペシャリテではないらしい。気づけば、SNS上でミズノンで食べたという、カリフラワーの丸焼きの写真を頻繁に目にするようになっていた。そして初めて訪れた日から、用事がない限り行くことのなくなっていたマレの中心地に、足を運ぶ目的となった。

  

 オープンから4年経った今でも、ランチタイムには外まで行列ができるほど人気だ。この店は、注文が入ってから主となる具材を焼いて仕上げるので、だいたい10分くらいの待ち時間がある。だから注文時には名前を聞かれる。それもあって、入り口付近は混雑している。でも、その間に垣間見ることのできるオープンキッチン内のライブ感が食欲を増幅させるのだ。奥の間にはテーブル席がいくつかあるのだけれど、一度も座ったことはない。このライブ感が楽しくて、作っている様子の見られるカウンター席にいつも座る。

 この日も、万央里ちゃんと私は、サンドイッチを仕上げていく様子が真横から見られる場所を陣取った。傍には、ピタパンの切り落としと、タヒニ(ごまクリーム)がベースのソース、トマト汁、ハーブのオリーブオイル漬け、粗塩、それに大きな青唐辛子のグリルが置いてあり、セルフサービスになっているこれらを待ち時間につまむのがお決まりだ。

  

 私が写真を撮っている間に、万央里ちゃんが私の分までミニミニサンドを作ってくれていた。席に落ち着くと、早速、付け合わせでオーダーしたインゲンを渡された。このお店は野菜もサンドイッチも、すべて紙に包んでくれて、お皿はない。初めて頼んだインゲンは、オリーブオイルとほんのり爽やかな酸味をまとったもので、これがやっぱり手が止まらぬおいしさだった。

  

 カウンターで厨房(ちゅうぼう)の様子をずっと見ていると「これがおいしさを作ってるのだろうな」と納得するのは、躊躇(ちゅうちょ)ない、オリーブオイルの注ぎ方。まさに、「注ぐ」という言葉がぴったりな使い方をするのだ。

 手がオイリーになりながらインゲンをつまみつつ、ミニミニサンドをひと口ほおばると、唇がしびれる辛みがあった。「なにこれ?! このpimentすんごい辛くない?」と聞くと、「うん。辛いね」と言いながらも万央里ちゃんはどうも平気そうだ。

 たまたま私のが辛いのか? ともうひと口食べると、はからずも涙が出てきた。それでひとまず休憩。ベタベタになった手をふき、メインを食べるための態勢を整えていると「アキコー!」と呼ばれる。この日注文したのは、羊肉のケバブ(このお店は肉団子にして焼いたもの)。ごまクリームとの相性が抜群の“steak&egg”も、軽く塩漬けにして干した白身魚を卵液にくぐらせ小麦粉をはたいて焼いた“poisson(魚)dore(こんがり焼けた)”も大好きで、迷った末の苦渋の選択だった。

  

 せっかく格好の席に座っていたから、作る工程をしっかり見ていた。羊肉は、鉄板の上にボウルをかぶせて蒸し焼き。それを、紫たまねぎ、パセリ、ミント、青ネギ、オリーブオイルと一緒に合わせ、タヒニを塗ったピタパンに詰める。とてもシンプル。オリーブオイルの使い方、タヒニも味のポイントだが、もうひとつの大きな決め手は、ピタパンだ。生地の厚みといい質感といい、何度食べてもほれぼれするおいしさ。お肉自体には油っぽさがないから、ボリュームから受ける印象よりも意外にさっぱりと食べられる。

  

 万央里ちゃんの頼んだ”poisson épicé(スパイスをきかせた魚)“は、こんがり焼き目をつけた白身魚がゴロンと入っていて食べ応えがありそうだった。ミズノンは、お魚系が実においしい。どこのレストランに行っても、大抵私は肉料理を取るけれど、このお店はpoisson doréがいちばんおいしいと思っている。

 私たちがもくもくと食べ続ける間も、厨房に立つサンドイッチ担当の2人の手は止まることがない。手際の良い見事なパフォーマンスと、サンドイッチのおいしさに興奮しながら、まだ試したことのない具材が見えると、のぞき込んではあーだこーだと言っていた私たちに、ジャガイモを詰めたミニミニサンドが差し出された。うわぁと驚いた私たちの目はキラキラしていたにちがいない。遠慮なくいただいて、手にしたそれは、生野菜が加えられていないからか、ほんわか温かかった。そして、じんわりしみる優しい味がした。

  

 食べ終わって帰り際、あのパンは買えないのだろうか? と思い、私たちの横に立ち、注文が上がるたびに名前を読んでいたスタッフのお兄さんに聞いてみた。ピタパンはどこで買えるのか? それともお店でも売ってくれるのか?と。すると、パリでは買えないんだけどちょっと待って……とレジの方に何かを聞きに行き戻ってきた。ピタパンは、テルアビブ(イスラエル)から仕入れているものなのだそうだ。だからパリでは買えない。と、2枚おみやげにくれた。私たち、きっと見るからに興奮して食べてたんだなぁと少し恥ずかしかったけれど、ありがたく頂戴(ちょうだい)した。

 そう、ミズノンはテルアビブに本店があり、ほれ込んだオーナーがパリにコンセプトごと輸入して作ったお店だ。彼の地の店は、パリよりももっとダイナミックな雰囲気だと前に聞いた。いつか行ってみたいなぁ。そしてよりフレッシュなピタパンを食べてみたいものだ。

  

Miznon
22, rue des Ecouffes 75004 Paris
01 42 74 83 58
12時~23時(金曜 ~15時半)
土休み

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PROFILE

川村明子(かわむら・あきこ) 食ジャーナリスト

写真

東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)
日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

室田万央里(むろた・まおり) 料理人

写真

無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
Instagram @maorimurota

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