ほんやのほん

夏に読む怪談と、秋に読む怪談は違う。『ゴースト』ほか

  • 文・間室道子
  • 2017年9月19日

撮影/馬場磨貴

  • 『ゴースト』中島京子・著 朝日新聞出版 1512円(税込み)

  • 『きのうの影踏み』辻村深月・著 角川書店 1600円(税込み)

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 夏によくテレビで「心霊モノ」が放送され、好きだから見るんだけど、あれらって不思議と記憶に残らない。ひたすら消費されていく恐怖映像。なぜ心に残らないのか、すぐれた怪談との違いは何かと考え、根底に悲しみがあるかないかだと思った。「若者が遊び半分に廃虚に踏み込み、変なものに遭遇」。これはただのバチ当たりで哀愁のカケラもない。また、ほんとにああいう目に遭ったなら、カメラを放り投げて逃げるはずなのに、彼らはなぜ追ってくる怪異を最後まで撮り続けられる?!

誰が幽霊なのかわからない……?
『ゴースト』

 閑話休題、今回紹介する人気女性作家2人の作品はさすがの面白さだし、胸を小さな手できゅっとつかまれるような切なさがある。まずは中島京子さんの『ゴースト』(朝日新聞出版)。今までの中島作品にもちょくちょく不思議なお話があるけど、どれも日常と地続きの奇妙さ、通りすがりの異空間といった感じで、あまり「通常」と「異常」が離れてない。本書でも生きている人間と死んだ人の区別がなく、誰が幽霊なのかわからないまま進むお話がほとんど。幽霊譚でありながら幽霊じたいを書きたいわけじゃないんだな、というのがうかがえる。伝わってくるのは、時間の積み重ねによって古びていく人や家や道具へのいとおしさだ。

 また、どのお話にも戦争の影があるのが隠れテーマだと思う。現実の関西でこの時代に幼稚園児たちが何を教え込まれていたか、海の向こうで白人至上主義がいかに根強くあるか。繰り返したくないもの、解決したつもりでも振り払えないものすべてが「ゴースト」として、今も私たちにつきまとっている。そんな警鐘も響いてくる7編。

今までにないトリハダの立ち方
『きのうの影踏み』

 もう1冊は辻村深月さんの『きのうの影踏み』(角川書店)。十円玉を使ったおまじない、作家たちに届くとても特徴的な書き方で奇妙な内容の手紙、保育園に通う息子が唐突にしゃべりだした謎の言葉、「噂(うわさ)の最初」を追う噂地図の話など、どれもフレッシュな不気味さが魅力。一話一話のあらすじを覚えていなくても、本書で今までにないトリハダの立ち方をした、それだけは忘れられない体感記憶型の本だ。

 古今東西の怪談は、登場人物に向かってどこからか手が伸びてくることから始まる。その手を取ったために、あるいは取らなかったために、異変は起きる。どっちにしても呪われちゃうんだけど、自分に気づいてほしいと伸ばされる手。これは悲しい。

 夏は暑さを忘れるために怪談にふれる。秋は長く尾をひく悲しみを味わうために、本を開こう。

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PROFILE

間室道子(まむろ・みちこ)

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代官山 蔦屋書店の文学コンシェルジュ。雑誌などで書評連載を多数持ち、年間700冊以上読むという「本読みのプロ」。お店では、間室手書きPOPが並ぶ「間室コーナー」が人気を呼ぶ。

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