インタビュー

ツレヅレハナコ×大平一枝対談2「“アジア帰り”の台所が熱いヒミツ」

  • 2017年10月9日

ツレヅレさんが世界を歩いて集めた「魔法のお皿たち」。旅のスケジュールには、必ずその国の「陶芸の町」を入れているそう

>>対談1「食いしん坊な台所のヒミツ」から続く

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大平 それにしてもこの本、ウズベキスタンの“国民皿”とか、ポルトガルの露店で一目ぼれして買った「スープ好きだったおばあさん」の鍋とか、海外のいろいろな国のすてきなものが出てきて、しかも、一つひとつがハナちゃんの思い出に直結してるから、ほしくても手に入らない(笑)。でも、そこがいいの。

ハナコ そもそもそんなものほしいかどうかっていう問題はあるんですけど(笑)。でも表紙に出ている、タイで買ったアルミの両手鍋なんかは、現地の厨房をのぞくと、何でもこういうアルミ鍋で料理をしていて、その鍋に入れたまま売ってるんです。だから旅行中に味わったいろんな「舌の記憶」と「アルミ鍋」が直結してる部分があるんですよね。

タイで7年ほど前に買ったアルミ両手鍋(撮影・キッチンミノル)

大平 だから、これ読んでるとすごく旅に出たくなって。次に行くのはタイかトルコって決めてるの。台所の取材で、すごく大きな特徴が1個あって、トルコに行った人って異常に熱いんです。台所を訪ねると、様子や印象が普通の台所とは全然違うの。その人の台所の印象がハナちゃんちの台所の印象と一緒。一緒っていうか、「違う感」が一緒。これ普通の日本の台所じゃないなって。で、もう半分トルコなんですね、頭の中が。

ハナコ そう、トルコ人もすごく台所を大事にする生活文化があって。「料理に手間ひまをかける」ことが、なによりおいしくなること、人をもてなすことなんだっていう考え方の国なんです。だから、わりと面倒くさい料理が多い(笑)。たとえば「マントゥ」っていうトルコ風の餃子なら、生地から作るのは当たり前。それを、とても小さなサイズの皮にのばして、爪の先みたいな量の具を入れて何百個もひたすら包む……気が遠くなりますよね。それをゆでて、ヨーグルトとトマトソースをかけて食べる料理なんですけども。

大平 おいしいですよね~。トルコ料理。

ハナコ すごいおいしいんですけど、いまは市販品もあるのに、トルコでは近所のお母さんどうしで集まって、おしゃべりしながらそれを作る。だからマントゥの日は、そのへん向こう3軒みんなマントゥみたいな。でもその日のこととか、家族のこととか、旦那のグチとか、そういうのをみんなべらべらしゃべりながらばーって作って、みんなで分け合って、じゃーねって帰るっていう、その手のかけ方を楽しんでる。そんな人たちなので常に台所にいるし。

大平 道具も代々受け継ぐみたいなね。

ハナコ そう。特に田舎の方に行くとすごいですよね。豪華な台所じゃないんですけど、やっぱりそのお母さんたちがずっと使ってるんだろうなって思わせる道具が、そこかしこにあって、そこに一番ひかれるんです。プラスチックの洗面器とかをボウルに使ったりしてる。

大平 ああ、ベトナムとかもそうだよね。ミント洗ったりね。

ハナコ そうそう、野菜洗ったり、挽き肉こねたりとかしてて。粉ものをすごく作る国なので、でっかい洗面器に小麦粉入れて卵入れて生地練ってたりとか、そういうのがすごくいいなぁと思って。日本だとなんかどこそこのブランドもののボウルがすてきみたいな感じの世界があって、確かにすてきなんですけど、お母さんたちは「洗面器のほうが軽いし割れないよ、色もかわいいじゃない?」とか言ってて。しかも変な花柄のプリントがついてて、これ生地に練り込まれないのかなとか(笑)。そういうおおらかさも好きだし。はげてるプリントもいとおしいというか、この家のボールはもうこれなんだなって。

