インタビュー

ツレヅレハナコ×大平一枝対談1「食いしん坊な台所のヒミツ」

  • 2017年10月4日

 夏の終わり、晴れた日の午後。&wの人気連載「東京の台所」筆者の大平一枝さんと一緒に、ブログやtwitter、インスタグラムで人気の“食いしん坊編集者”、ツレヅレハナコさんのご自宅にお邪魔しました。ツレヅレさんと大平さんは、東京の台所の記事「人気フードブロガーの恋愛とごはんと明日の夢」の取材以来、互いの家を行き来して、おいしいお酒を一緒に飲む間柄。今回も、お二人はツレヅレさんの新著『ツレヅレハナコの食いしん坊な台所』をサカナに、お酒もないのに食べものや道具の話で盛り上がりっぱなし。その台所談義を、2回に分けてご紹介します。

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大平 この本を読むと何か飲みたくなるっていうか、ビール飲みながら台所で一人焼き肉するところが出てくるんだけど、読んでてすごいびんのビール飲みたくなって。酒屋さんに電話してハートランド1ケース頼んじゃいました(笑)。

 まず、一番感動したのが、最初の「毎日の気楽な道具たち」のトップに出てくる穴のあいた「せいろ用の蒸し板」。こんな道具があるんだっていう。これ、昔からあるの? すごい便利だなあと思って。

大平さんが最も気になった台所道具、せいろ用の「蒸し板」(撮影・キッチンミノル)

ハナコ 便利ですよー。これで、毎日のように食材を蒸しています。これがあると専用の湯沸かし鍋がいらないんです。あれが場所を取るでしょう。これは革命的だなと。

大平 そうそう、何が面倒ってあれが面倒なんですよね。私一時せいろにはまったことがあったんだけど、あの鍋が面倒くさいから、結局いま使ってなくて。あと、それで作ったぎゅうーって並んでるシュウマイね。ぽつんぽつんとおしゃれにじゃなくて、ぎゅーっと並んでいて、レシピもおいしそうだし、さらに肉はざくざくっと大きいブロック肉のほうがおいしいよ、とか書いてあるあたりがハナちゃんならではの情報で、やっぱりすごくいいなと思った。

ハナコ そう。手軽に食材をおいしくできるから、一人暮らしや料理初心者の人にこそ、「蒸す」料理はオススメです。

読んだあと、幸せな気持ちになる

大平 あと一番の感想はね、読後感が本当に幸せだったこと。知り合いに長い付き合いのカメラマンがいて、その人はもともと新聞記者を経て、社会派の写真を撮るカメラマンだったのが、あるときから食をテーマに変えたの。食べものの写真って幸せになるじゃないですか。撮ってる自分も、見る人も幸せになるって言って、その人がテーマを変えちゃったぐらいの大きい幸せ感、満たされる感、それと同じものがこれを読んだときにもあった。自分のスタンスで、幸せな料理のしかたとか、おいしいものがある生活をひたすらつづっていて、読んだあと幸せな気持ちになる。その人のことを思い出しました。

ハナコ ありがとうございます。実は「自分が台所道具にこだわっている」とは、さほど意識していなかったんですが、自分がなぜこれを買ったのかっていう理由はそれぞれあって、その紹介はできるのかなと。改めて自分が持っているものを一つひとつ思い返してみると、良くも悪くも偏っていて。

大平 うんうん、いい感じに偏ってていいなあと思って。

ハナコ 実は自分がすごくアルミっていう素材が好きだったんだなとか。

大平 いま? いま気づいたの? 書きながら気づいた? え?(笑)

ハナコ なんとなくそう思ってはいましたけど、アルミのバットや鍋が、本当に好きなんだなと。四角いアルミのバットって日本ではかわいいのがあまりないんです。丸いのも、マレーシアのドンキホーテみたいなところで買ったんですけど、変な三つぐらい重なってアジアにありがちなパッチパチのセロハンでパッキングしてあって、上にすごいダサいシールみたいなのが貼ってあって。でも形がめちゃくちゃかわいくて、軽いんですよ。なんだかそういう探してくる楽しさというか、ぜんぶに思い出があって。

大平 え、私、ここに台所の取材に来たときに、すぐにもう、アルミばっかりだなこの台所はと思ったの。

ハナコ そうですか……。なんかいいなって思うものがだいたいアルミなんだなっていうことに気づきました。このいま、アルミが身体によくないとか言われているご時世に(笑)

