川島蓉子のひとむすび

<26>シーツにカーテン、バスローブ。布を味わう宿 COQ 梶原加奈子さん

  • 文・川島蓉子 写真・小林亜佑
  • 2017年9月27日

COQ2階、布を体感できるゲストハウス

  • 心地良さを追求したリネンブランド「Nokton」で包まれたベッド

  • ベッドの上には、シルクのパジャマが

  • 「フォレストパイル16」という綿と麻を混紡したラグマットとユニークな背あて

  • ソファやクッションは触れる楽しさを感じるもの

  • 建物は、建築家の鈴木理さんによって、木漏れ日や風の音、鳥のさえずりなど、「自然との一体感」を大切に計画されたとのこと

  • 静寂に覆われた時と空間のぜいたくさを感じられます

  • 上質なタオルとバスローブが、バスルームや洗面所にふんだんに置いてあります

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 前回は、「テキスタイル=布」のデザイナーである梶原加奈子さんが、日本の布作りの“技術や思い”を伝える場として、生まれ故郷である札幌に「COQ(こきゅう)」という場を作ったことに触れました。ギャラリー&ショップ、ダイニング、ゲストハウスを備え、裏手には川が流れ、森が広がる複合空間です。

なぜ、布のデザインとゲストハウス?

 今回お伝えしたいのは、2階にしつらえてあるゲストハウス。耳にした時「なぜゲストハウスなの?」と素朴な疑問を抱きました。梶原さんの本業とかけ離れていると感じたから――。それを聞いたところ「“テキスタイルデザイン”の存在を知らない方がまだ多く、日本のテキスタイルデザインが優れていて、暮らしに密接に結びついていることを伝えたかった」と答えが返ってきました。

 もちろん、1階にあるギャラリー&ショップで、布そのものや、バッグやストールといった布製品に触れることはできるのですが、梶原さんの「もっと実感・体感してほしい」という思いから、カーテンやラグ、客室リネン、バスローブ、パジャマ、タオルなど、手がけた布をそろえた部屋を作ったというわけです。つまり「暮らしの中で布を体感できる場」として、2階に1室だけ、100平米のゲストハウスは生まれました。

 ただ、ゲストハウスに入った途端「ちょっと豪華過ぎるかも」とびっくりしたのも事実です。大きなソファが配されたリビングコーナーにはたくさんのクッションが配されていて、中央には大きなダイニングテーブルとキッチンが。そして、奥には上等なリネンに覆われたベッドが二つ並び、その上にシルクのパジャマが置いてあります。床から天井までの大きな窓には、透明感があるカーテンがかけられています。そして、バスルームや洗面所に、ふんだんなタオルとバスローブが用意されているのです。このぜいたくさはどういう意図からなのか――論より証拠、体験するのが一番と考えました。

 一晩過ごして「なるほど」と納得しました。ゆったりしたソファで頭や身体を預けるクッションの肌触り、床に敷いてあるラグに触れる楽しさ、朝と夜で景色を変えてくれるカーテンの存在、つるりと滑らかなシーツの気持ち良さ、さらりと肌に触れるパジャマの温かさ、身体や手を拭ってくれるふんわりしたタオルのやさしさ、そして自然に囲まれ、静寂に覆われている時空間。すべてが一体となって、身体と心が喜んでいるのを感じたのです。

 一隅に置かれている「TODAY'S LINEN」と記されたパンフレットを開くと、それぞれの布の解説が付されています。たとえば客室リネンは「最高級の素材と日本の伝統技法に、モダンな感性を融合させたホテルリネンのブランド『Nokton』のもの」とあって、絹のように上品な光沢と繊細な柔らかさが特徴の最高品質コットン「ラグジック」を織り上げたものであることがわかります。

 バスマットは「フォレストパイル16」という綿と麻を混紡したもので、柔らかく吸水性がいいこと、「手応えを感じるユニークな触感」と思っていたラグマットは、天然和紙繊維を用いたものであることなど、つい読み込んでしまう内容。こうやって布に触れながら、それぞれのルーツや技術を知っていくのは、楽しく面白い体験と感じました。

日々の暮らしの中で、心地よさを感じるということ

 梶原さんのデザインする布は、一人で創っているのでなく、寝具や靴下などのメーカーと組んで、一緒にモノ作りしているケースが多いのですが、それが別々の店で展開されていること、そこで布に触れることはできても体験はできないこと。だからこそ、ゲストハウスなのです。手で触れるだけでは味わえない、身体で感じる布とのかかわりが体験できるのは意味があると思いました。

 それは単に、それぞれの布の持っているストーリーを知ることだけにとどまりません。ゲストハウスにある布のアイテムは、普段の暮らしの中で使っているものばかり。日々の暮らしが布と深くかかわっていること、布が異なるだけで気分が豊かになることに思いが及ぶから――。

 「デザイナーとして、布をデザインすることだけにとどまらず、布に囲まれた暮らしの豊かさ、気分、心地をトータルにデザインしていきたい」という言葉が、真っすぐに伝わってくる――梶原さんの夢がカタチになった場と腑(ふ)に落ちました。

 「自然から感じ取る人生観のようなこと――永遠性、継続性、完成しない美しさといったことを、人の五感が感じ取るような布を創っていきたい」と、梶原さん。都会の忙しさの中では置き去りにされがちですが、日々の暮らしの中で五感を働かせ、自然に根ざした美しさ、心地良さを感じるのは、実に豊かなこと。わざわざ東京から札幌に出かけたことが大きな収穫をもたらしてくれました。

 これからの梶原さんの活動を応援していきたいと思います。

■COQ(こきゅう)
札幌市南区常盤5条1丁目1-23
http://coq-textile.jp/

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PROFILE

川島蓉子(かわしま・ようこ) 伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト

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伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。多摩美術大学非常勤講師。 日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。
ifs未来研究所 http://ifs-miraiken.jp

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