大平 なんかこれでいいんだ、っていうね。

ハナコ そうそう。それで実際便利だと思ってるんだなっていう。そういうのが外国に行くといっぱいあって、なんていうかどんどん、肩の力が抜けてくる。私は道具も食器も、ほとんど作家ものって持っていなくて。でも雑誌の料理記事を編集する仕事をしていたから、撮影でスタイリストさんが用意してくれるものはさんざん見ているんです。もちろん、とてもすてきだなとは思うんですよ。でも、いざ自分の手元に置きたいものとなると、そればかりでは、どこかものたりない。どちらかといえば、自分が「面白いな」と思ったものを優先して買っています。すでに価値が定まってるものは、もう私が探さなくてもいいのかなというか、あまり関心がないんだなということに改めて気づきました。

家にいる時間の大半は台所にいるというツレヅレさんと、150軒以上の台所を取材している大平さん。果てしなく話が広がる2人に共通しているのは、「台所って、楽しい場所」という深い台所愛

アジアに行った人にとって、一番大事なこと

大平 台所の取材をしていると、特にアジアだよね、やっぱり南インドとか、トルコとかに行ってる人って、ヨーロッパに行った人とは違う影響受けてるよね。食とか家族観、母親のポジションとか、食が人生の中でどういう存在なのかっていうことを、影響を受けて帰ってきてるひとが多い気がして。それはハナちゃんも気づかないうちに、洗面器がいいっていう、形じゃなくて、たぶんそこに流れてるスピリッツっていうか、一番大事なことはおいしいことっていうのが完全にあるから。お母さんが幸せに、洗面器であろうと、おいしいものが作れたらそれが一番すてきっていうのがわかってるから、そのツールに、道具に惚れるんですよね。

ハナコ そうですね。それはまあたぶんそういう意味では全部つながってるんだろうなっていう気がしますよね。そんなにしっくりこないものは手に取らない。鋳造作家の成田理俊さんのフライパン、私四つ持ってるんですが、本の中で成田さんと、「いい道具って何だろう」って話をしたんです。「自分のフライパンはどういう風に使ってほしいですか」って聞いたら、「誰が作ったからっていうよりは、つい手に取っちゃうみたいな存在でいたい」っておっしゃっていて、確かにその通りだなって。

大平 わかります。つい、手に取っちゃう。

ハナコ そうそう、成田さんのフライパンはもちろん作家ものなんですけど、何の名前もなくても絶対に手に取るだろうなって。まず買うし、家でもいま本当に毎日使ってるんですけど、そういう使いやすさがあって。考えてみれば、家にある道具も、つい使っちゃう、つい手に取っちゃう道具しかない。優先順位がはっきりしてるっていうか。ま、それにしてもターナー15本はいらないよねって思うけど(笑)。でも1本1本ちょっと違うんだよなっていう、それぞれ理由があって。

大平 そうね。薄さとか、形とかね。

ハナコ そうそう。だからムリして減らさなくてもいいかなって。

大平 本に出てる、来客時御用達のワイングラスだって、リーデルみたいだけど、違うんでしょ?

ハナコ 100均で買ったんです。これを出すと「あ、リーデルでしょ、私も使ってる」っていわれるけど、あ、違うんです、100均で売ってますって言う(笑)。

大平 そう、私この本で好きなのは、お酒のところで、「グラスは100均のものでいい」って言ってること。これあんまり言ってる人いなかったんじゃないかと思うんだけど、酔っ払ってるとみんな、グラスって割っちゃうのよ、確かに。だからリーデルで出したりすると、もうヒヤヒヤしちゃって、こんなヒヤヒヤする酒イヤだって(笑)。「割っちゃうのにどうして高いの使うの?」って、これ、本当にお酒を好きな人が書いてるなあと。そういう率直さが出ていてよかった。

家で飲むときは「いろんなパターンの味を食べながら飲みたい」というツレヅレさん、「ぜんぶしょうゆ味とかがいやなんですよ。しょうゆ味と塩味とみそ味と、ナンプラー味……とか、調味料から何を作ろうかなって思うこともけっこうあります」

キッコーマンにまさる、しょうゆなし!