対談は、気持ちよい風が通り抜ける、ツレヅレさんの自宅リビングで

ハナコさんちのキッチンの魅力、間取りと「オープン収納」

大平 ハナちゃんのキッチン取材でまず覚えているのは、この間取りですね。私、間取り図をつまみにお酒飲めるくらい好きなんだけど、この2LDKに対してキッチンの占める割合、大きくないですか? 入って右手にキッチンがあって、吊り戸棚があって、広さとしては大きいなと。この間取りを選ぶっていうのは本当に人生の中で食が大事なんだな、ってまず入ってきて思った。あとオープン収納って、ほこりがたまるし、よっぽどお掃除をできるこまめな人じゃないとなかなかできないってみんな思いこんでるし、私も思ってたけど、これだけ絵になるオープン収納って、本当に使ってる人のオープン収納なんですよ。オープン収納ってこれでいいんだって思った数少ないケース。

ハナコ そうですか。うれしいです。意識的に整頓するようになったのは最近です。よく使う道具たちは、なるべく見えるように収納してます。

大平 オープン収納は、取材すると、みんな「見せる収納」なんですよ。飾ってるの。すてきな鍋とか、すてきな瓶に入った梅干しとか。でも「見せる」と「オープン」って違うんですよ。ここは、使う人のオープン収納なのね。シンクの上に、立体的に積まれた調味料も含めて、生きてる感じがする台所。このキッチンが人に見せたいのか、自分で使ってる生きてる台所かはもう、瞬時にわかる。ぎりぎりの難しいところなんですけど。

ツレヅレハナコさん(お顔は非公開)。飲食関係の実用誌の編集者を経て、現在はフリーに。ツイッターもインスタグラムも、見ているだけで幸せになるおいしいものでいっぱい

「ミニマリズムは、形だけまねすると、つらくなる」

ハナコ 大好きな道具に囲まれるのが、最高の幸せなんですよ。今回わかったのは、そもそもうちは台所にものが多い家なんだなって。お皿は100枚以上で、へら系が15本ぐらい、おたまは8本ぐらいあるし、バットに至っては20枚ぐらい。なべもたくさんあるし。で、こんなにいらないんですよね、そもそも。でもなんでこんなに手元に置いておきたいんだろうって思うと、好きなものに囲まれるっていう純粋な楽しさとか幸せみたいなものが、人によっては洋服とかジュエリーかもしれないけど、私にとっては台所道具なんだなって。だからいまけっこうミニマリストというのか、ものを捨てたほうが暮らしが楽しくなるみたいにいわれますけど、もう何もないですみたいなのって、私はたぶんぜんぜん楽しくないだろうなと思って。

大平 うん、ミニマリズムって、形だけまねすると、つらくなる。本当に思想的に共鳴しないと、形だけまねても、絶対に幸せな気持ちにはならないですよね。

ハナコ そう。あれって、たぶん思想があった上での、結果的にものを捨てるということですからね。

大平 そうそう、でも私、この本には、台所とは、台所道具とはこうあるべき、みたいな思想が「ない」ところがいいなと思って(笑)。まあ自然素材がいいというのは基本あるじゃない。でもこれを読んで気づかされたのは、そういうことでもない、たぶん自分がその道具が好きで、使ってて楽しくて、ただ飾ってるだけのものはないんだよね、この中に、1個も。たとえ100枚お皿があっても全部使ってるし、スパイスに至ってもそうで。時々、「このスパイスを使ってる自分が好き」っていう人がいるじゃない(笑)。でもここでは全部本当に使ってて、私、サンショウがいつも困るの。うなぎとか、せいぜいサンショウのしょうゆ漬け作るだけで。だけど、この本の中で、天ぷらに塩と一緒に使っているのが本当においしそうで。

ハナコ そう、天ぷらにサンショウ塩は使いますね。あと豚肉焼いたのとかにもすごいかけてて、七味よりも断然、サンショウのほうが出番が多いし、もっとサンショウをみんな使えばいいのになってずっと思ってます。

大平 もちろんハナちゃんは薬味のレシピ本を出しているくらいだからそうなんだけど、サンショウというのがシンボリックな話で、要するにそれを使っている自分が好きじゃなくて、ああいうものでさえ、生活の中でうまく使えているっていうことなんですよ。読みながら、あ、天ぷらなら私もできるって思えた。道具にしても、そういうことだと思うんです。

ハナコ この本にもちょっとは実用面もあったということですね(笑)

大平 いや、すごいありましたよ。

大平一枝さん。取材でツレヅレさんの台所を訪れた瞬間、「これは人生の中で食が本当に大事な人の台所だ」と思ったそう。ツレヅレさんのお話は、連載に大幅加筆した著書『男と女の台所』にも収録されている

