ほんやのほん

茶葉とスパイスの香りと味、混然一体の魅力。『チャイの旅』

  • 文・後藤奈岐
  • 2017年9月25日

撮影/馬場磨貴

  • 『チャイの旅 チャイと、チャイ目線で見る紅茶・日本茶・中国茶』神原博之著 ギャンビット刊

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 勤めている書店から自転車で5分ほどのところにあるネパール料理店のヤギのカレーのとりこになってしまった。このところ週に一度ほどのペースで、軽い運動がてらランチに行っている。凝縮されたうまみと程よい酸味を、カルダモンの上品な香りが覆って、絶妙な味わいを醸し出す。

 スパイスは不思議だ。組み合わせ次第で、食材のうまみや匂いをかき消したり引き出したり、また、他のスパイスと合わさることで、単体での香りとは別の表情を見せたりする。ヤギのカレーの後に出てくるチャイの馥郁(ふくいく)とした香りも、昼休みに自転車を走らせる理由になっている。

 スパイスと砂糖で、お茶本来の風味などかき消されてしまうのがチャイだと思っていたけれど、おいしいものであれば茶葉やミルクの香りも楽しめるのだと気づかされたのだ。

 使われているスパイスや茶葉をそれぞれ個別に、分析的に味わうこともできるだろうが、難しく考えず、素材が合わさることで生まれる調和に味覚と嗅覚(きゅうかく)をゆだねたい、そう思いながら午後の業務に向けて気持ちを整えてゆく。

「カンテ・グランデ」のチャイから

 大阪のカフェ「カンテ・グランデ」で長年にわたってチャイを作り続け、現在ではチャイのワークショップを各地で行っている神原博之さんの『チャイの旅 チャイと、チャイ目線で見る紅茶・日本茶・中国茶』はカテゴライズの難しい書籍だ。チャイをはじめとしたさまざまなお茶の淹(い)れ方のレシピ本でもあるし、茶葉の種類や特性を解説した教科書でもある。そして神原さん自身や神原さんの勤めたカフェについての回顧録でもある。

 エッセーを読み進めるうちに、チャイの淹れ方だけでなく、紅茶の産地や中国茶の種類について、気がついたらおおまかにのみ込めている。がちがちの理詰めで茶の淹れ方について講義をされているのではなく、昔がたりに耳を傾けながら、目の前で煎じてもらったお茶を味わっているような気分にさせてくれる、そんな本である。

 おそらく、著者の経験をもってすれば教科書的な本も書けただろうし、1冊全部をエッセイにしても読者を引き込むものはできただろう。でも、薀蓄(うんちく)や回想や資料的な要素が渾然一体となった本書の体裁は、チャイについて語るのにふさわしい形式のように思われるのだ。難しいことを考えず、読後の残り香にまで身を浸したい。

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PROFILE

後藤奈岐(ごとう・なぎ)

写真

かつては、映像の世界で翻訳のディレクターを務めながら、フランス料理を学んでいたが、料理と本への愛が募って、代官山 蔦屋書店の料理コンシェルジュとなった。専門料理書や洋書のMDを主に担当している。

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