このパンがすごい!

「俺のBakery&Cafe」プロデューサーが作った新しい”僕の店”/パン・デ・フィロゾフ

  • 文・写真 池田浩明
  • 2017年9月26日

パン・デ・フィロゾフ(東京都)

 タレント目白押しのパン職人ニュージェネレーションを代表する一人、榎本哲さん。20代でドミニク・サブロンのシェフに就任、最近では「俺のBakery&Cafe」をプロデュースしてブレークに導いた彼が、ついに自分の店「パン・デ・フィロゾフ」を旗揚げした。

 そのコンセプトは……「めっちゃエゴを通せればいいと思ってます。本当においしいと思うものをやりつづけたい。妥協はしたくない」

 多くのスタッフを抱えるベーカリーではできなかったこと。

 「ここはすごく小さい店。僕がぜんぶ目を通し、触れて、味わえる範囲。自分が作るのならむずかしい製法でもできる。やりたい製法でやりたいものを出していく」

 しがらみもなければ、空気も読まない。作るパンはハード系、食パン、クロワッサン、以上。カレーパンもクリームパンも出さず、生地のおいしさだけを追求する。

アサマ山食パン

 ずっと待ちつづけた榎本哲の本気。彼のエゴはいったいどんなパンを生み出すのか。

 アサマ山食パンの前代未聞の食感。パンケーキみたいにふさふさと歯を包んだかと思えば、ねっとり溶けて、歯にくっつく。そんな食感もさることながら、風味もホワイトチョコを彷彿(ほうふつ)とさせる。麦芽とはちみつのむんむんする甘さに、鼻をくすぐる発酵バターのミルキーさ、そして、舌と鼻孔に食い込む、グレイシュなニュアンスはなにか。群馬県産小麦。全国的には知られていないこの小麦に榎本さんが出会ったのは、軽井沢で新店舗の立ち上げをしたとき。地粉のもたらす不思議な食感とパワフルなフレイバーを、引き出しから取り出したのだ。

 エゴは常識さえ突き破る。αバゲットの「α」とはなにか。湯種によってデンプンをα化させていることにちなむ。さっくりとした歯切れこそ身上とされるバゲットに、もちもちになる湯種は用いられることがない。だが…

 「湯種のバゲット、めっちゃおもしろい。和の食材に合います。サンドイッチに最適。バインミーとか、サバサンドとか」

αバゲット断面

 αバゲットの皮はさくさくと軽快に割れる。まるで揚げたようにオイリーなのは、長時間発酵によって旨味(うまみ)が充満しているからだ。中身は、これがバゲットか? といぶかしくなるほどふにゃり。歯がくすぐられ、舌がやわらかなブランケットをかけられたかのようなやわらかさ。どろりととろけてお米のような滋味がしてくる。まるでおかゆ。

 ル・ヴィニュロン・ルージュは、ドミニク・サブロン時代から得意としていたパン・オ・ヴァン(ワインのパン)でもエゴを突き通す。皮はワインの旨味を濃縮還元したようだ。中身はねっとり。そこから放たれるのは単に赤ワインの風味ではなく、フルーティーさに小麦のミネラル感がのっかってやみつき必至。そこにお酒に漬けたイチジクやクルミなども加わって、贅沢(ぜいたく)な味わいに悶絶(もんぜつ)。

ル・ヴィニュロン・ルージュ

 ル・ヴィニュロン・ブランという白ワインバージョンも存在。潤って、ぴちぴちした中身から、酒精がほとばしる。フルーティな芳香、甘み、旨味。さらにレーズンからもワイン風味のジュースがほとばしって、快楽をさらに燃え上がらせる。

 シグニチャー(看板商品)となるのが、ポミエ。りんごの木をイメージした、木の枝のような形。生地をひねって成形し、窯入れ前にはさみで先を切って、枝ぶりを作りだす。つまり、いちばんばりばりしておいしい先端部分がいくつもできることになる。並外れた香ばしさの底に甘みが隠れている。もちもちとした中身から出現するアップルジンジャーをざくりと噛めば、甘酸っぱさが広がる。

クロワッサン

 クロワッサンのすばらしさ。バターの風味がとにかく芳醇(ほうじゅん)なのである。袋を開けた瞬間の匂いに、きつね色に焼けた皮に。そして、単に層状なのではなく、ぷにゅんと跳ねてはとろとろーっと溶けていく慈愛に満ちた中身から放たれる生々しいバター感。先述した群馬県産小麦を使用。その力強い風味は舌をこすり、バターの風味の狂おしさを倍加する。

 これでも未完成だと榎本シェフはいう。9月18日にオープン、即最先端に躍り出たモンスターパン屋の今後から目が離せない。

外観

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■パン・デ・フィロゾフ
新宿区東五軒町1-8
03-6874-5808
月曜休

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PROFILE

池田浩明(いけだ・ひろあき)ライター

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

BOOK

『日本全国 このパンがすごい!』(発行・朝日新聞出版) 池田浩明 著

写真

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