「台所で一人焼き肉」の始まりは……

ハナコ でも私、実用誌の編集者を結局16年ぐらいやっていたので、もう本当に何か実用情報を紹介しなくては記事ではない、という感じでずっとやってきたから、職業病みたいなものですね。だから最初は実用書じゃない、こんなエッセーみたいなのでも大丈夫なのかなって。

大平 そういう役に立てるものを書ける人はいくらでもいて、そうじゃない、ツレヅレさんの世界っていうのが、ここでは本当によく出てるし、たまに高いものもあるけど、ブランド名でも作家名でもなくて、自分の生活になじむもの、楽しくしてくれるものが、私の場合にはこんなにあるよ、あなたはどう? っていう本じゃないですか。その考え方を売っているんですよね。

ハナコ そうですね。私、台所で何か長い時間を過ごすっていうのがまったく苦痛じゃなくて、さっきの、台所で一人焼き肉も、その延長線上で、もともと最初はアヒ-ジョをやりたいって思ったんです。でも、この本でも訪ねていったくらい大好きな、鋳造作家の成田理俊さんのフライパンでやろうと思ったら、あっという間に冷めちゃうんですよ。何とかぐつぐつしながら食べる方法はないものかって思ったら、あ、そうか、コンロに乗ってるときが、一番おいしそうなんじゃない? じゃあここで飲めばいいんだって、イスもあるし、みたいな感じで飲み始めたのが最初で、それが楽しくて、どんどんエスカレートして焼き肉になって。で、せっかく家でやるから、薬味が好きだから、たまたま家にミントがあって、カルビって脂っこいから、あ、カルビとミントってどうかなって巻いて食べたら、めちゃくちゃおいしくて、そこから薬味の本は始まりました(笑)。

大平 何か、こうじゃなくちゃいけないっていうのがないもんね、ああこんなにたくさんかけちゃっていいんだ、とか。

ハナコ いままでレシピ本4冊出してるんですけど、私、あまり「レシピ本を作る」という意識では作ってないんだなと、すごく思いました。もちろん実際に載っているのはレシピなんだけど、そのテーマの楽しみ方とか、お弁当だって自分用の弁当だったら好きなおかず一品でもいいんじゃないかとか、おつまみも一人で食べるおつまみだったら、別にただ焼いただけでも十分おいしいよねとか、チーズトーストにパクチー載せてもおいしいよねとか、ちょっと視点を変えたら十分おいしいとか、自分は別にレシピを紹介したいわけじゃなくて、考え方を紹介したいんだなと。

大平 うん、考え方だよね。楽しみ方というか向き合い方というか。

後編:調味料のお話に続く~10月9日公開予定です)

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>>後編「“アジア帰り”の台所が熱いヒミツ」へ

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■ツレヅレハナコ
寝ても覚めても、おいしい料理とお酒のことばかり考えている編集者。東京都中野区生まれ。お酒とつまみと台所道具がある場所なら、日本各地から世界各国まで旅をし続ける。
著書に『女ひとりの夜つまみ』(幻冬舎)、『ツレヅレハナコのじぶん弁当』(小学館)、『ツレヅレハナコの薬味づくしおつまみ帖』(PHP研究所)。
食や日常を綴るtwitter(@turehana)、Instagram(turehana1)も更新中。

■大平一枝(おおだいら・かずえ)
長野県生まれ。失われつつあるが失ってはいけないもの・こと・価値観をテーマに各誌紙に執筆。&w人気連載「東京の台所」を書籍化した著書『東京の台所』『男と女の台所』(平凡社)のほか、『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『あの人の宝物』『紙さまの話~紙とヒトをつなぐひそやかな物語』(誠文堂新光社)、 『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)、『日曜日のアイデア帖~ちょっと昔の暮らしで楽しむ12か月』(ワニブックス)、『昭和ことば 辞典』『かみさま』(ポプラ社)ほか多数。HP「暮らしの柄」

BOOK

写真

ツレヅレハナコの食いしん坊な台所(洋泉社)
ツレヅレハナコ・文 キッチンミノル・写真

インスタも大人気! ツレヅレハナコの初エッセイ。
ツレハナにとって自宅の台所は、
日本で購入したものから海外で出合ったものまで、
「使っていると楽しい道具」が集結する、
家の中でいちばん、心地いい場所。

本書は、そんなツレハナの台所道具の楽しみ方や使い方のほか、
毎日の料理に使っている調味料や香辛料のこと、
バリエーション広がるレシピのアレンジ法など、
キッチンライフが楽しくなるヒントが満載。

本書中に登場する料理のレシピ、道具のリスト、
そして愛用する鍛鉄フライパンの作家・成田理俊さんとの対談も収録。税込1620円

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