ハナコ 一応、昔は持ってたんですよ。「安いワインも、いいグラスで飲むとおいしくなる」と聞いて、張り切って何回か買いました。「やっぱり、ぜんぜん香りが違うよね~」とか言ってたんですけど、それも割ってしまえば元も子もなくて(笑)。ひやひやしたくないし、しょうがないなと。いいグラスは外で楽しもうと割り切ることにしました。
 結局、調味料もそうなんですよね。この前も「愛用の調味料教えてください」って言われたんですけど、うちのしょうゆ、キッコーマンの「しぼりたて生しょうゆ」なんです。

大平 私、あれもいいと思った。あれも、あえて言ってる人はいないですよね。でも、この酸化しにくいパッケージ、よくできてるよね。

ハナコ すばらしいですよ。日本の企業努力とはっていう、ほめたいぐらいすばらしいなと。

大平 だって、古式じょうゆとか、高いからね。おいしいけど。

ハナコ そう。結局、油も調味料も、鮮度なんだなって。新鮮なうちに使うことができなければ、どんどん酸化してまずいものになっていく。それでは、どんなにおいしい調味料でも意味ないですよね。それを考えていくと、キッコーマンにまさるものはないし、そもそもがキッコーマンだって十分おいしいし。大手メーカーにしかできないことってあるし。そういう良さみたいなものを見逃さないようにしていきたいなって。やっぱり両方いいじゃん、みたいな感じがあるかな。

大平 その視点は他の人にはないかも。100円ショップもキッコーマンの良さについても。みんなうっすら思ってるじゃん、キッコーマンとかすごいなって。あの容器でしょ?

ハナコ 膨大な研究開発費をかけて開発しているのに298円とかですもんね。しかも「卓上用」とか、いろんな形があったりするのもいじらしいじゃないですか。そういうところも好き。

大平 だってしょうゆって毎日のものじゃない? 切らしたらすぐ買いに行けないじゃん、お取り寄せだと。キッコーマン、おいしいしフレッシュだし、はかりやすいし。

ハナコ まさに切らしたときにすぐに買いに行けるものがいいなって。基本の調味料は、しょうゆとかみりんとか。それがまあ別に全部スーパーじゃなくていいんですけど、一番近くのちょっと高級なスーパーとか、そのレベルのところで買えるものがいいなって。オリーブオイルとかもね、いいスーパーで一番高い、自分がおいしいと思うぐらいの。もちろん、上を見ればいくらでもおいしいものはあるけど、毎日使うんだったら、そういうのがいいかな。

子どものころから「ナンプラー好き」でした

大平 なんか肩の力抜けましたね、この本読んで。あ、これでいいんだっていう。それかもしれない。あと、調味料はサシスセソより、「ナ」と「ヌ」が好きっていうのも面白かった。

ハナコ ナンプラーとヌクマムですよね(笑)。それはもう昔っから好きで、さっきのしょうゆの酸化の話とつながるんですけど、おしょうゆをあまり使わない生活だったんです。だから減らないから酸化しちゃうっていうジレンマもあったんですけど、ナンプラーが大好きすぎて。

大平 いつから好きだったの? 

ハナコ 子どもの頃から好きでしたね。実家がアジア大好きな両親だったので、わりとアジアに家族でひょいひょい行くことが多かったんですよ。うちにもありましたね、ナンプラー。20代のころはベタにエスニックなもの、生春巻きのたれとかに使ってたんですけど、やっぱり卵かけごはんにナンプラーをかけ始めたのが最初のきっかけだったかな。たぶん苦手な人は絶対ダメなんだと思うんですよ。生の卵に、生臭い調味料だから(笑)。私はそれがすごい好きで、「あれ? 卵かけごはんにかけられるんだったらほかにも」って、冷や奴とか、刺し身につけ始めて。さらに「酸味と組み合わせると、何にでもいけるなこいつ!」みたいな感じになって……。レモンとナンプラーを刺し身につけるとかをすごいやるようになったから、まあどんどん減るんですよね、ナンプラーが。だからすごい大瓶で買って、いまでも何にでもかけてます。スープ類の味つけもだいたいナンプラー。

大平 ナンプラーって加熱すると味が薄くなる気がするんだけど。

ハナコ 香りが飛ぶんですよね。でも味だけは残ると思います。単純な塩味じゃないうまみが残るっていうか、うまみのある塩味になる。一番いいのは鶏がらチキンスープに、ナンプラーと粗びき黒コショウ。よく作るんですけど、ものすごいおいしい。

