花のない花屋

10億円を超える借金返済、がむしゃらに頑張った私へ

  • 花 東信、写真 椎木俊介
  • 2017年9月28日

  

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〈依頼人プロフィール〉
高橋美智子さん(仮名) 54歳 女性
静岡県在住
会社経営

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 私は会社経営をしていた父のもとに次女として生まれました。もともとは祖父が100年以上前に創業した食品関係の会社です。しかし、父は私が23歳のときに亡くなり、長女はアメリカ人と結婚して渡米したため、私が結婚して家に入ることに。当時は母が社長でしたが、5年ほどして私の夫が社長を引き継ぎました。

 それまではそこそこ安定していた会社だったのですが、夫は男として自分の足跡を残したいという思いがあったのでしょう、新たな分野に打って出て、失敗。会社も家も傾き、倒産寸前になりました。母はうつから認知症を発症。当時、主婦として10歳、8歳、6歳、2歳の子どもを抱えていた私は途方に暮れてしまいました。

 結局、創業家の本家筋である私が社長に指名され、「会社をつぶすにも社長が必要だから……」と責任を取るために引き受けたところ、夫は私にも裏切られたと思い込み、夫婦関係もギクシャク。私の親戚ともうまくいかなくなり、夫は家を出ていきました。私には、4人の子どもと認知症の母、10億円を超える借金が残されました。

 幸いだったのは、銀行が私たちを支える姿勢を貫いてくれたことです。でも、社長が代わっただけで利益体質になるほど経営はやさしいものではありません。この10年、利益が出そうになると為替の外部要因に翻弄(ほんろう)され、上向きなったと思ったらかつてないほどの自然災害に見舞われるなど、いくらやってもこれ以上無理なのでは、と何度もあきらめかけました。

 でも、4人の子どものことを考えるとそこで負けるわけにもいかず、0.5円のコピー用紙にも目を光らせ、2年前にやっと収支がトントンに。そして昨年度、ようやく十数年ぶりに利益が出ました。

 2年前、要介護5だった母が82歳で亡くなりましたが、幸いにも会社の復調の兆しが見えた頃でした。「大丈夫だよ」と言って送り出せたことがせめてもの救いです。

 子どもたちには、ひとり親家庭だからと悲しい思いをさせないよう、仕事から帰ったら、翌日のために夜中に料理をして手作り料理を食べさせ、できる限りのことはしてきました。おかげで長男、長女は大学を卒業し、無事に就職。あとは次男、三男のみです。

 今年に入ってからは、銀行の人から「10年以上苦労した甲斐(かい)があったね」と言葉をかけてもらいました。従業員を路頭に迷わせることもなく、頑張って本当によかったと今は思います。

 苦しかったこの10年、実はいつもお花が私を助けてくれました。大学時代は生け花を習い、免状を取るほど花が好きでしたが、社長になってからはまったく余裕がなくなり、お花との縁も切れてしまっていました。

 トイレやレストランなどですてきなアレンジを見かけると、涙が止まりませんでした。「私はこういう星の下に生まれたんだから、ここで頑張らなきゃいけないんだ」。花を見てそう自分に言い聞かせ、奮い立たせていました。もの言わぬお花は、多くの言葉よりも私の心をいやしてくれる存在でした。

 ようやく会社が軌道に乗り始め、子育ても終わりに向かっているいま、自分のこの十数年の頑張りをほめてあげたいと思えるようになりました。自分へ贈るお花、というのもありでしょうか。

 トルコキキョウやバラなど、カーブで形づけられている花や、コデマリ、かすみ草、ランなどが好きです。赤やショッキングピンクなど生命力にあふれ、お花を見て「また頑張ろう」と思わせてくれるような花束を作ってもらえるとうれしいです。

花のない花屋

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PROFILE

東信(あずま・まこと)フラワーアーティスト

写真

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。http://azumamakoto.com

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