このパンがすごい!

おいしさのための一工夫、食べるととにかく「すごい!」パン/コーデュロイ

  • 文・写真 池田浩明
  • 2017年10月10日

■コーデュロイ(東京)

 オープンキッチン、大きな窓、角地。開放感たっぷりの店内から、商品ごしに隣の公園が見えている。焼きたてのパンと子供たちと。なんと幸せな風景。

 ニューウェーブなラインアップ。一見してどんなパンだかわからないけれど、食べるととにかく「すごい!」とわかる。

 さつまいものダイスを入れた「おいも」の未体験食感。ふにゃふにゃであり、ふにふにふにと無抵抗にちぎれ、あっけなく霧消する。ダブルの甘さ。ダイスが甘く、生地もまたさつまいもの甘さに彩られていて、相乗効果で想定外の広がりを見せる。まるでスイートポテトがパンに取りついたかのように。

 小麦粉に対し120%の牛乳、さらに150%のさつまいもを混ぜ込む。こんなに副材料の多い生地をどうやってパンにするのか。

「生地はどろどろですけど、牛乳をたくさん入れることによって締まってきて、だんだんつながってくるんです。型で焼くことも生地を上に上げるための補強になっています」

 と山本一歩シェフ。スライスして食べてほしいという。小型の食パンのような形。スライスすると、ふにゃふにゃの断面が出てくる。それが舌にのったとき、とろっと甘く溶ける快楽ゆえだ。

 おいしいパンを作るための一工夫。それがコーデュロイの語源となった師匠の教えだという。

「『いまとまったく同じ配合でフランスパンをおいしくする方法を考えてください』と言われて。ぜんぜんわかりませんでした。答えは『畝(うね)』を作ること」

 説明が必要だろう。成形したバゲット生地の発酵をとるとき、キャンバス地(コーデュロイ)の上に置く。そのとき畑の畝のようにしわを作り、生地と生地の間に仕切りをする。なんでもない習慣のように見えていたそれこそ、だれそうな生地を上に持ち上げる支えになっていたのだ。

「普通すぎて気にしていなかったことだけど、畝を作ったら、パンががらっと変わった。そんなコーデュロイ(一工夫)をいつも忘れないようにしよう、という気持ちから店名にしました」

クロワッサン

 クロワッサンが飛ぶように売れていく。なんとも気持ちのいい、乳酸菌的な甘い香り。なんでこんなに鮮烈な香りなんだろうと思ったら、そこにも一工夫があった。

「凍結バターを使っています。一般のバターのように、冷蔵・解凍を繰り返していないので、鮮度がいい」

 あまりに繊細でトングで持つと皮が壊れてしまう。大事に手で口に運ぶ。トンボの羽のように透き通った皮が、はらはら舞いながらこぼれていく。その下の中身のもっちりさ、やわらかさは真綿を噛(か)むかのよう。極上のバター感。やがて、はちみつの芳香がにじみでてくる。食べ口が軽く、一個があっという間。

 夜中にシェフ一人、クーラーをかけまくって部屋の温度を下げ、バターを溶かさずクロワッサン生地を折る工夫。発酵も低い温度でゆっくり時間をかける。

チーズと平田牧場三元豚サラミのパリモチ(ケサディージャ風)

 これがパン? という巨大な円盤形。チーズと平田牧場三元豚サラミのパリモチ(ケサディージャ)は、2枚の小麦せんべいの間にサラミがはさまる。ばりばりと派手にはじけると、小麦の香ばしさがしてくる。割れたとたん、チーズが、サラミが、旨味(うまみ)や風味を染みださせ、小麦と抜きつ抜かれつの猛レースを繰り広げる。振り塩が実に効果的で、舌に触れるたび味を燃え上がらせ、悶(もだ)えるようなじわじわ感を演出。ビールを飲みたくなるスナック感覚。

 メキシコのソウルフード「ケサディージャ」(トルティーヤでチーズなどをはさんだもの)のラフさを表現するため、機械でなく、あえて1枚1枚麺棒で伸ばす。そこにまたまた一工夫。麺棒を決して往復させない。見えないグルテンの向きを、一方向にそろえてからませないから、食べたときの歯切れが生まれるというわけ。

 他にもあっというパンがいろいろあるが、紙数が尽きた。皮が薄く、食べやすいパンができやすいというコンベクションオーブン(熱対流式のオーブン)から、今日も「コーデュロイ」たちが焼きだされていく。

外観。隣りは公園

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■コーデュロイ
東京都江戸川区南篠崎町2-3-4 サンパークサイド1F
03-6638-8303
7:00~19:00 火・水曜休
https://www.facebook.com/corduroy.bakery/

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PROFILE

池田浩明(いけだ・ひろあき)ライター

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

BOOK

『日本全国 このパンがすごい!』(発行・朝日新聞出版) 池田浩明 著

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