#明日何着よう

めざましい青色に惹かれて

  • 文・朝吹真理子
  • 2017年10月13日

mameのイメージカット

 好きな色はなにかたずねられると、「ブルーシートの青」だとこたえている。合成樹脂繊維を加工してつくられた強靱(きょうじん)な一枚の布。あらゆるところでみられる、安価で軽量な布。道ばたに敷いたり、雨漏りを防いだり、土砂を覆ったり、事件が起きたときには、隠す布としても用いられる。忍者が使う隠遁(いんとん)術の布と違って、ブルーシートは、布のむこうに何かある、ということがすぐにわかる。遠くからでもすぐにわかるほど強烈に青い。空や海の色に近く、景観を損ねないことで青の顔料が選ばれたと読んだことがあるが、都会、山川草木、海浜、いずれの場所であっても、なじんでいるのをみたことがない。空を模しているとは思えない、異様な青さだと思う。

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 花見のころになると、公園のいたるところにブルーシートが敷かれている。桜をもっと愛(め)でられるように筵(むしろ)や緋毛氈(ひもうせん)を敷いてほしいという声をきく。その気持ちはよくわかる。それでも、私は人工色のめざましい青が、春の日射(ひざ)しのなか唐突にあらわれるのも好きだ。ブルーシートの青さに惹(ひ)かれているのは、自然を模しながらも自然界から切り離された色に出くわしてしまう驚きにある気がしている。何度みても戸惑う。目の前にぶつかってくるような色をしている。摩耗して染まっていない白い繊維が飛び出ているさま、フェンスに吊(つる)されたブルーシートが風に揺れるとき、縒(よ)りの強そうなごわついた音をたてて、光に反射しているのも、美しいと思う。

 先日、mameの2018ss展示会に行ったとき、光を含んだ青色のドレスがラックにかかっていた。コレクションのイメージカットには、風に揺れているブルーシートの写真があった。青色のドレスが、ブルーシートのイメージで作製されたのかは知らない。ただ、そのドレスは、光を浴びて揺れているめざましい青色を想像させた。イメージが、そのままドレスになっている。肌があいまいに透ける袖がフレアになったドレスだった。私は、はじめて纏(まと)いたい青色をみつけた。(作家)

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PROFILE

朝吹真理子(あさぶき・まりこ)

1984年、東京生まれ。 2009年、「流跡」でデビュー。2010年、同作でドゥマゴ文学賞を最年少受賞。2011年、「きことわ」で芥川賞 を受賞した。

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