東京ではたらく

<10>清水ありささん(41歳)/ギャラリーオーナー

  • 文 小林百合子 写真 野川かさね
  • 2017年9月14日

  

職業:ギャラリーオーナー
勤務地:渋谷区のNidi Gallery
勤続:9年
勤務時間:12時~20時(展示によってさまざま)
休日:展示によってさまざま
この仕事の面白いところ:作家さんと一緒に展覧会を作り上げること、展覧会が成功したときの喜びは何にも替えられません。
この仕事の大変なところ:アートを広く紹介するということと、それをビジネスとして成立させることのバランスをいかにとるか、それが一番難しい点です。

    ◇

 渋谷駅のそばにあるマンションの一室で、小さなギャラリーを運営しています。

 基本的にはギャラリー主催の企画展を開催しつつ、ときにはギャラリーをお貸しして、ファッションブランドなどの展示会を開くこともあります。

「ギャラリー」と聞くと、ものすごく高額な絵や美術作品が飾ってあって、コレクターの方たちが足を運ぶ場所という印象を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、私のギャラリーはその真逆のような存在かなと思います。

 普段ギャラリーに行く習慣のない方でもふらっと気軽に入れて、さまざまな価値観や生き方に触れられる場所。等身大で、みなさんの日常に沿えるような空間になればいいなというのが、オープン当初から心に留めていることです。

マンションのエレベーターを降りてすぐ。「オープンしている間、扉は少し開けておきます。初めての方はきっとドキドキしてしまうと思うので」

 自分のギャラリーを持ったのは32歳の頃。それまではアパレル会社に勤務したり、ファッションスタイリストのアシスタントをしたり、いろいろな職種を経験しました。若さゆえの行動といいますか、思春期から20代にかけて抱いていた“憧れの職業”をのきなみやってみたという感じです(笑)。

 出身は大阪の堺市です。文学や映画、美術に造詣(ぞうけい)が深い両親のもと育ったせいか、子供の頃から自然と美術や芸術に興味を持つようになりました。

 芸術に囲まれてのびのびした思春期を送ってもおかしくなかったのですが、進学した高校が進学校で……。毎日参考書でパンパンになったカバンを持って通学する日々でした。

 部活も文化祭も取り組む時間なんてなく、うつうつと過ごした青春時代。そんな生活への反動が「東京の大学へ進学したい」という強い気持ちにつながったのだと思います。

一面真っ白な空間に飾られた絵。「展示のレイアウトは作家さんのご意向を基本的に尊重しますが、お客様の動線や目線が行きやすい場所など、私からアドバイスさせていただくこともあります」

 東京には単館の映画館もたくさんあるだろうし、いろいろな展覧会だって見られる。何より、そうした趣味を分かち合える人がきっといる。そんな希望を抱いて、ひとり上京したのでした。

 東京でひとり暮らしを始めた頃はとにかくうれしくて、エアコンの室外機がやっと置けるくらいの小さなベランダに椅子を出して、クロワッサンとカフェオレを飲んだりしていました(笑)。

 SNSなんてない時代です。地方に暮らす高校生にとって、最先端の情報を得られるのは雑誌くらいですから、当時愛読していた雑誌を見て、憧れの生活をまねしたかったのでしょう。こと自分はそういう“憧れ”の強い女の子だったのだと思います。

 大学時代は「これまで憧れていたことを全部やってみよう!」と思っていた時期。好きだったカフェやアパレルのセレクトショップでアルバイトをしたり、バックパックを背負ってヨーロッパやインド、アフリカを旅したりしました。

作家さんの作品に加え、オリジナルグッズなども販売する。「作品が売れるのがベストですが、関連商品を置くことでよりお客様に興味を持って頂けますし、作家さんの売り上げにもつながるので。ビジネスとして展覧会を成功させるというのも、ギャラリストの大切な仕事です」

 就職は、なかでもその世界観に圧倒された海外のアパレルブランドへ。新卒募集はなかったのですが、まあ直談判といいますか(笑)。頼まれてもいないのに超長文のリポートを書いて送って、猛アピール。怖いもの知らずが幸いしたのか、採用していただきました。

 販売員として勤めた4年間は、接客の作法はもちろん、テキスタイルの歴史やそれを作る技術、ブランドの世界観を作り上げるインスピレーションの得方やそれをどう具体的に展開していくかのテクニックなど、ファッションという枠を超えて、貴重なことをたくさん学ばせていただきました。

 その後、ファッションスタイリストのアシスタントにと声をかけられたことを機に転職。まだ20代半ばということもあってか、「新しい可能性があるほうに飛び込もう!」みたいな気持ちがあったんだと思います。

 大変な世界とは聞いていましたが、やってみたいという思いのほうが先に立って、新しい世界へまさに“飛び込んで”いったのでした。

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PROFILE

小林百合子(こばやし・ゆりこ)編集者

写真

1980年兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、アラスカ大学フェアバンクス校で野生動物学を学ぶ。出版社勤務を経てフリーランスに。山岳・自然をテーマに雑誌や書籍の編集を手がける。2010年に女性向け登山雑誌『Hutte』(山と溪谷社)を立ち上げ、独自の視点で登山や自然の楽しみ方を提案した。著書に『山と山小屋』(野川かさねと共著、平凡社)、『山登りのいろはーたのしい登山のヒント集』『一生ものの、山道具』(ともにホシガラス山岳会著、パイ・インターナショナル)など。

野川かさね(のがわ・かさね) 写真家

写真

1977年生まれ。神奈川県出身。雑誌、書籍で活動するかたわら、ライフワークとして山を撮り続ける写真家。著書に『山と写真』(実業之日本社)、『山と山小屋』(小林百合子と共著、平凡社)、『山登りのいろはーたのしい登山のヒント集』『一生ものの、山道具』(ともにホシガラス山岳会著、パイ・インターナショナル)など。

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