「出てくるもの、全部ほしい……」とつぶやく大平さん

ほしい道具は変わる。でもそれでいいんだよ

大平 たぶん道具って、私もそうなんだけど、うちも家族4人で、だんだん子どもが大学卒業してみたいになってくると、ほしい道具が変わってくるのね。それは道具じゃなくて生活が変わるっていうことで、家族構成も変わるし、時間の使い方も変わってくる。
 前はもう絶対に圧力鍋がほしかったの。壊れても壊れても直して、もうこんなに便利なものはないって思ってたのに、いま気づいたら何カ月も使ってないの。もう家族4人揃わないし。そうすると今度いまほしいのはスキレットなのね。夫と二人でゆっくりちょっと食べるのにちょうどいいし、楽そうだから。スキレットごと食卓に置けるしね。

ハナコ 確かに。私も初めて一人暮らしをしたアパートの台所は、一畳ぐらいの小さなスペースでした。でも、料理をするのは本当に楽しかったなー。だんだん道具が自分になじんでくるし、友だちがくるとなれば狭い台所ではりきって料理を作りまくってました。

大平 そうそう。そしてまたハナちゃんの10年後の台所もまた変わっているだろうし。だから道具ってその時のその人の生活とかライフスタイルがあらわれているから、逆にこれでなきゃいけないってものはないのよね。いまあるあなたの時間の中で使えるものは、人それぞれ違うはずで。だからほしい道具も変わる。でもそれでいいんだよって、たぶんこの本がいってくれてるの。

ハナコ 道具でいうと、タイやベトナムで買った鍋はかなりいい感じになってきたし、ポルトガルで買った鍋なんてもはやアンティークですよ。若い頃は新しい道具が好きで、こういう古びるほどに味わいが出るような「育てる系」の道具って苦手だったんですけど、最近は「道具と一緒に歳を取っていこうかな」と思うようになりました(笑)。

大平 うん、台所道具って、見ながら自分のことを振り返れるから面白いのね。

ハナコ だからこれを読んで、台所の道具ってバラバラでもいいんだな、自分の好きなものをそのときに買えばいいんだなとか。それこそビールを注文したくなったりとか、旅に出たくなったりとか、読者が何かちょっとやってみようかなって思えることがあったらうれしいなって思います。誰の台所にも、そこで料理をする自分を楽しくすることが必ずあるはずだから。私とまったく同じ鍋を買おうなんて思わなくていいし、ウズベキスタンに皿を買いに行けっていう話でもない。なんだか、ちょっとそういうのじゃない台所の楽しみ方が伝わったらいいな、って思っています。

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■ツレヅレハナコ
寝ても覚めても、おいしい料理とお酒のことばかり考えている編集者。東京都中野区生まれ。お酒とつまみと台所道具がある場所なら、日本各地から世界各国まで旅をし続ける。
著書に『女ひとりの夜つまみ』(幻冬舎)、『ツレヅレハナコのじぶん弁当』(小学館)、『ツレヅレハナコの薬味づくしおつまみ帖』(PHP研究所)。
食や日常を綴るtwitter(@turehana)、Instagram(turehana1)も更新中。

■大平一枝(おおだいら・かずえ)
長野県生まれ。失われつつあるが失ってはいけないもの・こと・価値観をテーマに各誌紙に執筆。&w人気連載「東京の台所」を書籍化した著書『東京の台所』『男と女の台所』(平凡社)のほか、『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『あの人の宝物』『紙さまの話~紙とヒトをつなぐひそやかな物語』(誠文堂新光社)、 『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)、『日曜日のアイデア帖~ちょっと昔の暮らしで楽しむ12か月』(ワニブックス)、『昭和ことば 辞典』『かみさま』(ポプラ社)ほか多数。HP「暮らしの柄」

BOOK

写真

ツレヅレハナコの食いしん坊な台所(洋泉社)
ツレヅレハナコ・文 キッチンミノル・写真

インスタも大人気! ツレヅレハナコの初エッセイ。
ツレハナにとって自宅の台所は、
日本で購入したものから海外で出合ったものまで、
「使っていると楽しい道具」が集結する、家の中でいちばん、心地いい場所。

本書は、そんなツレハナの台所道具の楽しみ方や使い方のほか、
毎日の料理に使っている調味料や香辛料のこと、
バリエーション広がるレシピのアレンジ法など、
キッチンライフが楽しくなるヒントが満載。

本書中に登場する料理のレシピ、道具のリスト、
そして愛用する鍛鉄フライパンの作家・成田理俊さんとの対談も収録。税込1620円

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