上間常正 @モード

京都と沖縄の伝統職人技を融合した新しいシャツに注目

  • 上間常正
  • 2017年9月8日
  • プレミアム版とパイカジの吉田康秀社長

  • プレミアムオーダーメイドシャツ

  •  琉球藍

  • 特製ボタン

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 京都と沖縄の職人技を合わせて作った、新しいタイプのシャツができた。ことさらな派手さや地域色はないのに、伝統の重みと同時に新鮮な伸びやかさが感じ取れる。そんなシャツの展示会がこの夏、京都と東京・銀座で開かれ注目を集めた。

 このシャツを企画・制作したのは、沖縄・豊見城市の有限会社ジュネ。沖縄のシャツといえば「かりゆしウェア」が思い浮かぶが、ジュネは1967年の創業以来、それとは一線を画した上質でデザイン性の高いアロハシャツやムームーなどを「PAIKAJI(パイカジ)」のブランド名で製造・販売してきた。パイカジは沖縄・八重山地方の言葉で、南風のこと。

 パイカジを広くアピールしていくためには、他県の優れた職人技とタッグを組んで、伝統や文化、作り手の思いを未来につないでいくことが必要だ。ジュネの吉田康秀社長は今回の企画についてそう語る。

 そこで白羽の矢が立ったのが、京都で400年近く「京唐紙」を作ってきた「唐長(からちょう)」だった。琳派の流れを受け継ぐ唐長の紙は、独自の美しい文様が特徴で、約650もの文様の版木を江戸時代から守り続けてきた。

 今回選ばれたのは、四角が浮き沈みしながらどこまでも広がっていく「角つなぎ」の文様で、武家や歌舞伎役者の市川團十郎が愛用していたという。唐紙はキラ(雲母の微粒子)を泥絵具にまぜることでほのかにきらめくのが特徴だ。和紙作家の明松政二さんが楮(こうぞ)と雁皮(がんぴ)にキラを漉き込んだ極薄の和紙を3層に重ねることで、キラの輝きを再現した。そしてこの紙を、世界的なテキスタイルデザイナーの須藤玲子さんが、和紙と100%オーガニックリネンを一体化した布地に仕立てた。

 沖縄側からは、藍染め職人の大城拓也さん琉球藍の色を参考に、唐長の12代目千田誠次さんが唐紙を摺って沖縄と京都を融合した色調の藍色を創り出した。また、沖縄の陶芸家・安里貴美枝さんが陶器の、琉球漆器の職人・森田哲也さんが漆器で、それぞれ繊細で重厚な2タイプのボタンを特製した。手縫いの縫製を担当したのは、世界の高級ブランドや有名セレクトショップのシャツを請け負っている福島の縫製工房「リオ・ビアンコ」。東日本大震災で被災し、沖縄に避難して豊見城市にアトリエを開いたのがきっかけだった。

 一年かけて出来上がった「プレミアムシャツ」は、沖縄と日本の伝統を受け継ぐ何人もの第一級の職人の創意と工夫が結集されたものだ。企画全体のクリエーティブディレクターを務めた、元琉球朝日放送記者で沖縄在住の土江真樹子さんは「京都と沖縄、老舗と復帰後の沖縄の新しさをつなぐ思いを表現したかった」と語る。

 完全受注生産のプレミアム版のほかに、文様を手捺染(てなっせん)でプリントして普通のボタンを使い、色も4色用意した通常販売バージョン(普及版)も作った。プレミアム版は一着の価格が120万円、普及版でも4万5千円、4万7千円とかなりの高額になった。しかし、かけられた手間ひまと技術の高さを考えれば、誰でも買えるとは言えないが、それだけの価値は十分にある。海外の高級老舗ブランドのシャツは、たいていそれぐらいの価格だし、一着数百万のオートクチュール老舗ブランドの服と比べれば決して驚くほどの価格ではないのだ。

 京都と東京の展示会では、通常販売バージョンも好評で好調な売れ行きで、プレミアム版にもすでに一件の注文を受けた。海外の高級セレクトショップからの引き合いも来ているという。唐長はフランスの老舗ブランド・エルメスとコラボした手帳を今年夏に京都で限定販売し、それも好評でほぼ売り切れた実績もある。

 世界的なアパレル不況が広がっていて、グローバル化して効率化した高級ブランドの服や、もともと底の浅いファストファッションの服も魅力を失ってきている。そんな中でいま注目されるのは、地域の特色や伝統の職人技を新たな形で現代的に表現した今回のシャツのような試みなのだと思う。

 ただしあえて言えば、このシャツの魅力をもっと引き出すためには、トップクラスのファッションデザイナーの協力が望ましい。そしてより多くの人が着られるために、経営上の効率化とは違うやり方で価格を下げる工夫の余地を探る努力も必要だろう。さらにこのシャツを国内外に向けてどうアピールしていくかも今後の課題だ。

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PROFILE

上間常正(うえま・つねまさ)

写真

1972年、東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。88年からは学芸部(現・文化部)でファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化学園大学・大学院特任教授としてメディア論、表象文化論などを講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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